第23話 番外編 アマーリエの恋 辺境の地

「ゾイゼ卿、今朝は何か様子がおかしいわ。悩み事でもおありになるの?」


 朝の鍛錬の後ゾイゼ卿に声をかけた。


 なんだか最近のゾイゼ卿は変だ。変な私に変だと言われるゾイゼ卿は余程変なのだと思う。


「大丈夫です」


「いや、大丈夫じゃないでしょう? 私はこの国の人間じゃないし、この国にそんなに知り合いもいないわ。吐き出すだけでも楽になるなら聞くわよ」


 カッコいいゾイゼ卿が落ち込んでいる様子を見るのは辛い。


「ありがとうございます。実は父が魔獣にやられてかなりの怪我をしたようなのです。今辺境の地は魔獣が増えていて、辺境伯家の騎士団も応戦してはいるのですが、なかなか全滅させるとまではいかないのです」


 それは大変じゃないか。


「兄からは何度もロルフ様に来てもらうように頼んでくれないかと懇願されているので、ロルフ様にお願いしているのですが「今辺境の地に行ったらそれこそ1年や2年は行きっぱなしになる。今はアマーリエも我が国にいるし、王都を離れる気はない」とおっしゃられて……」


 私のせい?


「申し訳ございません。アマーリエ様にお話しても嫌な思いをされるだけなのに。私が戻っても大した戦力にはなりません。強い魔力のある、魔導士でないとあの量の魔獣の息の根を止める事はできないのです」


「瘴気を消して、魔獣が出てくる元を埋めてしまわないといけないわね。それにロルフの力なら強い魔獣とも戦えるわ。私のせいで王都にとどまっているなんて王族としても魔導士としてもあり得ない。私が話すわ」


「それは……」


「私が話したらロルフに責められる? そんな男なら鉄拳が必要だわね。とにかく詳しい状況を教えて」


 ゾイゼ卿から詳しい状況を聞いた私はすぐにロルフに会いに王宮に行った。


「アマーリエから会いに来てくれるなんてうれしいなぁ」


「ロルフ話があるの」


「なんだい?」


「辺境の地の話よ」


「辺境の地? あぁ、アーニーから聞いたのか。アーニーは大袈裟なんだよ。あの地は時々魔獣が大量に出るんだ。スタンピードまではいかないし、ゾイゼ辺境伯家の魔法騎士団でなんとかなるんだよ。今回はたまたま辺境伯が怪我をしたんでアーニーが騒いでるだけだよ」


 ロルフってこんな人だったのか?


「たとえそうであったとしてもゾイゼ卿があんなに悲壮な感じなんだし、現地に行って見ることはできるじゃない。転移魔法だって使えるんだし」


 私はだんだん腹が立ってきた。できる事をやらない奴は嫌いだ。しかも王族が自国の民が困っているのに簡単に考えて知らん顔とは苛立つ。


「でも行ってもしも長引いたら嫌だろ? 辺境の地なんて何もないんだよ。戦いは好きじゃないんだ。それにせっかくアマーリエが我が国にいるのに一緒にいられないじゃないか」


 だめだ。殴りたい。私は自国では苛烈な鬼姫との二つ名がある。他国だから我慢しているのだ。


「申し訳ないけど、私はそんな人は嫌いよ。王家は民の為にあるのに民を蔑ろにするなんて。ロルフがそんな人とは知らなかったわ。残念よ」


 私はその場をあとにした。



「ゾイゼ卿、ごめんなさい。ダメだったわ」


「そうですか、ロルフ殿下は戦闘のような仕事を嫌います。それに辺境の地は何もなくてつまらないと前におっしゃられてました。マインラート殿下がおられたらすぐに辺境の地に向かってもらえるのに……」


 ゾイゼ卿は唇を噛んでいる。


 マインラート殿下? そうだ、アルフォンスがいるじゃないか。アルフォンスならきっと行ってくれるはずだわ。


「ゾイゼ卿、そうよ。いるわよ。マインラート殿下と交換で留学しているヨードル王国の王子のアルフォンス。彼もかなりの力を持った魔導士だと思う」


「でも、私は存じ上げませんし、いきなりのお願いは不敬ではないですか?」

ゾイゼ卿は目を伏せる。


「私、ちょっとした知り合いなの。話して見るわ。ちょっと待っていて」


 私はすくにアルフォンスの元に向かった。アルフォンスと顔を合わせるのは辛いけど、そんな事言ってられない。


 アルフォンスに伝書バードで先ブレを出した。


 伝書バードとは鳥の形をした伝書バードを運ぶ魔道具だ。


 アルフォンスからすぐに返事が来た。ゾイゼ卿と一緒に来て欲しいと。


 私はゾイゼ卿に連絡をし一緒にトレンメル侯爵邸に向かった。


 邸に到着すると家令が待っていてくれた。


「ベルメール国王女アマーリエ殿下でございますね」


「いかにも。アマーリエ・ベルメールでごさいます。こちらはゾイゼ辺境伯令嬢のアーニー様です」


「アルフォンス殿下がお待ちでございます」


 家令らしき男性は中に案内してくれた。


 トレンメル公爵家の応接室は重厚感があり、シックで上品な感じだった。


 部屋にはアルフォンスの他に年配の男女がいた。


「お待ちしていた、アマーリエ殿下。お初にお目にかかる私はフリューゲル王国で筆頭公爵をしているヨバン・トレンメルです。こちらは妻のオクタヴィア、アルフォンス殿下の伯母にあたる」


「ベルメール王国、王女アマーリエですわ。よろしくお願いします。こちらはこの国の辺境伯令嬢アーニー様です」


 公爵が出てくるとは驚いた。さすが筆頭公爵、凄い威圧感だ。


「アルフォンス殿下から話を聞いてすぐに影に調べさせました。辺境の地はかなり酷いことになっているようですね。王家が手を差し伸べないとは意味がわからない。辺境の地が崩れることなどあれば王都の守りなど魔獣達にとってはひとひねりだろう」


「国王陛下と王妃様、宰相も今は外遊されているのでこの件は耳に入っていないのかもしれないわね。私達も知らなかったくらいだから。ロルフ殿下に報告はしたのでしょう?」


 公爵夫人はゾイゼ卿に尋ねる。


「はい、実家から王宮に至急魔導士の応援が欲しいと応援要請をしたが皆で払っていると断られた。お前なんとかマインラート殿下に話ができないかと連絡が来たのでヨードル王国にいるマインラート殿下に連絡をとり、とりあえずロルフ殿下に話をして欲しいと言われたので、話をしました」


 マインラート殿下に話をしていたのね。


 マインラート殿下は転移魔法ができないらしい、ヨードル王国からフリューゲル王国までは陸路だと1ヶ月はかかる。


 侯爵は拳を握りしめている。


「ロルフ殿下は自分が行くのがいやなのでこの報告を握りつぶしだのだな」


 私とゾイゼ卿が頷いた。


 公爵は私の顔を見た。


「アマーリエ殿下、よく知らせてくれた。礼を言います。このままでは辺境の地が全滅して、魔獣が王都まで来るところだった。私とアルフォンス殿下、そしてうちの魔法騎士団も辺境の地に参ろうと思う」


「ありがとうございます。私も連れて行ってもらえませんか? 私は回復魔法が使えます。辺境の地で少しはお役に立てると思います」


 私も一緒に行こう。何ができるはずだ。


 公爵は難しい顔をした。


「しかし、辺境の地は危険です。王女の身に何かあったら……」


「伯父上、アマーリエなら私が守ります。この姫様は自分がこうと思ったら誰が何を言っても聞きませんからね」


 アルフォンスは苦笑しながらそんな事を言う。


「わかった、辺境の地には先ブレをだしている。では、私達は先に出る。アーニー嬢案内してもらえるかな? アマーリエ殿下は着替えを用意させるので着替えてからアルフォンス殿下は中庭に用意している馬車を用意してあるで飛んでくれ」


 公爵はそう言うとゾイゼ卿を連れてあっという間に出て行ってしまった。


 公爵夫人は呆れた顔をしている。


「せかせかした人でしょう。さぁ、乗馬服のようなものに着替えましょう。辺境の地にドレスは動きにくいわ」


 公爵夫人が用意してくれた服に着替える。


「やっぱりマインラート殿下じゃないとダメね」


 公爵夫人はため息をついて私を見た。


「アマーリエ様、なんだかアルフォンスと行き違いがあったみたいね」


 へ?


「アルフォンスからちらっと聞いたわ。あれは確かにちゃんと話をしていなかったアルフォンスが悪いのだけれど、アルフォンスはまさかこんなに拗れちゃうとは思わなかったみたいなの。詳しい事はアルフォンスに聞いてね。私は収まるところに収まってほしいわ」


 公爵夫人はふふふと笑う。


 玄関サロンに着くとアルフォンスが待っていた。


「アマーリエ、行こうか」


「はい」


 私達は馬車に乗り込み転移魔法で辺境の地に向かった。

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