第44話 バズった
俺の脳内に次々とシステム音が響き渡る。
『レベルアップしました』
『レベルアップしました』
『レベルアップしました』
『レベルアップしました』
『レベルアップしました』
『レベルアップしました』
『初回討伐報酬 【
その内容を聞いた俺は、こくりと頷いた。
「よし、問題なくゲットできたな」
操血魔術。
これは
攻撃特化の火魔術とは異なり、攻守に応用できる便利なスキルだ。
ちなみにこの報酬は挑戦者のうち、最もボス討伐に貢献したものに付与される。
戦闘開始時点からボス部屋にいないと挑戦者には含まれないため、わざわざ隠れていたという訳だ。
結果に満足しながら振り返ると、そこには呆然とした表情で座り込む琴美の姿があった。
「大丈夫か?」
「……はっ!」
声をかけると、ようやく意識を取り戻す。
「あなたはいったい……」
「神蔵 蓮夜だ」
「べ、別に名前が聞きたかったんじゃないんだけど……まあいいわ。それより、本当にボスを倒しちゃったの?」
「ああ、見ての通りだ」
「……やっぱり、夢じゃなかったんだ」
ようやく状況に理解が追い付いたのか、琴美は服についた埃を払いながら立ち上がる。
そして突然、「はっ」と何かを思い出したような反応を見せた後、わざとらしい笑みをこちらに向けた。
「えっと、蓮夜くんだったっけ。今回は助けられちゃったね、本当にありがとう!」
「どういたしまして」
「けどけど、嘘をついてたのは良くないんじゃないかな」
「何の話だ?」
心当たりがなかったので尋ねると、琴美はぷくっと頬を膨らませて答える。
「レベルのことだよ! さっき蓮夜くん、自分を54レベルって言ってたよね? そのレベルで今みたいな動きができるはずないことくらい知ってるんだから、騙されないよ!」
なるほど。どうやら琴美は俺がさっき、嘘の申告をしたと思っているらしい。
一応、ここは勘違いを正しておくか。
「確か、本人さえ望めばステータス画面は他人に見せられるんだったよな……」
「蓮夜くん、何か言った?」
「ほれ、証拠だ」
「えっ?」
身を乗り出してくる琴美に対して、俺はステータス画面を表示した。
――――――――――――――――――――
神蔵 蓮夜 20歳 レベル:60
職業:なし
攻撃力:206
耐久力:194
速 度:210
魔 力:222
知 力:222
スキル:上級魔術適性(火)Lv6、魔力凍結Lv3、操血魔術Lv1、鑑定
――――――――――――――――――――
ステータス画面をじっと見つめる琴美に、一応の補足を入れる。
「今の
「…………」
「どうしたんだ、ずっと黙って」
「……う」
「う?」
その直後だった。
「うそおおおおおぉぉぉぉぉ!?!?!?」
信じられないとばかりに大声を上げる琴美。
だが、驚いたのは彼女だけではなかった。
《やべえぇぇぇぇぇぇぇ!!!》
《うそだろ!?》
《レベル60!? マジで!?》
《明らかにCランクの動きじゃなかっただろ!?》
《ってかそのレベルでもう上級魔術を覚えてるのか!? しかもLv6!?》
《どんなバケモンだよ!》
《何で名前が知れ渡ってないんだ!? こんな探索者がいるだなんて聞いたこともないぞ》
《誰か、早く詳細を調べろ!》
俺の目の前で、幾つものコメントが勢いよく流れていく。
どうやらまだ配信は続いていたらしい。
しまったな、うっかり大勢の前で個人情報を流出してしまった……
「ま、いいか」
些細な問題だと頭の隅に追いやった俺は、琴美に話しかける。
「どうだ、信じる気になったか?」
「……こんなの、なるしかないよ」
「ならいい。俺はもう帰るがついてくるか?」
「…………(こくこく)」
まだ現実に思考が追い付いてないかのように、無言で何度も頷く琴美。
俺はそんな彼女を連れ、ダンジョンの外に向かうのだった。
◇◆◇
ダンジョンから地上に帰還した後、俺はまだ呆然としていた彼女を放置して帰宅した。
一応、連絡先だけは聞かれたので教えておいたが……
「ふー、今日は色々あったな」
『そうですね、主様』
風呂に入った後、何気なくスマホで動画サイトを開く。
すると、トップページに並ぶある動画が目に留まった。
偶然にも、それは先ほどまで顔を合わせていた琴美のアーカイヴ動画だった。
せっかくなのでそれを流してみる。
「………………」
琴美が運営する『コットンチャンネル』でも飛びぬけた再生回数を誇るその動画には、ある青年が映っていた。
青年は琴美がピンチに陥ったタイミングで登場し、そのまま多種多様な魔術を用いてボスを圧倒してみる。
その一連の流れが話題を呼び、どんどん再生回数が増えたようだった。
コメント欄では、青年の正体が誰かという話題ばかりとなっている。
その盛り上がりっぷりは、今日の配信にもかかわらず既に再生数が500万回を突破しているほどである。
というか、これは――
「完全に俺だな」
――こうして俺は想定外にも、ネットの海でバズってしまうのだった。
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