第13話

「週末の約束」


 オリエンテーションが終わり、教室に戻って来た俺たちが自分の席に着くと同時に担任が教室に入ってきて、そのまま帰りのホームルームを始めた。


「え~と、今日から1年生が部活動見学に来るから、部活動に入っている生徒はちゃんと説明するように。それじゃあ日直、号令~」


 日直の生徒の号令で他の生徒たちが荷物を持って、それぞれの部活に向かって教室を後にした。俺も荷物を持って教室を出ようとすると、丁度荷物の準備ができた愛歌が荷物を持って俺の後を着いてきた。


「夢歩君!今日も一緒に帰ってもらえないかな?」


「え?俺は別に構わないけれど、詩音ちゃんは?一緒に帰らないのか?」


「本当は一緒に帰ろうと思っていたんだけど、しぃちゃん、帰ろうとしたらクラスの子に捕まってそのまま軽音部に行くことになっちゃったらしいの」


「そうなのか。それじゃあ、一緒に帰ろう」


「うん!」


 俺の返事に頷きながら小走りで隣に駆け寄ると、昨日と同じ様に手を繋いで教室を後にした。廊下に出ると丁度先に廊下に出ていた和人に出くわした。


「お、お2人さんもこれから部活か?」


「いや、悪いが今日はバイトでな。帰り道が同じだから一緒に帰らないかってなったんだ」


「おや、今日はバイトだったか。それならば仕方ない『あぁぁ~~~!!』っと、何だ!?」


 和人の話を遮る様に大きな声が聞えて、同時に凄い速さでこちらに向かって走って来る人物が見えた。


「沙織、廊下は走っちゃ駄目だろ?」


「そ、そりゃそうだけど!そうじゃなくて!!」


こちらに走ってきた沙織が興奮気味になりながら、今度は愛歌の方、正確には愛歌と俺の繋いでいる手を指さしながら口を開いた。


「な、ななな、なんで2人はて、ててて、手を繋いでいるのぉ?!」


「え、そこ?」


 沙織の驚きの声に思わず変な突っ込みを入れた和人を無視して、畳み掛けるように話し出した。


「な、なんで付き合っても居ない男女が手を繋いで歩いて居るの!?」


「あ、その話か。相川が方向音痴で手を掴んでおかないと、目を放した隙に行方不明になるって聞いているから、行方不明にならないようにするための対策だ」


「た、対策って!!そんなふざけた理由があるかぁぁ!!」


 顔を紅くしながら文句を言ってきた沙織を見て少し呆れ気味になりながら、興奮気味な状態で愛歌に食って掛かっていた。そんな沙織に対しても笑顔で微笑んでいる愛歌に思わず力が抜けてしまっていた。


 (何と言うか……、怒っている子供に対して優しく諭そうとしている大人の喧嘩を見ている気分だな……)


「―――って、ちょっと夢歩!どうしてちょっと笑っているのよ!?」


「え?あぁ~、何か大人と子供の違いを見ているような気がしてな……」


「は?誰が子供だってぇ!?」


 俺の発言にカチンときたのか、憤慨しながら今度は俺の元へと近づいて文句を言おうとしていたが、それを遮るように愛歌が申し訳なさそうに話しかけてきた。


「あ、あのぉ~、そろそろ帰らない?叔父さんに早めになるべく早く帰ってくるように言われているんだけど……」


「あ、そうなのか。それじゃあ早く帰らないと。和人、悪いけれど」


「あぁ、連中には俺の方から伝えておくよ」


「済まない」


 俺に手を上げて答えてきた和人に対し、礼を言ってから愛歌とその場を後にしようとしたが、沙織が待ったを掛けてきた。


「いやいや行かせないって!私も一緒に帰るから!!」


「おいおい、お前はこの後運動部の助っ人に行くんじゃなかったか?」


「うっ……!!や、休む!用事ができたって言って休ませてもらう!!」


「いやいや、それは流石に駄目だろ……」


 沙織の横暴的な発言に思わず呆れてしまっていると、沙織の背後から女子生徒たちが話しかけてきた。


「あ、居た居た!お~い、沙織!部活行こ~」


「ゴメン!今日休む!」


「えぇ!?ちょっとどうしたの!?」


「ちょっと急用ができたの!!だから休む!!」


「いや、それは駄目でしょ?!」


 沙織の横暴に驚きの声を上げた女子たちに駄々を捏ねている沙織を横目に、俺たちの隣に移動してきた和人に小声で挨拶をしてから愛歌と共にそそくさとその場を後にした。


 ☆


「それでね!その時に私がね———」


「確かにそうだったな」


 学校からの帰り道を一緒に歩きながら学校でのことを話していた。と言っても俺たちは同じクラスの為、正直話題としてはイマイチではと思うのだが……。


 (何でだろう?同じクラスで知っている話題なのに、何故か楽しく感じる……)


「あ……、もう着いちゃった」


「え?あ、あぁ。そうだな。じゃあ俺はバイトの準備があるから」


「あ……、ちょっと待って!」


 俺が考え事をしていると目的地であるお店に到着した。何処か残念そうにしている愛歌だったが、俺は早速バイトの準備を始める為にお店の中に入ろうとすると意を決したような表情で俺に話しかけてきた。


「?どうかしたか?」


「あ、あのね!ちょっとお願いがあるの!!」


「お願い?何かあるのか?」


「そ、その……!実はこっちに引っ越してきたばかりでまだ私生活で足りない物が合って、できれば今度の土曜に買い物に付き合ってほしいの!」


「……へ?」


 思わず素っ頓狂な声を零してしまったが、すぐに気を取り直して答えようとした。


「それは……」


 どうするべきか……。正直、余り関わり過ぎるのは如何なものだろうか。買い物ならば詩音と一緒に行く方が良いのでは?そう考えた俺は断ろうと思い断りの言葉を言おうとしたが……。


「……分かった。今度の土曜日、一緒に行こう」


「ッ!!うん!約束だよ♪」


「あぁ。それじゃあ」


 俺は喜んでいる愛歌に手を振って答えてから、店内に入ってバイトの準備を始めた。


 (あれ?俺どうしてさっき大丈夫って答えたんだ……?)


「……まぁ、良いか。さっさと準備しないと」


 脳内に浮かんだ小さな疑問を抱きながら……。


 ☆


「ふふふ……♪」


 部屋に戻った私はさっきの約束ができたことが嬉しくて、笑顔で鞄を机の上に置いてからも鼻歌を歌っていた。


「土曜は夢歩君と一緒にお買物~♪楽しみだなぁ~♪」


 鞄の中から教科書やノートを出して勉強机の棚に片付けると、机の引き出しの中から1冊の『ピンクのノート』を取り出して机の上に置いた。


「買物、楽しみだな~♪」


 ノートを開いたページに新しく書き込んだ私は早く土曜が来ることを楽しみにしながらノートを閉じた。

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