F級テイマーは数の暴力で世界を裏から支配する

ゆーき@書籍発売中

第一章

第一話 転生先は……あ、異世界だ。やった!

「は~満足満足」


 俺、遠藤和也は漫画が大量に入ったカバンを手に持ちながら、満足そうな笑みを浮かべた。

 毎月貰えるお小遣いを、大学受験があって結構貯めておいたお陰で、こんなに沢山買えちゃったよ。

 いや~一気に沢山買うって気分がいいものだな。まあ、散財は駄目だから、自重はしないと。

 そんなことを思いながら、俺はバス停へ軽やかな足取りで向かう。


「ああ、赤か」


 ちょうど目の前で信号が赤になってしまい、俺はその場で立ち止まった。こうなると結構待たなきゃいけないから嫌なんだよな~。

 まあ、どうせバス停で待つから結局変わらないけど。

 俺は行き交う車をぼんやりと眺めながら信号が青になるのを待つ。

 すると――


 キイイイイイイイ!!!


 突然右から擦るような音が聞こえてきて、俺は咄嗟に視線を横に向けた。

 すると、そこには歩道へ突っ込む1台の車があった。運転手らしき老人が、運転席であたふたしている様子がチラリと見える。


「おいおいマジかよ……て、何でこっちに来るんだよ!」


 急にハンドルを切ったのか、突然車が進行方向を変えて、信号待ちをする俺の方へ猛スピードで迫って来た。

 俺は悪態をつきながらも、急いで避ける。

 だが――


「ぐっ」


 慌てていたこともあってか、足がもつれて転んでしまった。

 そこに容赦なく車が突っ込んできて――


「あ……」


 俺の意識は闇の中へと沈んでいった。


 ◇ ◇ ◇


 ……ん?

 あれ? 俺は車に引かれて死んだのでは……?

 何故意識がある?

 暗い闇の中で、俺は考えを巡らせる。

 直後、周りが明るくなった。


「お、おぎゃあああ! おぎゃあああ!」


 ん? 赤ちゃんの泣き声!? 

 待て、これ俺が出してる声だよな? 何でこんな声しか出ないんだ!?

 自分の意思とは関係なく、赤子のように声を上げて泣いていることには羞恥心よりも驚愕の方が勝る。

 すると、俺の顔を覗き込む人影が2つ。だが、ぼやけていて良く見えない。


「おお! 男の子ではないか! これはめでたい。一家の後継ぎはこの子で決まりだな!」


 片方が、喜びに満ちた大きな声で叫ぶ。

 ん? 男の子? 後継ぎ?

 いきなり出て来たワードに困惑していると、もう1人が口を開く。


「ええ、そうね。フィーレル家の長男として、大切に育てましょ」


 柔らかな声と共に、さわさわと背中を優しく擦られるような感覚がした。

 ああ、でも今の言葉で何となく察してしまった。

 信じられないことかもしれないが、どうやら俺は転生してしまったようだ。

 ここが異世界なのか、はたまた地球のどこかなのかは分からないが、高貴な身分のとこに転生したということだけは分かる。


「おぎゃあああ! おぎゃああああ!(くっそー周り見えないのが悔やまれる)」


 周りを見て状況を把握したいのに、体は動かないわ視界はぼやけているわで全然できない。あと、どうやら今は泣くことしか出来ないようで、普通に言葉を紡ぐことも出来ない。

 何か泣き続けていたせいで、疲れて来たな……

 あ、何か眠くなってきたわ。

 そして、俺はそのまま意識を手放した。


 ◇ ◇ ◇


 あれから数日経ち、視界がはっきりするようになった俺はようやくここがどこなのか理解する。

 ここは――


(とんでもないぐらい豪華なお屋敷だ……)


 いや、だってこれ凄いよ。

 今俺が寝かされているベビーベッドだって、何か色々と豪華そうな装飾品がつけられていて、これだけで何十万してもおかしくない。

 頑張って寝返りを打つことで見られる室内は市民ホールぐらいの広さで、そこに豪華そうな家具やら美術品やらが置かれていた。そして、大きな窓の外にはテラスと澄んだ青空が見える。


(てか、こんなとこ地球にあるのかな……?)


 雰囲気からして、何となく中世ヨーロッパの屋敷を想起させるような場所だ。こんなところに住んでいる人が、はたして地球にいるのだろうか……?

 なんか異世界であることが現実味を帯びてきたな。でも、まだ確定じゃないんだよなぁ……

 もうちょっと情報を集めねば。

 そんなことを思っていると、ガチャリと扉が開き、そこから1人のいかにも貴族っぽい服装をしたダンディーな男性が、数人の供を引きつれて入って来た。そして、その男性に向かって俺の子守をしていたメイドが頭を下げる。

 さて、この男は誰なのだろうか……?と思っていると、その男性は俺が寝るベビーベッドに歩み寄り、俺を抱きかかえた。


「うむ。賢そうな子だなぁ。将来が楽しみだ」


 そう言って、男性はにこやかな笑みを浮かべる。

 あ、てかこの声って俺が転生した時、最初に聞いた声と同じだな。

 てことは、この男性――銀髪蒼目のイケメンが俺の父親ってことになるな。

 すると、この男性は上機嫌のまま口を開く。


「先ほどお前の名前が決まってな。お前の名前はシンだ。シン・フォン・フィーレルだ。フィーレル侯爵家の長男として、健やかに成長してくれよ」


 そう言って、男性は俺をベビーベッドに戻した。

 ……あ、俺の名前シンなんだ。

 ふーん……なんかかっこいいじゃん。気に入ったわ。

 にしても、侯爵って貴族だよな? 貴族制度なんて今の地球にはない……よね?

 そうしてここが異世界であることが俺の中でほぼ確定事項になっていると、男性はくるりと背を向け、去り際に「確か今日は魔法師団の視察に行くんだったな」と言った。

 うん。お陰で分かった。


「おぎゃああああああ!!!(異世界じゃねーか!!! しかも魔法があるうう!!!)」


 異世界。それも魔法が存在する世界に転生したことに、俺は喜びの声(泣き声)を上げるのであった。

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