第7話 義両親は辛辣
「白い結婚で婚姻無効に、されるのが嫌なら、私が惚れなおすようなことをして見せてよ。今のエミール様はゼロどころかマイナスよ。私は骨折は治ったけどまだ長時間ヒールで立ったりダンスをするにはまだまだリハビリが必要なの。今日の婚姻式もパーティーも頑張ったのよ。エミール様が直接悪いわけじゃないけど、魔法なんかにかからないで私を守ってくれていたらこんな怪我をしなくてすんだのだからね」
私の脚の骨はとりあえずくっついたのだが、歩くことからリハビリを始めている。
夜会でダンスが踊れるようになるのはまだまだ先のことだ。
エミール様があの女と関わり合いにならなければ私は心も身体も傷つかなくて済んだのだ。
「じゃあ、私は部屋に戻るわ。今夜は1人でゆっくり考えてね」
私は部屋を出て鍵を閉めた。
私達は両サイドの自分達の部屋と、真ん中にある夫婦の寝室の3部屋が与えられている。
私は一旦、自分の部屋に戻るとすぐに部屋を出た。
夫婦の寝室もそれぞれのプライベートルームも廊下にも扉がある。
エミール様の部屋の扉と夫婦の寝室の扉の前には屈強な騎士がふたりづつ立っている。
エミール様も普段から鍛錬はしているがあの騎士達を倒して逃げるのはむりだろう。もちろん窓の外にも見張りの騎士はいる。
自室を出た私は義両親のいるサロンへと向かった。今後の話がしたかったからだ。
サロンには義父の姿はなく、義母がお茶を飲んでいた。
「お義母様、お義父様は?」
「魅了の魔法の件を報告する為に陛下に会いに行ったわ」
「では、陛下がザラ嬢を捕らえてくれるのですね」
義母は首を振った。
「まだ無理ね。証拠がないでしょう? とりあえずザラ嬢と殿下達を引き離さないとね。エミールはそこまで深くかかっていないようだけど、殿下はどうだかわからないものね。ザラ嬢のターゲットは殿下でしょう?」
確かにそうだろう。
ザラ嬢と絡み出してから、だんだん殿下は人が変わったようになった。魅了の魔法に深くかかってしまったらどうなるのだろう?
義母はため息をついた。
「私の祖母が学園に行っていた頃に魅了の魔法を使って王太子を懐柔し、国を我が物にしようと企んだ輩がいたらしいの。小さい頃に祖母に聞いたことがあるわ」
我が国でもそんなことがあったのか。知らなかった。
義母は話を続ける。
「当時の国王は魅了の魔法を禁忌にし、魅了の魔法に関する文献を全て焼いてしまい、使った者は国家反逆罪として重い罰を受けることになったそうなの」
なるほどな。
「王太子は魔法が解けた後、自分のしでかした事の罪の意識と絶望感と魔法の後遺症に耐えきれず毒杯を飲まれたらしいわ。王太子は加害者だけど被害者。苦しみに耐えられなかったのね。王妃様もその哀しみのあまり体調を崩され亡くなったそうよ。先先代の陛下はその時の王太子の弟君で急に王太子にならなくちゃいけなくなったので大変だったみたい。あれから魅了の魔法は消滅したとみんな思っていたのに、また学園で王太子を狙って起きるなんてね」
義母はそう言い目を伏せた。
魅了の魔法なんて誰も幸せにはならない。
「旦那様がお戻りになりました」
メアリーが知らせに来た。義父が王宮から戻ったようだ。
義父は何やら楽しそうだ。
「陛下と作戦を立ててきた。側近3人の父親とあのザラって女の父親も呼びつけて話をした」
義父はそう言いながらカバンからいろんなものを取り出した。
「これをつけさせてエミールをあいつらの元に戻す。エミールが魅了の魔法にかかってると油断させて他の側近達にこの魔道具をつけさせたり、この薬を飲ませて魔法を解く。この魔道具は魅了の魔法避け、この薬は魅了の魔法を解く薬、こっちは耐性をつける薬だ。陛下が魔法大国から取り寄せた」
「そんな薬があるのね」
義母は目を丸くしている。
「魔法大国は凄いな。何もないところから急に人が現れてこの魔道具や薬の説明をして、また消えた」
義父は興奮気味に話す。転移魔法だろうか? 魔法大国の人はみんな使えるから便利だと聞いたことがある。
我が国も魔法はあるが生活魔法程度しかない。
「でもエミールはそんなことできるかしら?」
義母は心配そうだ。確かにエミール様は器用じゃない。
「やるしかないだろう? いいとこ見せないとシルフィアに嫌われたまんまだ」
義父は私を見てニヤッと笑う。
「それにもし失敗して死んだとしても自業自得だ。あいつはここでなんとかするしかない」
お義父様、厳しいわね。
「私は今からエミールに作戦を説明してくる。あいつが任務を拒否したら廃嫡にしてやる」
廃嫡って? エミール様はひとりっ子なのに。
「その前に薬を飲まして完全に解いてしまおう。魔法大国から来た人の話では半日離れていたら解ける程度の魅了ならこの薬1錠ですっかり抜けるし、後遺症もきれいに治るらしい、あとはこちらの薬で耐性をつけて、魔道具を身につけていればもう魔法にかかることはないらしい」
後遺症が残らないならよかった。
「でも、深く魔法にかかるとなかなか抜け切るのは難しいようだ。皆どれくらいかかっているんだろうな」
「殿下はかなり深くかかっていると思います」
「だろうな」
義父はため息をついた。
「まぁ、魔法大国では医療魔法もすすんでいるそうだ。入院して治療すればなんとかなるかもしれないらしい」
魔法大国すごいな。
「エミールに魔法にかかったお芝居ができるかしらね」
義母はふふっと笑う。
「まぁ崖っぷちだからなんでもやるだろう」
この義両親、エミール様に辛辣すぎる。
それにしても我が国は大昔にそんなことがあったのに、もっとちゃんと危機管理をしなくちゃダメだわ。他国がそんな道具や薬を持っているならせめて王族だけでも身につけたり飲んだりして予防しなきゃダメでしょう。いくら魅了の魔法がこの気にから消滅しても外から入ってこない保証はない。
全く平和ボケだわ。王女様が危惧して魔法大国に留学していたわけがちょっとわかった気がする。
さて、王女様にコンタクトをとってみるかな。
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