第7話 切ないポエム

 真っ白な折り紙を見つけた日から2日後。

 放課後の図書室には関係者の3人が集まっていた。


間瀬ませくん、一昨日おとといの帰り道で前のこと思い出せた〜?」

「はい、完全に思い出しました」

すいちゃん、可愛かったですよね」

「可愛いというか、ドジというか……」

「そういえば、あれから何回か図書室で見かけましたが、転ばなかった日は無かったですね」

「本当にドジね〜。でもそういうところが可愛いのよね〜」

「分かります」

「流石にもう間違えてないですよね?」

「それがちょっとまだ分からないのよ〜。あれからずっと図書室で読んでて借りてないの」

「そうなんですか……まぁそれが一番安全ですけど」

「そうね〜」

「それより、さっさと本題に入りましょう」

「あら、今日はやる気がすごいわね〜」

「早く帰ってゲームやりたいだけですよ」

「あっ、そう。じゃあ、謎解きの続きといきますか〜!」

「「はい」」


 綿谷わたやの掛け声とともに、今抱えている謎に話が移った。


「まずは一昨日起きたことを簡単に整理しましょう」

「「はい」」

「最初は謎の文字列が書いてあったメモがあったわね」

「その文字列は暗号になっていて、解読した結果、指示が書いてありました」

「その指示通りの場所を見ると、この白い折り紙が置いてあった」

「まぁそんな感じよね〜。あれから何か考えた? ちなみに、私は何も浮かばなかったわ〜」

「自分は特に考えてないです。ちょっとゲームで忙しかったんで」

「ゲームで忙しいって初めて聞いたわ。ちゃんと勉強してるの〜?」

「してますよ、ゲームの合間あいまに」

「普通逆よね」

「自分のことはいいですよ。利倉りくらさんはどうですか?」

「私は少しだけ気になることがあって、使うものを持ってきました」


 詩織しおりはそう言って、筆箱からある物を取り出した。


「こちらです」

「えっ、それってもしかしてブラックライトペン!?」

「はい」

「うわ懐かしい〜、今の時代もこういうのあるのね〜」

「真っ白な紙といえばこれかなと思いまして」

「確かにそれは可能性ありますね。全然浮かばなかったです」

「まぁ男子はあまり馴染みなさそうだしね〜」

「数年前に購入したのでインクは切れていますが、ライトは問題なく使えるのを昨日確認しました。では、間瀬君お願いします」

「いや、気付いたのは利倉さんなので、そのままお願いします」

「分かりました」


 詩織は真っ白な折り紙にペンを近づけてブラックライトを当てた。

 すると、透明の蛍光塗料で書かれた文字が、怪しげな光に照らされて片面だけに現れた。


「出ました」

「何て書いてあるの〜? もしかしてまた暗号?」

「別の紙に書きますね」


 詩織はランドセルからメモ帳を取り出して1枚切り取り、書き写して2人に見せた。



『わたしは白い折り紙です

 近くの色紙を捨てたとき

 派手の間に残ったものと

 同じ名前のあなたがいい

 でもこれは伝えられない

 最初から叶わぬ恋だった

 だからずっとこれでいい』

 


「横書きでこのように書かれていました」

「んー、よく分からないわね〜」

「なんかポエムみたいですね」

「あー、確かに〜」

「どなたか有名な方のものでしょうか?」

「どうだろ〜?」

「少なくとも自分は見たことも聞いたこともないです」

「私も〜」

「同じくです」

「まぁ普通にあの暗号を作った人が書いたと思いますけど」

「そうですね」

「今分かるのはこれが白い折り紙であることくらいね〜。近くの色紙しきしを捨てた時……あの本棚の近くに色紙なんてあった?」

「いや、無かったです」

「だよね〜」

「ここが分からないと次の文も分からなそうですね」

「そうね〜」


 3人は「うーん」と声を漏らしながら首をかしげている。

 そのまま数十秒ほど過ぎた頃、拓真たくまが思い出したように綿谷に質問した。


「あっ、そういえば昨日の蔵書点検の時に何か本に挟まってた、なんてことありませんでした?」

「無かったわね〜。手伝ってくださった事務の方々も特に何も言ってなかったし」

「てことは、本棚や机に何かない限り、謎はこれで最後かもしれないですね」

「この謎に続きが無いならね〜」

「そう願います」


 拓真と綿谷の話が終わった時、待ってましたと言わんばかりに、詩織が少し大きめな声を発した。


「私、下の3行が気になります。切ない気持ちになりませんか?」

「それは私も思った! なんか悲劇のヒロインって感じよね〜」

「もしかしたら、これを作った方の本当の気持ちが書かれているのではないでしょうか?」

「本当の気持ち?」

「はい。人には言えないことでも紙に書くことはできます。それで少し落ち着くこともあるそうですから、この方はそれが目的だったのかもしれません」

「うーん、わざわざ謎まで作るかな〜?」

「……その方の気持ちになってみないと分からないですね」

「そうね〜」


 詩織と綿谷が話していたことで何かに気付いた拓真。


「なるほど……」


 そう言って、再び折り紙に注目した。

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