第二話 5歳の誕生日

 月日が流れるのは早いもので、転生してからもう5年の歳月が経過していた。

 5歳になった日の早朝、俺は4歳の時に与えられた無駄に広い個室のベッドでゴロゴロしていた。

 4歳で個室は早くね?流石にその年で1人にさせるのはマズいだろ?と思ったが、そこはちゃんと考えていたようで、メイド2人が交代で常時俺を監視するというプライバシー0の解決策が取られている。これは今でもやめて欲しいなぁ~って思ってるんだよね。


「は~よっと。頼む」


 俺はベッドから起き上がり、鏡の前へ行くと、扉横で待機するメイドに視線を合わせる。

 すると、メイドは即座にクローゼットから、白を基調とした服を上下取り出し、俺に近づく。

 そして、手際よく俺の寝間着を脱がし、代わりにその服を着させていく。

 これも最初はマジで慣れなくて、羞恥心で顔を真っ赤にしていたが、今では割と様になっている。慣れって恐ろしいものだね。

 そう思いながら、俺は鏡に映る自身の顔を見る。

 そこに映っているのはさらっとした銀色の髪に翡翠色の瞳を持つ童顔の子供。これが今の俺だ。

 最初はこれも驚いたな。誰だよこいつって思ったもん。まあ、家族の髪色を見れば、むしろ自然なことだけど……

 その後、着替えた俺はメイドを連れ、部屋から出た。そして、迷わぬ足取りでレッドカーペットが敷かれた廊下を歩き、やがて1つの扉の前に立つと、メイドに扉を開けてもらい、中に入る。

 ここは食事を取る場所で、奥からはいい匂いが漂ってくる。コックさんたちが頑張って朝食を作っているのだろう。


「あ……」


 すると、ここで椅子に座る男女――両親と目が合う。

 俺はさささと早歩きで近づくと、「おはようございます。父上。おはようございます。母上」と言って頭を下げる。

 これも最初は面倒だったな~。

 幾度となく「おはよう。お父さん。お母さん」と癖で言っちゃって、その都度苦笑いされたな。まあ、幼い子供だったお陰で、怒られなかったのはせめてもの救いだろう。俺って、怒られるとマジでへこむタイプだからね。


「ああ、おはよう。シン」


「おはよう。シン」


 父はにこやかな笑みを浮かべながら、母は毅然とした態度で挨拶を返す。

 因みに、転生して暫く経ってから知ったことなのだが、父の名前はガリア・フォン・フィーレル。母の名前はミリア・フォン・フィーレルというらしい。

 こうして挨拶を終えた俺はそのままそそくさと自分の席に座る。

 すると、横の席に座る金髪の小さなお嬢さんがぷくっと頬を膨らませながら口を開く。


「遅いわよ。もっと早く来なさい。お父様とお母様を待たせちゃ駄目!」


 めっ!っと可愛らしく叱る彼女の名前はリディア・フォン・フィーレル。側室の子供で、俺よりも1歳年上だ。


「ごめんなさい。お姉様」


 俺は申し訳なさそうな顔をしながら頭を下げる。

 姉はちょっとお嬢様気質で、事あるごとに弟である俺に上から目線で何か言う。まあ、前世と合わせて22年生きた俺が、6歳の女の子にそんなことされても、腹が立つことは無い。むしろ微笑ましく思ってしまう。感覚としては、親友の幼い妹に構ってあげている感じだ。

 因みに俺には1歳の弟もいるのだが、幼過ぎることもあってか、まだここに来ることは出来ない。あともう3年程経てば、一緒に食事がとれるのだろうけど。

 すると、奥の調理場から食事が乗った白いワゴンを押すメイドが来た。

 メイドたちはワゴンを押しながら俺たちの後ろに立つと、俺たちの前に美味しそうな食事を並べていく。

 なるほど。今日の朝食はパン、野菜、コンソメスープか。

 貴族の食事にしては、その品ぞろえは質素じゃね?と思うかもだが、品質は全然質素じゃない。

 このパンに使われている小麦は結構希少な品種らしいし、付け合わせのバターも高級品。野菜、コンソメスープも同じく高級品と、もう全てが高級品だよ。

 すると、食事が全員分出されたところで父が祈るように手を合わせた。


「では、主神エリアス様の恵みに感謝して、いただきます」


「「「いただきます」」」


 いつものようにこの世界の神と言われているエリアス様に感謝をしてから、俺は食事を食べ始めた。


 その後、食事を終えた俺は父に連れられて、父の執務室に入った。

 執務室は書斎のような感じで、落ち着いた雰囲気を漂わせている。

 すると、執務机の椅子に腰を下ろした父が口を開く。


「知っての通り、今日は教会へ行き、エリアス様から祝福ギフトを授かる日だ。良き祝福ギフトが貰えることを、祈っているぞ」


「ありがとうございます。父上」


 上機嫌な父に、俺は頭を下げる。

 5歳になった人は誰であろうと関係なく教会へ行き、主神エリアス様から祝福ギフトというものを授かるのだ。

 祝福ギフトには様々なものがあるが、基本的には戦闘系が多い。そこには、魔物に淘汰されかけた人間を守るために神が祝福ギフトを与えた始めたことが関係しているらしい。

 まあ、当然戦闘系以外もあり、丁度目の前にいる父の祝福ギフトは”数学者”だ。

 ”数学者”は大雑把に言えば計算能力を高速化することの出来る祝福ギフトで、他にも一目見ただけで物の大きさを数値化したりすることも出来るらしい。凄い人なんかは人の行動を数値化して、未来予知なんかも出来るとか。ただ、父の”数学者”はB級なので、そこまでのことは出来ない。

 ああ、そうそう。祝福ギフトには階級があって、同じ名前のギフトでも、階級が上の方が強いらしい。

 階級はSからFまでの7段階に分かれており、Sが最高位でFが最低位だ。

 いやー俺も出来ればS級がいいな。転生者特典みたいなやつでもらえたりしないだろうか。

 そんなことを思っていると、コンコンと執務室の扉が叩かれた。


「入って来なさい」


 すると、ギイッと扉が開き、執事姿の年老いた男性が入って来た。彼はフィーレル家の家宰で、ギュンター・フォン・オラルドという。

 ギュンターは入ってすぐの場所でぺこりと頭を下げると、口を開く。


「馬車の準備が完了しました。いつでも出発できます」


「そうか。では、早速行くとしよう。シン。ついてまいれ」


「分かりました。父上」


 頭を下げて、父の言葉に頷くと、俺は父の後に続いて執務室を出た。そして、そのまままっすぐエントランスへと向かう。

 すると、エントランスには母もおり、いつも毅然とした態度の母にしては珍しく、柔らかな笑みで「良き祝福ギフトが頂けるといいですね」と言った。

 へ~珍しいことでもあるもんだな~と思いつつも、俺は変わらぬ態度で「期待して下さりありがとうございます」と言っておいた。父とはよく話すのだが、母とは全然話さないし、話したとしても何か距離を感じる話し方のせいで、どうしても家族と思えないんだよな。いや、それを言うなら父も同じか。姉も、弟もそうだ。

 そこには前世の家族が存在していることが原因だと思う。

 貴族故に家族らしいことを余りしていない事も関係しているのだろうが、やはり17年間共に過ごしてきた家族と、5年間共に過ごしてきた家族では、どうしても前者の方が本当の家族だと思ってしまうのだ。

 そんなことを思いつつも、俺は両親と共に正面入り口に止まる馬車へ乗り込み、教会へと向かった。

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