アットホームな職場です!ダンジョン社!

ココン

アットホームな職場説明

 ある日突如として世界各地に現れた謎の空間、ダンジョン。最初は全世界が大騒ぎとなり、研究や調査が進められた。突然ダンジョンの中から出てきた生物による被害は世界に大きな影響を与えた。そして世界の総力を上げた調査の結果、分かったことは内部には魔物がおり、その魔物を殺した際に出現する魔物を動かすコア、魔石とやらが非常にクリーンなエネルギー源になるということだった。


 「我々ダンジョン社はそんな魔石に注目し、その魔石を安定して供給することによって社会インフラを支えている会社です!」

 

 今の時期は就職活動真っ只中。大手エネルギー会社であるわが社、ダンジョン社にも多くの就活生がやってくる。ダンジョンが出現して以降はいつどこで魔物の大量発生が起こるかが分からず、世界は若干崩壊気味である。しかし大企業に入ることが出来れば資金に余裕ができ、安心できる居住地が確保され、家族と一緒に引っ越すことができる。

 逆をいえば大企業に入ることが出来なければ…稀とはゆえ魔物が出現するような場所で生活する他無くなる。そういった一般人相手に警護サービスを提供している会社もあるが依頼費が馬鹿にならないため、全ての者が受けられるサービスではない。結局どこまでいっても金がなければ始まらないのだ。

 そのためにも大企業に入ることこそが幸せへの第一歩であったりもする。

 特にわが社は給料も多く、家族への支援も手厚いため、毎回多くの人が募集に参加してくれる。


 多くの就活生が見ている前でプレゼンを終えると、熱心な若者が質問にやってきた。


 「D社、いやダンジョン社では、勤務中に亡くなる人がよく出ると聞いているのですが…本当ですか?」


 D社とはダンジョンの頭文字をとってつけられた略称のようなものだ。確かにダンジョン社はあまりにもダサい。にしてもその話か、会社として非常に言いづらい、というか言いたくないことを質問してくるな。


 「魔物を倒してそこから得られる魔石を集める仕事ですからね…でも!新入社員には先輩がついて戦闘実習を行いますし会社から装備も支給されますから!」


 これで答えになっているだろうか?内心焦りながらも就活生にスマイルを向ける。

 向こうは少し納得できていないようなことがある様子だったがなんとか帰ってくれた。


 なんでそんなに焦っているのかって?

まあその…この会社は、結構ブラックなんだよ。


 便利なエネルギー源には必ずなにか問題がある。それはこの魔石に関しても同様だった。

 魔石を取得するためには2つの方法がある。まず1つ目はダンジョン内に落ちている魔石を集める方法だ。これは危険性はあまりないが安定して魔石の供給が出来ない。その上自然死によるドロップがほとんどのため、魔石に残っているエネルギーも微々たるものだ。

 2つ目は、その辺の魔物を殺して、そこから出てくるコアを回収する方法。

 こちらはかなり安定して、高エネルギーの魔石を集めてくることが可能だ。しかし問題もある。まずは危険性。魔物を殺す必要があるのだが、当然向こうもそう簡単に殺されてはくれず抵抗してくるわけであり、それを上からねじ伏せなければならない。

 まあそんなもの素人が対峙すれば悲惨な結果に終わることだって少なくはない。といってもそれは戦闘訓練や装備を整えることでかなり軽減ができる。

 問題は精神面だ。まずダンジョンという空間そのものが精神を不安定にさせるようであり、そんな空間で魔物と相対すると魔物を見ただけでパニックに陥る者もいる。さらに味方が死んだりでもすれば崩壊は避けられない。これはこちらからはどうすることもできず、慣れと本人の適正によるところが大きい。 


 今回の新人はどれくらいが生き残るのだろうか。最近ダンジョンは楽して稼ぐことができる仕事だと思われている節がある。確かにダンジョン内で得られる物は高値で取引されており、一攫千金も夢ではない。

 そんなメリットだけが知れわたり、こうして死亡率が高いわが社にも人が来るのだ。

 無論その中の多くは死ぬか、会社を辞めるかがほとんどだ。一部適正のあるものが生き残るが、その数は一握りと言える。現に今は二次募集、そろそろ一次募集で入った奴の実戦が始まるため、その穴埋めとして採用する枠なのだ。


 まあここまで話せばうちの会社がブラックなのも良く分かるだろう。それでも多くの就活生が来るのは今の世界が狂ってしまっているからなのかもしれない。

 

 今日は誰も死にませんように。

それだけ祈って通常業務をまた始めるのだ。

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