カルバン帝国編

さあここはどこ?

「はあっはあっ……ここまで来たら追いつけないだろ」

「そうっ……だな」


 気づけばもう空が白んでいた。

 目の前には鬱蒼と茂る森があって、その先には緩やかな山脈があった。

 自分の姿を見ると血に濡れた手。

 白いTシャツにこびりついた自分の血と誰かの体液。


「本当に殺しちまったのか……」


 魔術を使ったから殺した感触は無かった。

 だが吹き出る鮮血、砕けた白い骨がフラッシュバックして吐き気を覚える。


「う”っお”ぇ”ぇ”」


 這い上がる胃液が喉を焼いていった。酸っぱくて焼けるように痛い。

 何故だろう家畜を殺し、食べることには違和感を感じないのに人を殺すことには嫌悪を覚えるのは。

 一通り吐いた後、袖で口元を拭う。


「落ち着いたか。大地」

「ああ。すまん」

「謝ることじゃないさ」


 ああ、と首肯してから周りを見渡す。

 目の前には森。後ろは草原。ざあと風が吹いて草が波のように揺れた。


「ここどこ?」

「分からないわよ」

『ルシア王国の中じゃない。畑もあったし』

「流石莉央だな」

『でしょー』


 莉央が褒めてと言わんばかりに頭をみぞおちに当ててくる。


「匂いつくぞ」

『大地の匂いは全部オッケー』

「んなこと言ったってな……」

「はいはいそこ簡単にイチャイチャしなさんな」


 びしっと頭に手刀を入れられる。

 莉央も氷華に首根っこを掴まれていた。

 涼雅に言われるのは釈然としないな。なんか。


「とりあえず森沿いを歩いてみよう」


 ここがどこだか分からないが立ち止まっていたら何も始まらない。

 この異世界には魔物は居ないのだろうか。よくあるテンプレ異世界だったらキシャー! と魔物が出てきそうなのだが。


「キシャー!」

「うわっ本当に出たよ」

「これが俗に言う魔物ってやつかしらね」

『へえなんか弱そう……』


 草むらから出てきたのは体長数メートルほどの蛇。

 鎌首をもたげてこちらの様子を伺っているがはっきり言って弱そうだった。

 だが様子が一変、大きく開かれた口に魔力が集まる。


「避けろっ!」


 轟音が響いた刹那、俺たちがいたところが大きく削り取られていた。

 蛇を見ると数十メートルまでに体が膨れ上がり、俺たちを見下ろしていた。


「なあ……これやばくねぇか?」

「皆で魔法使ったらなんとかなる……かしら。これ」

「とりあえず……」

『「「「逃げようっ!」」」』


 俺たちが脱兎の如く逃げ出すと猛スピードで追ってくる蛇。

 僅かな抵抗として無属性魔法を蛇に当てる。


「へ……?」


 すると蛇が吹っ飛んだ。

 結構な距離をでかい図体を地に打ち付けながら飛んでいった。


「意外と弱いの? あいつ」


 涼雅が呆気にとられたように言う。

 ドラゴンみたいにでかくなるから吃驚してしまった。


「それなら倒せるわね」

「おう。氷華殺っちゃうぞ」


 意気揚々と飛び出す二人。

 元気だなぁ二人共。俺は魔術を連発したから疲れてるよ。


『大地。そろそろ疲れた。休む』

「えっ?」


 そう言うなり俺にもたれかかってくる莉央。

 抱きかかえると先程まであった腕が消えていた。


「え、どゆこと」


 莉央はもう寝てしまった。腕が消えるって、もしかして魔術で具現化していた? まあ良いや。起きたら教えてもらおう。

 先程からドカンズガンと音がなっている方を見る。


「おりゃ! バーニングショット!」

「ちょっと涼雅! 私にも当たりそうになったんだけど!」

「ごめんって」

「わかったなら良いのよ!」


 おおう。これじゃあ集団リンチだ。蛇は既に動かないからオーバーキルだなこれ。


「おーい涼雅! 氷華! もう死んでるぞ!」

「あっホントだ」

「いや気づけよ」

「すまんって。あれ莉央寝ちまったのか?」


 涼雅が俺の腕で寝ている莉央を見て言う。


「ああ。そういえば莉央の腕が消えたんだが何か知ってるか?」

「多分それ莉央の魔術だ。王城の時も莉央が起きたと思ったら腕が生えたからな。耳も聞こえてたっぽいし」

「そうか」


 プスプスと焼けてしまった蛇を横目に俺たちはまた森沿いに歩き出す。

 途中さっきの蛇にエンカウントしたが全て涼雅と氷華によって倒された。


「ん? あれ小屋か?」


 馬車の車輪の跡がある道に出た時涼雅が言った。


「ほんとね」


 そこにはしばらく使われてないような小屋があった。

 戸はしっかりしているもののところどころ風化が見られるが少しだけなら休めそうだった。


「あそこで一旦休むか?」

「そうしようぜ。もうクタクタだ」

「莉央もちゃんと寝かせたいわね」

「じゃあ決まりだな」


 魔力の気配もしないし大丈夫だろうと俺たちは小屋に入っていく。



 それを見る目があると知らずに。

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