第19話 番外編 アマーリエの恋 暴走する国王夫妻

 とりあえず着替えよう。国王陛下と王妃様に謁見するのにこんな旅の簡単なドレスというわけにはいかない。


「ドロシー、ドレスを着替えるわ」


「そうですね。こちらにしましょうか?」


「謁見用のちょっといいドレスにして」


「承知いたしました」


 私はドロシーが出してきたドレスに着替えた。


 なんとかロルフの誤解を解かないといけないなぁ。私は確かにロルフのことは好きだけど、恋愛感情とはちょっと違うのよ。困ったなぁ。


「アマーリエ様、いいんじゃないんですか?」


 ドロシーは私の髪を整えながら私に話しかけた。


「何が?」


「結婚ですよ。ロルフ様は立派な魔導士でかつ第2王子でしょう? フリューゲル王国の、王族と縁続きになるのはベルメール王国にとって良い話です。王族の結婚なんて政略が当たり前です。ロルフ様ならラッキーじゃないですか?」


 そう言われてみれば確かにそうかもしれない。私はロルフに好意は持っている。ロルフは良い奴だ。私は我が国に魔法を導入したいと思っている。ロルフと結婚すれば手っ取り早く叶う。


 しかし……。


「ロルフとは政略結婚なんかしたくない。そんな打算の上の結婚なんて嫌だわ」


「何を言っているのですか、アマーリエ様はベルメール王国の姫様なのですよ」


 まぁ確かにそうなんだけど……。


「とりあえず今回の留学期間は私は魔法を学ぶの。学生生活を楽しむのよ。ベルメールではできないことをやるの!」


 最初の主旨を忘れるところだった。なんだかんだ理由をつけたけど、基本楽しい学生生活を送りたくてここに来たの。あちこち短期留学した中でフリューゲル王国がいちばん居心地がよかったのよ。だからまた来るからってみんなと約束をしてベルメール王国に戻ったのよ。



トントン


 扉を叩く音が聞こえた。


「アマーリエ、そろそろどうかな? 父母もアマーリエに会いたがっているんだ」


 ロルフだ。迎えに来たか。


「はい」


 私は扉を開けた。


 ロルフは赤い顔をしている。


「き、綺麗だ。そのドレスよく似合っている」


「ありがとう」


「行こうか」


 肘を出す。エスコートね。


「じゃあ、行ってくるわ」


 ドロシーに声をかけ、私はロルフとともに国王夫妻のもとに向かった。


「ねぇ、ロルフ、王宮内は転移魔法使わないの?」


「近い距離は基本使わないな」


 そうなのか。どこにでもシュッシュと転移するのかと思った。私の問いが変だったのかロルフは半笑いだ。


「近くは歩けばいい。アマーリエらしいけどな」


 半笑いだったのがくくくと声を出して笑っている。


「まぁ、そんなアマーリエが好きなんだけどな」


 はぁ? 好きって言ってるよ。この好きはラブの好きなのかしら?


 頭の中をハテナマークだらけにしながら歩いていると、急にロルフが止まった。


「ここだよ」


 へ?


「謁見の間じゃないの?」


 ここはどこ?


「アマーリエは身内みたいなもんだからプライベートサロンで会うそうだ」


 プ、プライベートサロン? やっぱり嫁確定かしらね。


「ロルフです。アマーリエも一緒です」


「どうぞ」


 王妃様の声だ。


 王妃様には前の短期留学の時に本当によくしてもらった。だからお土産をいっぱい持って来たのよ。喜んでくれるかな。


 部屋に入ると国王陛下と王妃様がソファーでくつろいでいらっしゃった。


 王妃様が立ち上がり私のところに来た。


「会いたかったわアマーリエ。戻って来てくれてありがとう」


 ハグされた。


「王妃はアマーリエがお気に入りだな。私も気に入っておるぞ。もうベルメール王国に帰したくないな」


 何を言ってるんだ国王陛下。


「父上、母上、そんなにまえのめりではアマーリエにひかれます。少し落ち着いて下さい」


 ロルフがふたりを窘める。


「フリューゲル王国の輝ける太陽と月であらせられる国王陛下と王妃陛下に再び拝謁できましたことこの上ない喜びに存じます」


 王女らしく鍛え上げたカーテシーを決めた。


「まぁ、アマーリエったら、私達の仲にそんな仰々しい挨拶はいらなくてよ」


「そうだ。実の父母のように思ってくれればよいのだ。さぁ、座ってくれ。お菓子も沢山用意したぞ」


 テーブルの上には美味しそうなお菓子が沢山乗っている。私はとりあえず座らせてもらった。


 隣にはロルフがガッチリ座っている。



「私はできればロルフより、王太子のマインラートに嫁いでほしいわ。アマーリエ、だめかしら?」


 私は王妃様の言葉に衝撃で固まる。


「母上、アマーリエは兄上には渡しません」


「でも、王太子妃の方が向いていると思うのよ」


「そうだな。アマーリエは度胸もあるし、頭も良い。それに上品で誰をも魅了する、未来の王妃にぴったりだと私も思うがな」


 あの……私を置いていかないで。


 私は王妃になんぞならんよ。マインラート殿下とは会ったこともないし、ロルフ助けてよ。


 私は助けを求めてロルフの顔を見た。ロルフは怒っている。かなり怒っているようだ。


「父上、母上、それ以上暴走したら、魔法でアマーリエを隠しますよ。二度と会わせません。それに兄上には婚約者がいるではありませんか! アマーリエは私と結婚するんです。わかりましたね」


「魔法で隠されては困る」


「そうね二度と会えないなんて嫌だわ」


 好意を持たれているとは思っていたがここまでとは。


「国王陛下、王妃陛下、身に余るお言葉ありがとう存じます。しかし今回、私はこの国に魔法を学びに参りました。今回は勉学優先で過ごさせていただくことをお許し下さいませ」


「そ、そうね。ごめんなさいね。嬉しすぎてつい暴走しちゃったわ。嫌わないでね。さ、お菓子をどうぞ。いっぱい食べてね」


 王妃さまは、ばつが悪そうだ。ご自分でも暴走したのがわかったのだな。



 お開きの時間となり、私達は、サロンを出た。疲れた。


「アマーリエ、すまなかった。父母らがあんなに暴走するとは思わなかった。母はアマーリエが好き過ぎて次期王妃にしたいようだ。大丈夫。私が全力で阻止する。兄上になど渡してたまるか」


 いやいや、あなたと結婚するなんて私は一度も言っておりませんが。


 私はフリューゲル王国には魔法を学びに来たのよ。

 来る時にシルやデルに帰ったら転移魔法を教えてあげるわと大見得を切ったのに、大丈夫かしら。なんだか不安になってきたわ。


 私の留学生活は、なんだか前途多難なんじゃないのかしら?


 私は大きなため息をついた。

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