ことばあそび

日浦海里

やわらかな朝は、また

朝もやの立つ草原で

色とりどりの揺れる花

薄紅に染まる地平線

燕尾えんびが空に吸い込まれ

大空に今日の幕が開く


風は緑の波起こし

北に向かって旅に出る

郷里くにの待ち人に会えるの、と

化粧したように頬を染め

恋する顔で空に舞う


流離いさすらい人が足を止め

視線をやるは山の上

住み慣れた地を離れても

千里の先に思い馳せ

空の下にいる人想う


他愛もない事なれど

小さき日々の重なりが

繋ぎ繋がれ世は巡る

天衣無縫てんいむほうに流れゆく

留まることなく流れゆく


鳴る波の背は穏やかに

西に引いては密やかに

濡れた砂肌は艶やかに

音色はそっと涼やかに

残る響きは切なげに


浜辺に寄せる白絹は

引いて寄せては泡となり

振り返ることなく生まれ消え

碧眼へきがんの底に飲み込まれ

星の光となって舞う


真白に輝く星の火で

水面みなもが創る衣たち

無垢むくなる少女が待ち焦がれ

巡らぬ時は千の秋

も一度いつかと願う月


けてくすんだ紫紺の空に

結縁ゆえんを繋ぐ誰そ彼たそがれの刻

夜に瞬く一番星は感情の波で揺らめいて


来来世世らいらいせせの契りと言えど

利運りうん得られればまた今世でと

流浪るろうの人に願った言葉は

連理れんりの枝に比翼ひよくの鳥と

朧月ろうげつの先で繋がって


湧くは男も女も共に

一途な思いを知ればこそ

歌え踊れと二人を囲み

えにしの神に感謝する

大空の下で幕は閉じる




【用語解説】

『天衣無縫』

 天真爛漫なさま。純真に、思う通りにふるまうこと。


『結縁』

 本来この字はけちえん、けつえんと読むため、読みとしては正しくない。

 仏道に帰依するという意味の他に、縁を結ぶという意味もある。

 由縁とかけるために、あえて「ゆえん」という読みを宛てている。


『来来世世』

 来世の更に次の来世。輪廻を繰り返した先の遠い未来


『利運』

 良い巡り合せ。

(当然に出会う巡り合せという意などもある)


『連理比翼(比翼連理)』

 男女/夫婦の情の繋がりが深く強いことの喩え

 「比翼」左右一対の翼と目を共有する、雌雄一体となった空想上の鳥。

 「連理」連理の枝。別々の根をもつ二本の木の枝が繋がり、連続した木目をもつもの。

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