第29話 乗っ取られた少女

 ミツキと分かれてから、ダンジョンを探索すること約1時間。

 突然、バタバタバタと何やら忙しない足音が聞こえてきた。


「誰か、誰かBランク以上のシーカーはいないか!」


 そう叫びながら現れたのは、5人組の探索者パーティーだった。

 全員が疲労困憊かつ、かなり慌てた様子。

 何やら緊急事態みたいだ。


「何かあったのか?」


 少し気になったためそう尋ねてみると、先頭にいた男が反応する。


「俺たちはさっきまで隠しエリアに潜ってたんだが、モンスターに襲われて全滅しかけていたんだ」

「ここにいるってことは、無事に逃げ出せたんじゃないのか?」

「それが……俺たちを助けるため、別の探索者が足止めを買って出てくれて。だけど彼女がまだ戻ってこないんだ」

「ふむ」


 なるほど、それで助けを求めてたというわけか。

 しかしそうなると、他にも気になることが出てくる。


「Bランク以上を探している理由は? 隠しエリアとはいえ、この階層だとそこまで強いモンスターはそうそう出てこないだろ」

「逃げている途中に、レベル80の逍遥する排斥者ワンダーリング・ボスが現れたんだよ」

「あー、なるほど」


 確かに逍遥する排斥者ワンダーリング・ボスなら例外か。

 なんてったって魔王時代の俺が、挑戦者の想定を大きく上回る恐怖を与えるために配置したモンスターなわけだからな!

 ここにいる5人も、今回の経験をきっかけに更なる成長をしてくれるだろう。


 ――と、言ってやりたいのは山々なんだが。


 こいつの言葉を聞くに、どうやら足止めを買って出た探索者は逃げ切れなかったらしい。

 見たところ1人怪我人がいるようだし、それを庇ったなどの事情があったんだろう。


 そんな風に思案していると、男は続ける。


「アイツに太刀打ちできるとしたら最低でもBランク以上が必要なんだ。こんな中層にそんな実力者がいる可能性が低いのは分かってるんだが……それでも彼女をこのまま見殺しにはできない」

「その通りです! 私もまだ、あの人に助けてもらったお礼をちゃんと言えてません!」

「……ふむ」


 どうやら意思は固いみたいだ。

 探索者の中には自分たちの命さえ無事ならそれでいいという考えの者も多いだろうに、大した心意気だと思う。


 まあ、仕方ない。

 これも俺がいた種か。


「状況は分かった。その隠しエリアに連れて行ってくれれば、後は俺がなんとか――」


 なんとかしてやる。

 そう断言しようとした、その時だった。


 カツン、カツンと。

 何者かの足音が聞こえ、全員がそちらに視線を向ける。

 すると、


「ミツキ……?」


 たった1時間前に分かれた少女がそこにいた。

 さっきは帰ると言っていたはずだが、どうしたのだろうか。


 さらに気になる点として、ミツキは先ほどまでとは別の剣を手にしている。

 いったい何があったんだろうか。


「にしてもあの剣、どこかで見覚えがあるような……」


 必死に過去の記憶から捻りだそうとするも、残念ながら思い出せない。

 そんな風に1人で悪戦苦闘していると、


「っ、無事だったのか!」


 俺に助けを求めてきた男が嬉しそうにそう叫んだ。


「どういうことだ?」

「彼女が俺たちを助けてくれた探索者なんだよ! 無事に帰ってきてくれてよかった!」


 そう告げる男と同じように、安堵するパーティーの面々。

 そんな彼らとは異なり、俺はミツキの纏う雰囲気を見て、どこか違和感を覚えていた。


 すると、1人の少女が歓喜の輪の中から飛び出してミツキに駆け寄る。


「大丈夫でしたか? さっきは助けてくれて本当にありがとうございました。あなたも無事でよかった――」

「失せろ」

「――えっ?」


 刹那、ミツキの腕がブレた・・・

 恐るべき速度で剣が少女に目がけて振るわれ、刃が首元に吸い込まれていき――


「よっと」

「きゃっ!」


 紙一重のタイミングで、俺は少女を引っ張りその刃を躱した。

 遅れて、困惑するパーティーの面々。


「な、何が起きたんだ!?」

「その子がいきなり剣を振るったように見えたが……」

「どうして襲ってくるの!?」

 

 混乱中の5人に向かって、俺は確信とともに告げた。


「これは多分、体が乗っ取られてるな」

「「「なっ!?」」」


 俺の言葉を聞いて5人が驚きの声を上げると同時に、目の前にいるミツキの姿・・・・・をした何か・・・・・が「ククク」と笑う。


「ククッ、何者かは知らんがよく見抜いたな」

「誰だお前、ミツキの体をどうやって奪った?」

「語る必要などない。我の邪魔をする存在は、ここで排除させてもらおう!」


 そう叫びながら漆黒の剣を構えるミツキ(仮)。

 まさしく何が何やらという状況だが――



「とりあえずは、ミツキから出ていってもらおうか」



 そう告げると共に、俺は戦闘の構えを取った。

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