第9話 魔格付け
「──【かきゅう】っ!」
あの後、両親の二人と共に王城の中の一室に案内され、そこで他の貴族・その子供たちと合流してから子供が魔格付けを行う訓練場と親が観覧する見物席にそれぞれ案内された。
そのため俺は今訓練場の硬い土の上に座り、5歳になりたてかもう少しで5歳なるちょうど活発な時期の子供たちの魔法を眺めている。
正直に言ってそれはあくびが出るほどお粗末なものだ。
……いや、お粗末は言い過ぎたかもしれない。
しかし普段から
ちょっと癪な話ではあるが、デュークは自他ともに認める魔法大好き人間なだけあって、その魔法のレベルは高い。
それにそもそもの魔法の威力を底上げする魔穴拡張だって終えてる。
多分彼らはあんなものの存在すら知らないだろう。
だってあんなとてつもない苦痛をまだ年端もいかない子供に与えるわけが無いし、彼らは詠唱しているのに魔法の大きさは手のひら程度である。
そもそも、あんなもの俺みたいなやつ以外は知らなくていい。
痛みを伴うショートカットなんて普通の人生には必要ない。
それに、何が楽しくてこの先必要になるかも分からないものを壮絶な痛みを耐えて強化せねばならんのだ。
俺がアレをデュークに頼んだのはただ父親のアグロスが魔法に興味を示してたから、何か特別な思惑でもあるんだろうなと思って志願したにすぎない。
周りの評価を変えるなら、まずは身内から。
前世から全く同じ親をそのまま持ってきた訳では無いことくらい理解しているので、とにかくまずは親から説得してかなきゃいけない。
そのためならどんなことでもするぞー、と意気込んでの結果である。
……ま、あの痛みは流石に予想外すぎたがな…………ハハ……
まぁ何がなんであれ、一箇所に留まらず二箇所目にまで手を出したあの魔法バカが異常なだけなのである。
さて、そんな俺たちみたいな腐り切った大人とは違って純真無垢な子供たちに目を向ける。
──必死に詠唱の口上を覚えて、初めて他人の目に触れる機会に緊張してたんだろうなぁ……。
そんなことが見て取れるように、精一杯手を前に突き出し、舌っ足らずな口調で言の葉を述べるその様子はさながら小学生初めての参観日のようである。
親が見ているという緊張感といいところを見せてやるぞという高揚から来るのか、その必死さと空回り感が可愛らしく感じるお年頃。
俺にもこんな時期があったのかねぇ……なんて若干の感傷に浸る。
そうこうしているうちに彼の批評が終わったのか、審査員内の渋い老紳士が呟く。
「──ふむ、火の8級ですな」
──8級。それは字面から感じる通りそこまで大それたものではないのだろう。
それは『あぁなんだ8級か』みたいな態度の観覧席の貴族たちからも理解出来る。
──いや、何様なんだアイツら……。
改めて貴族のプライドの高さを垣間見た気がする。
さて、自分の番が終わり緊張から解放されたのか、ほっと息をついてから終了者の待機区域へと向かう少年に心の中で目一杯の賛辞を送る。
まだこの魔格付けは始まったばかりで、俺の番が来るのはだいぶ先である。
このままずっと幼稚な魔法を眺め続けるのも正直退屈なので、同年代の言動や話題の情報収集も兼ねてどこかで良さげな話し相手を見つけたい。
そう思ってキョロキョロ周りを見回してみるとあら不思議。
視界に入った全員、必ずしもと言っていいほど隣にお友達がいらっしゃるでは無いですか。
いや、別にそれ自体が悪いわけじゃない。
しかし、子供は先程のような可愛らしい一面とは異なった残酷な一面を見せる時もあるのだ。
あんな楽しそうに談笑する所に突然知らん奴が入ってきたら「誰お前」なんて心に直接ぶっ刺さる言葉を吐くに違いない。
ソースは前世の俺である。ちなみにもちろん吐かれる側。
俺は『こっちから話しかければ大抵返事してくれるよ』なんてアドバイスをしてきた弟を許しはしない。
お前だけだよ、それは。
まぁ、それで俺にそんなことをする度胸は無いのである。
しかし弱冠5歳にしてぼっちはヤバい。
そう思ったが故にどこかに
すると──居た。
ここから少し離れた端っこで一人、じっと座り込んだ少女が。
なんとか同胞を見つけ出し、最後の希望へと
「ねぇ、何してるの?」
「…………別に、何も」
体育座りの状態で腕を組んで顔の下半分を隠していた少女は、俺が話しかけると顔を上げるどころかその逆に伏せてしまった。
──ヤバい、何かまずったか……!?
最悪の事態も脳裏をよぎるが、会話しないことにはどうにも転ばないので必死に食らいつくことにする。
「そ、そっか。とりあえず隣座るね」
「……あっちいって」
な、なんか棘あるなぁ……。
しかし、俺はこの先ぼっちにならないようここで友人の一人や二人つくっときゃならんのだ!
「そ、そう言わずに……ね?」
もうほぼ懇願である。
すると俺の必死加減が伝わったのか、少し引きながら少女が口を開く。
「……どうしてもって言うなら、遠目から見て私と話してるって分からないくらいまで離れて」
ん……?なんかやけに遠回しな言い方だな。
まぁ言わんとすることは分かる。
『私に必要以上に近付くな』みたいな感じの意思表示だろう。
それにしても警戒心高すぎだろ。
将来有望すぎる新人メイドちゃんに引き続き、なんでこの世界にはこういう感じの子供が多いんだ?
子供は子供らしく素直にはしゃいだり楽しんでて欲しいものである。
それが子供の特権だろうに……。
俺は勝手に異世界の子供の成熟具合に感心すると共に若干の恐怖を覚えていた。
さて、先程少女に言われた通り、大体5メートルくらいの距離をとって座る。
……遠いな。もうちょっと近くても良かったかもしれない。
そう考えた瞬間、顔を上げた少女の鋭い視線に射抜かれ言外に拒絶される。
「アハハ……あ、僕の名前はアレス=レント=リタニア。君は?」
「!ふーん……」
「…………え゙っ、教えてくれないの!?」
結構距離が離れていたので気持ち声を大にして自己紹介から話を膨らませようとしたのに、少女はふーんの一言で終わらせ、挙句の果てにふいっとそっぽを向いてしまった。
──いや確かに返事をくれ的なことは言ってないけどさ、流石にこの仕打ちは無いじゃん……
心の中で抗議しても少女は目を背けたまま、ただ時間だけが過ぎて行った。
失意に暮れる中、他に集中するものが無くなったからか役員の人の次を呼ぶ声が鮮明に聞こえた。
「──次の方は……エフィート=アズ=フリュール様!こちらの方までお越しください!」
ふと、今どのくらいまで進んだんだろうと思い、辺りを確認してみる。
すると、もう周囲には誰もおらず、あと残っているのは俺と少女の二人だけであった。
時間経つの早くない?なんて思っている内に隣に座っていた少女が立ち上がり、招集をかける役員の元へと歩いて行った。
どうやら少女の名前はエフィート=アズ=フリュールと言うらしい。
本人の口から聞けなかったことに少々不満を覚えながら、ゆったりとした足取りで訓練場の中心へ向かう少女へと自然に視線が引き寄せられる。
……さっきまでは感じなかったけど、なんか独特な雰囲気を持つ子だな。
ぼんやりとそんなことを思う中、少女改めエフィートは会場全体の注目を集めながら歩みを進める。
訓練場の真ん中まで歩いて立ち止まったエフィートの前には3メートルほどの間隔をおいて人間の形を模した的が複数個置いてある。
するとエフィートは目を閉じ、一度の深呼吸の後に詠唱を述べる。
「風の神よ、我が身に地を駆く力を与えん。【疾走】──行きます」
エフィートは地面を踏みしめると共に走り出す。
エフィートの走力は魔法によって底上げされており、その初速は大の大人さえも優に超える。
3メートルの距離など無いも同然と言わんばかりに素早く詰め、エフィートは更なる魔法を詠唱する。
「風の神よ、整然粛々たる風を我が物とし、領域を侵すその他勢に制裁を与えん。【戒風】」
瞬間、まるで風が彼女の周囲を吹き上げたかのように砂塵が舞った。
一見それで終わるかに思えたのも束の間──人型を模した的達が細切れと成る。
バラバラになった的は各々が軽快に落下し、ポトッと情けない音を立てて幕引きとなった。
「──おぉっ!何と!これは文句なしの5級ですな!いやぁ素晴らしい才能をお持ちで!」
ベタ褒めである。
そして言わずもかな、観覧席の貴族たちもにわかにざわつく。
「8級と3つしか違わないのにそんなに違うもんなのか……」
誰もいなくなった待機区域で一人じっと考える。
──ふと、どこからか視線を感じて顔を上げる。
しかし誰もこちらなど見ておらず、会場全員の視線は素晴らしい才能を見せつけたエフィートただ一人だけに向けられていた。
「──さて、次の方……アレス=レント=リタニア様!こちらの方へお越しください!」
──お、呼ばれた。
じっと座っていたため少し痛む尻をさすりながら、重い腰を上げる。
そして理想は大体あの子の一個上くらいだな、と去り際のエフィートを見やりながら歩みを進めた。
・〜〜〜
補足・現時点での魔法の階級はそれぞれの詠唱の長さによって判断できます。
例:今回エフィートちゃんが使った【戒風】が
二節→初級、三節→中級、まだ未登場ですが四節で上級なので、三節詠唱の中級となります。
魔法名(【】←これでくくられたやつ)は大体二字の漢字で考えてるので詠唱で判断してもらうしかないのですよ……。
まぁ正直この先進んでいけば登場人物全員詠唱なんかしてないと思うんで序盤だけこの設定にお付き合いいただければと思います(メタい)。
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