第六話 魔法適正は……どうだ?

 平凡な測定結果を何とか受け入れた俺は、エリーさんに連れられて、屋敷の裏庭に来ていた。

 これからやるのは魔法属性適性検査だ。各属性の測定用魔法の詠唱を唱え、発動できるかどうか。そして、発動できた場合はその出力によって判断するらしい。

 魔法の属性は全部で8属性あり、火属性、水属性、風属性、土属性、光属性、闇属性、無属性、空間属性と言った感じだ。

 大抵の人は、高い適性を持つ属性が1つとそこそこの適性を持つ属性が1つ2つあるって感じだが、俺の場合はどうなのだろうか。

 流石にここまで来たらもう高望みはしない。ただ、出来れば空間属性に適性があるといいなぁ……

 扱うのが最も難しい属性だが、その分極めれば超強力な手札となりえる。

 転移したり、空間を斬ったり、異空間に物を収納できたりと、めっちゃ便利だ。まあ、俺の魔力容量と魔力回路強度では、今後の成長を加味したとしても、そうホイホイとは使えなさそうだが……

 すると、エリーさんが一冊の薄くて小さな本を俺に差し出した。


「この本に書かれている詠唱を、最初のページから順番に言ってください。詠唱はハッキリと言ってね」


「分かりました」


 俺は頷くと、まず1ページ目を開く。

 すると、そこには前に本でも見たような呪文が書かれていた。

 俺は「ふぅ……」と息を吐いて心を落ち着かせると、詠唱を紡ぐ。


「魔力よ。火となれ」


 ……だが、特に何も起こらない。

 どうやら火属性には適性が無かったようだ。


「はい。では、次のページ、水属性をお願いします」


「分かりました」


 俺は頷くと、ペラりとページをめくり、そこに書かれている詠唱を紡ぐ。


「魔力よ。水となれ」


 ……だが、特に何も起こらない。

 あー水属性にも適性が無いのか。

 氷の槍とかは憧れてたんだけどなぁ……

 だが、裏を返せば空間属性に適性がある可能性が残っているという意味でもある。

 前向きに考えよう。

 そんな感じで、俺はその後も風属性と土属性の詠唱を唱えてみたのだが、結果は適正なし。

 あれ? まさかとは思うがどの属性にも適性が無いとか言わんよな?

 それだったら流石に発狂ものなのだが……

 そうしてだんだんと不安になりながらも、俺は次の光属性の詠唱を唱える。


「魔力よ。光となれ」


 すると、ここで初めて変化が起こった。

 自身の体から何かがすーっと抜けていく感覚と共に、目の前に小さな光の球が現れたのだ。

 目の前で浮遊する小さな光の球は、炎のようにゆらりと揺れた後、ふっと消えてしまった。


「光属性に適性があるようね。この感じを見るに、高い適正……ではなさそうね」


 エリーさんがボソリとそう呟く。

 へーこれはまだ高い適正じゃないのか。

 となると、まさか本当に時空属性に適性が――それも高い適正なのか?

 不安から一転して、希望が見えて来た俺は、次のページにある闇属性の詠唱を唱える。


「魔力よ。闇となれ」


 すると、今度は目の前に薄黒い靄のようなものが現れた。

 だが、空気中に溶け込むようにして、すーっと消えてしまった。

 お、闇属性にも適性があるのか。

 てか、光と闇って、どっちも純粋な戦闘系じゃないんだよなぁ……

 どちらかというと、戦闘補助系なんだよ。この2つ。

 まあ、エリーさん曰く、これも高い適正ではないらしい。

 つまり、残り2つ――無属性と空間属性のどっちかが、高い属性ということになる。

 え? もうこれで終わりの可能性はないのかって?

 それは断固ととして認めたくない!

 こうして俺は残りの詠唱を紡ぐ。

 その結果は――


「光属性と闇属性の適性率は共に約40パーセント。そして、空間属性の適性率は約90パーセントね」


 よし。やったぜ。

 いやーマジで途中ヒヤヒヤしたけど、何とか空間属性に適性があってよかったー!

 しかも90パーセントだよ。

 高い適正のやつって、平均80パーセントらしいから、これはもう超当たりと言っても過言ではない。

 まあ、いくら適性が高くても、魔法を使う元となるあの2つが平凡じゃあ、結構辛いんだけどね。

 すると、エリーさんが口を開く。


「では、これから少し実践と行きましょう。ですが、その前に1つ注意を。今後魔法を使う時は、近くの大人に許可を貰ってからにしてください。危ないですからね」


「分かりました」


 エリーさんの注意に俺はコクリと頷く。

 まあ、十中八九破るけどね。

 いやでもほら。俺って前世含めたらもう22よ?

 だから実質大人ってことで、覚えた魔法は隠れてこっそりと使うとしよう。俺のことを大事だと思わなくなったお陰で、俺に対する監視がザルになったのも大分追い風になっている。


「では、まずは光属性と闇属性の2つをやっていきましょう。空間属性はその2つをある程度使いこなせるようになっていないと厳しいですからね」


 そう言って、エリーさんはまた別の――今度は少し厚めの本を取り出すと、パラパラとページをめくる。

 やがて手を止めると、そのページを俺に見せてくれた。


「ここに書かれているのが光属性魔法よ。難しいだろうから細かい説明は省くわ」


 そう言って、エリーさんは更にページを1枚捲ろうと手をかける。

 あー! 別に省かなくていいんだよ!

 だが、無情にもにも捲られてしまった。

 説明は大事だろうに。ぱっと見でも結構良いことが書いてあるように見えたぞ?

 まあ、俺は5歳児だからな。難しいことは分からないって認識なんだよな……

 しゃーない。今度久々に書庫に行って、その本探してみるか。

 で、捲られたページには魔法の詠唱と、その魔法名。そして、その魔法の内容が詳しく書かれていた。


「この魔法は光球ライトボール。さっきよりも大きくて強い光を放つ光の球を生み出す魔法よ。腕を伸ばして、手の先に生み出すようなイメージをしながら詠唱をしてみて」


 エリーさんは簡単な説明をしながら、詠唱が書かれている部分を指差す。

 なーるほど。見た感じ、これが光属性の基礎中の基礎って感じだな。

 流石にこれは成功させなきゃマズいだろ。

 そう思いながら、俺は右手を前に掲げると、光の球が拳の上で浮かんでいる様子をイメージをしながら詠唱を唱える。


「魔力よ。光り輝く球となれ」


 すると、さっきと同じようにすっと体から何かが抜けるような感覚がしたかと思えば、右掌の上にふらふらと浮かぶ直径10センチ弱の光の球が現れた。

 よし! 成功だ!

 そう思い、俺は内心喜ぶ――が、それで集中が途切れてしまったのがいけなかったのか、光球ライトボールは霧散し、消えてしまった。

 あーあ。消えちゃった。

 でも、一発で発動できたのは結構いいと思う。

 異世界系の漫画、およびアニメを沢山見まくったお陰で、魔法に関するイメージ力が人一倍高いことが関係しているのだろうか。

 魔法はイメージが大切って良く言うからね。


「凄いね。最初の1回で発動出来る人は中々いないわよ」


 エリーさんは拍手しながら、手放しで俺を誉める。

 お、やっぱり一発で出来る人はあまりいないのか。

 いや~これはもう異世界系漫画とアニメに感謝だな。これのお陰で、俺は魔法をより正確にイメージ出来た。

 後はこれを無意識に出来るようにしないと。さっきみたいに、ちょっと集中力が切れただけで発動できなくなるようでは話にならないからね。


「では、この調子で闇属性の魔法も取りあえず使ってみましょう」


 そう言って、エリーさんは再びパラパラとページを捲り、闇属性魔法の所で手を止める。


「これは黒霧ダークという、周囲に黒い霧を発生させる魔法よ。まずは自分を包み込むようなイメージをしながら詠唱をしてみて」


 なるほど。今度は目くらまし系の魔法か。

 エリーさんの言葉に俺は頷くと、例の如くイメージをしながら詠唱を紡ぐ。


「魔力よ。黒き霧となれ」


 すると、体中から黒い靄のようなものが出て来て、瞬く間に俺を包み込んだ。お陰で現在、お先真っ暗だ。

 とまあ冗談はさておき、今は頑張ってこれを発動させ続けないと。

 ある程度集中しつつ、リラックスするという難題を頑張ってこなすことで、少しずつ無意識に魔法が使えるようになるだろう――が、今はそんな芸当出来る筈もなく、ものの数秒で黒霧ダークは霧散し、消えてしまった。

 まあ、さっきよりは長く持ったから良しとするか。


「うん。凄いわね。では、あとはこれを何度も続けて、少しずつ魔法に慣れていきましょう。あと、体が怠くなってきたらすぐに教えてね。それは魔力切れの症状だから」


「分かりました」


 俺は頷くと、再びエリーさん指導の下、再び魔法を使うのであった。

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