第3話 逍遥する排斥者(ワンダーリング・ボス)
レッドファング討伐後、自身のステータスを確認する。
するとステータスにはシステム音の内容が反映され、レベル、能力値、スキルがそれぞれ更新されていた。
「なるほど、こうして視覚的に自分の成長を確認できるってのはなかなかいいな。ダンジョンを潜るモチベーションにもなりそうだ。それに……」
視線を落とした先には【初級魔術適性(火)Lv6】と刻まれていた。
どうやら問題なく、求めていたスキルを入手できたみたいだ。
と、そんな風にいろいろと気になる点を確認していると……
「ん?」
こちらに駆け寄ってくる人影が複数存在していた。
小西たちだ。
「す、すごかったぞ神蔵くん! まさか本当に一人でレッドファングを倒してしまうとはあっぱれだ!」
「魔法を斬ったの、アレどうやったの!?」
「てかなんだよあの素人離れした動き! 特別速いわけでもないのに、敵を圧倒して……もしかして何か武術でもやってたのか!?」
矢継ぎ早に、称賛と質問の嵐が浴びせられる。
近い近い近い。
「落ち着いてください。そんなことよりも、他の新人たちの挑戦の邪魔になりそうなので、ひとまずここから離れませんか?」
「そ、そうだな、すまない。少々興奮しすぎていたみたいだ。さあ、他に挑戦したいものはいるか!?」
小西の問いかけに対し、なぜか希望者は一人も出ず、それどころか全員が勢いよく首を左右に振る。
いったいどうしたのだろうか。
そんな風に考えていると、小西が「はは」と小さく笑う。
「どうやら神蔵くんの戦闘を見て、怖くなったみたいだね。まあ仕方ないよ、万が一にもあんなモンスターと自分も戦うことになったら、と思えば挑戦する意欲もなくなるだろうからね」
「……むしろやる気が出るものでは?」
「ははは、神蔵くんは戦闘だけじゃなく冗談も上手いんだね。それより、君さえよければ何の報酬が与えられたか聞かせてくれないか?」
「はあ……」
冗談ではなく本音だったためどうにも釈然としないが、無理に掘り下げることもないか。
そんなことを思いながら、小西の質問に答える。
「貰えたのはスキルですね。火属性の初級魔術適性Lv6です」
その返答を聞いた小西たちは、一斉に大きく目を見開いた。
「……驚いた。魔術系のスキルというだけでも珍しいのに、入手時点でLv6とは。それは通常、一年以上シーカーを続けてようやく至るレベルだぞ」
「私でもまだ、Lv5が上限なのに……」
「まあ魔法を斬るなんて神業をやってのけたんだ、それだけ規格外の報酬でも納得だが」
彼らの反応を見るに、シーカーの一般常識からしても、このスキルは優秀な部類に入るらしい。
魔王大満足。
さっそく魔術を試してみたいところだが、今回 得られたのはあくまで適性。
普通ならこの後に術式を覚える必要があるだろうし、その工程を省いて魔術を発動するのはさすがに不自然だろうか。
色々と事情を説明するのも面倒だしな……
と、そんな風に考えていたのだが――
「せっかくだ、神蔵くん。ここで試しに魔術を使ってみたらどうだ?」
「? その前に術式構築の方法を学ぶ必要はないんですか?」
「術式構築? よく分からないが、適性スキルさえあれば後はシステムが魔術の発動を補助してくれるはずだ。火の初級魔術なら、まずは【
――これは驚いた。
それがこっちではシステムで補助までしてくれるとは。
一応これまでもダンジョン配信でシーカーが魔術を発動するところは度々見ていたが、その仕組みまでは興味がなかったので知らなかった。
「ふむ、こんな感じか……?」
小西の言葉に従い、改めて自分の中にある魔力に意識を向ける。
すると不思議なことに、今の自分が使うことのできる魔術が幾つも頭に浮かび上がってきた。
魔術名、効果、術式に至るまで、まさに至れり尽くせりだ。
「けど、これは――――」
決して見逃せない違和感を覚えた俺は、検証のためより深く思考の中に潜り込もうとする。
だが、それを食い止める出来事が発生した。
「きゃぁぁぁああああああああ!!!」
甲高い悲鳴。
発生源はすぐそこ。
【進呈の間】の入り口に立っていた新人シーカーの一人が、通路に指を向けながら恐怖に怯えた表情でそう叫んでいた。
彼女の視線の先を辿ると、その理由はすぐ分かった。
全身が赤黒い岩石で覆われた4メートル強の巨人が、ズシンズシンと地面を揺らしながら、ゆっくりとこちらに近づいてきていたからだ。
そのモンスターが放つ威圧感は、レッドファングのそれを大きく上回っていた。
『ゴォォォオオオオオオオオ!!!』
そのモンスターは立ち止まると、この世のものとは思えない雄叫びを上げてみせた。
「馬鹿な!?」
冷静に観察する俺の横で、小西が驚愕の声を上げる。
「アレは入門ダンジョンにおける
見ると、小西だけでなく他の先輩シーカーも例外なく険しい顔をしている。
新人シーカーたちは、全員が逃げ出すようにして広間の奥であるこちら側に駆け寄ってきていた。
「……ふむ」
それにしても、ワンダーリング・ボス――徘徊するボスキャラ、か。
俺はその存在に心当たりがあった。
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