第49話 最強バズ

 ブラッド・ハウンドを一撃で倒してから少し時間が経ち、場の雰囲気が落ち着いてきた頃、琴美が突然赤くなった頬を抑えながら涙目になった。


「ううっ、蓮夜くんのせいで傷物にされちゃった……」


 俺は呆れながら琴美を見つめる。

 自分でつねっていたくせに、何を言っているんだろうかコイツは。


 そう思っていると、コメント欄が先ほどを超える勢いで加速し始める。

 画面をチラ見すると、そのほとんどが俺に対する批判の声だった。



《ことみんに何してんだよ、この変態!》

《通報したわ。警察はよ》



 うん、やっぱり機械壊そうかな。


 などと真剣に悩んでいると、突如として琴美の態度が一変。

 冗談タイムが終わったのか、目を輝かせて身を乗り出してくる。


「それより、すごいよ蓮夜くん! こんなの、これまで見たことがないもん! 私もそんなのが使えたらな~」


 その熱心な様子に、俺は少し考えてから口を開いた。


「俺が横について特訓したら、今日だけでもある程度はマスターできるはずだぞ」

「ほ、ほんとに!?」


 雫の時も、錬成までは結構すんなりいけたしな。

 俺がそう思っていると、琴美は「そうだ!」といってカメラに向く。


「けど、みんなは修行なんて興味ある?」


 すると、コメント欄から熱烈な応援の声が上がった。



《ぜひ見たい!》

《ことみんガンバレー!》

《蓮夜先生、ことみんをよろしく頼む!》



「みんな、ありがとー! それじゃ蓮夜くん、よろしくね!」

「ああ」


 こうして、配信しながらの指導が始まることとなった。

 昨日のヴァンパイア討伐と、魔術の実力を見せたことで俺への信頼も深まったようで、序盤はほっこりとした雰囲気で進んでいく。


「よし、まずは魔力を意識してみろ」

「う、うん……こう?」

「そうだ、その調子だ」


 コメント欄には《ことみんの力になってあげてくれ~》といった声が溢れかえる。

 そう、――



 それからしばらく指導を続け、琴美はなんとか魔力錬成の基本を習得した。


「はあ、はあ、これが魔力の錬成……大変だったけど、確かに魔術の火力も上がったし、頑張った甲斐があったね。蓮夜くん、今日はありがとうね!」


 額に汗を浮かべながら、琴美が呟く。

 しかし言葉の最後がおかしい。その言い方だと、まるでこの程度で今日の指導が終わるかのようだ。


 だが、それでは全く足りない。

 俺は満面の笑みを浮かべると、琴美の肩に手を置いた。


「え、えっと、蓮夜くん? この手はいったい……」

「よし、なら次は変数の調整だ。魔力錬成から難易度は何倍も上がるけど、しっかりついてこいよ」

「えっ? ちょ、ちょっと待って、もう既に特訓を始めてから二時間は経っているんだよ? それはコラボ第二弾に回した方が――」


 琴美が慌てて制止をかけようとするが、俺は聞く耳を持たない。


「何言ってるんだ、こういうのはぶっ続けでやった方が効果が出るんだ。前回、他の奴に教えた時は半日程度で済ませたけど、それはレベルが30台だったからだし……琴美のレベルなら、一日以上ぶっ通しでできるよな!」

「い、いや、無理だから! それはさすがに無茶――」


 琴美の必死の抵抗も空しく、俺は意気揚々と続ける。


「それじゃ、続きに行こう!」


 特訓は容赦なく続いた。

 中盤からは、苦しみながら特訓する琴美を見た視聴者たちから批判の言葉が届くも全て無視していく。

 そして、その途中には――


「おっ、そろそろ暗界の吸血鬼ナイト・ヴァンパイア再出現リポップしてる頃だし倒しに行くか。もちろん、冥王化状態のを琴美が一人でな!」

「む、無理だってば――」


 琴美の顔から血の気が引いていくも、俺は強引に彼女を連れて最奥に向かった。

 始めは震える彼女だったが、なんとか勇気を振り絞り立ち向かっていく。

 一度は敗北した暗界の吸血鬼ナイト・ヴァンパイア(冥王化)や、暗界の蝙蝠ヴァンパイア・バットの群れに苦戦する琴美だったが――



「術式変換――【地を割るエクスプロード・落雷サンダー】!」



 最後には上級魔術の発動に成功するという感動的な展開も発生し、琴美はなんとか一人で暗界の吸血鬼ナイト・ヴァンパイアに成功する。

 その時の感動は、まさに一入であり……


「やったよ、蓮夜くん! 私、あの魔物に一人で勝てた……本当にありがとう。今日のことは絶対に忘れないから――」

「それじゃ、アドレナリンが出てるうちに次の特訓へ移るか!」

「――まだやるの!? もう帰らせてよ~」


 俺たちはその流れのまま、さらに仲良く特訓を続けていく。

 コメント欄の皆は琴美を案じ、俺への罵倒も飛んできていたが、終盤になると一周回ってテンションが上がり続け、どんどんと盛り上がっていく。



《ことみん、顔真っ赤だけど大丈夫?》

《もはや地獄の特訓やんけ!》

《蓮夜先生マジ鬼畜》

《でも、ことみんどんどん強くなってない?》



 そして、さらにその中には、



《ことみんの涙目最高! もっと責めてくれ蓮夜!》



 琴美の絶望顔に興奮し始める変態まで現れる始末。


 そんな風に、実利と娯楽に満ちた配信は拡散され続け、日本だけでなく海を越えた探索者たちへも届き始めていた。

 その結果、最終的に最高同接数が世界中で1000万人を超え、後にアーカイブ動画は1億再生を突破。

 配信からしばらく、俺と琴美は世界中の注目を集め続けることに。



 ――そして最後におまけとして。

 あまりのトラウマ特訓ぶりを見た結果、その後、日本における探索者志望者数が約2割も減少。

 そのことを聞いた蓮夜は「聞いてた話と違う!」と叫んだのだが、それはまた別の話である。


 ※ちなみに、一人一人の実力自体は増した。

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