世にも楽しい異世界召喚〜異世界来たので冒険したい〜

常夏真冬

第一章 異世界召喚された

異世界召喚されてしまいました 加筆しました

『最近多発している集団失踪事件が――』

「またあったんだな」

「止めましょう。大地の前よ」

「大丈夫だ」

「ならいいけど……」

『六名の失踪者が――』


 俺がテレビを消した瞬間俺たちは光に包まれた。


§


「おお目を覚ましたか異世界の者よ」

「は? 誰?」


 華麗で細やかなヴィクトリアン調の謁見室で最初に声を発したのはガマガエルのようにでっぷり太ったオジサンだった。

 ねっとりとした声は体中に纏わりつくようで気味が悪かった。

 そのオジサンは両手や首にゴテゴテと装飾品を付けていて、脂汗の酷い顔はシャンデリアの光を反射して、てらてらと光っていた。

 その次に声を発したのは俺の幼馴染の江口涼雅えぐちりょうが

 色素の薄い目に髪の毛。顔立ちは憎い事に整っていて爽やか系イケメンと言ったところだろうか。


「お前っ! 王に不敬であるぞっ!」


 オジサン改め王の横に居た近衛兵が剣に手をかけ涼雅に言う。

 忠誠心があって良いことだ。


「よいよい。異世界の者は大切にすると言ったであろう」

「はっ! 申し訳ありません」

「分かってくれたら良いのだ。さて異世界の者よ単刀直入に言おう。我が国は今緊迫しているのだ助けて欲しい」

「具体的には?」


 次に口を開いたのは俺の幼馴染の芝浦氷華しばうらひょうか

 切れ長の目に長く伸ばした髪。クールビューティーと呼ぶにふさわしい容姿をしていた。


「まあまあ落ち着け。今から話そう。我が国は少し前から隣国と戦争をしているのだ。初めはすぐ終わると思っていた戦争だが予想以上に長く続き、国を挙げての総力戦となってしまったのだ。今は停戦しているが、また再開したときにはもう……」

「つまりその打開策として俺たちを呼び出した、と」


 またも涼雅が口を開く。


「うむ。城の書庫にある古文書に『異界から来る者は絶大な力を持つ』と書いてあったのでな、そこに記されていた魔法陣を使ったわけだ。お主らには悪いと思っておる。だが私に力を借してくれぬだろうか」


 俺たちは顔を見合わせる。

 ああそうだ、俺の名前を名乗り忘れていた。俺の名前は芝大地しばだいち。どこにでもいるような高校生だ。


「大地。なんか胡散臭いよな」


 囁き声で言われた涼雅の言葉に首肯する。

 困窮を極めている国ならそもそも王があんなに太っていない。太っているということはそれ相応の炭水化物や脂質を取っているということだからな。


「応じてくれるのお主らの衣食住を保証しよう。後日この世界の事も教えようじゃないか。それに剣術、魔法も一流の教育者を紹介しよう」


 ふむ。実質拒否権は無いということか。多分近衛兵以外にも裏で兵が待ち構えているだろうしここでむやみに抵抗するのは得策ではないだろう。


「とりあえずあっち側に合わせるぞ」

「おお珍しく大地が喋った」

「無駄口を叩くな。後で話がある」

「了解」


 俺は一歩前に出て王と相対する。


「王よ、あなたの意見はわかった。だが私たちで話し合う時間が欲しい。返答はまた明日にさせてくれまいか」

「あい分かった。おいギルバール。案内してやれ」

「はっ! 異世界の者たち。こちらに来なさい」


 王の近くに居た近衛兵が案内してくれるらしい。

 だがまだ聞かねばならないことがある。


「王よ、今から案内される部屋は何も仕掛けはないか? もしあれば私たちの信用に影響しますが」


 そう言うと王の目が揺れ動いた。やはり仕掛けをしていたか。

 見ず知らずの異世界の住人を監視せずにいられる者は相当の天然か馬鹿だろう。なにせ得体のしれないものだ。警戒するのは仕方がない。

 だが信用という言葉にはこの国の今後にも関わると思ったのか王は手を振る。すると執事服を着た初老の男性が来て王の指示を聞きまた去っていった。


「すまんな。少し警戒しすぎていたようだ」

「異世界の者よ。こちらに」


 ギルバールに従い付き歩く俺たち。

 部屋につくまで両者無言だった。

 しかし豪華な城だ。きらびやかなヴィクトリアン調なのはもちろんところどころにある彫刻は流動性のある裸婦だったり天使だったり。天井には美しい絵画が散りばめられていた。


「ここだ。ゆっくりするといい」

「ありがとう。あなたはこれからどうするのです?」

「国王陛下のところへ行く。この部屋には誰も近づかないようにするので心配はするな」

「わかりました。それでは」


 ドアを閉め、ギルバールが完全に遠くに行くのを確かめる。

 コツッコツッと言う音が遠ざかり廊下に静寂がもたらされた。

 俺は先程から服の裾を引っ張っている幼馴染を見る。


『ごめんな置いてけぼりにしちゃって』

『ううん。大丈夫。私の耳が聞こえないのが悪いんだから』

莉央りおは悪くないよ』

『……ありがとう大地』


 最後の幼馴染は三条莉央さんじょうりお。ショートボブにした髪。タレ目で落ち着いた人だ。莉央は耳が聞こえない。先天的な機能不全だ。だから手話が使える俺が通訳として話をしている。確か読唇術は一応できるがゆっくり話さないと分からないと言っていた。


「はいそこイチャイチャしなさんな」

「イチャイチャしてないでしょ。現状報告してたの分からないの?」

「分かってるって」

「分かってるなら良いのよ。でも思ったこと言って良い? なんであんたたち冷静なのよ」


 呆れたように氷華が言う。実際俺は結構驚いているが好奇心が勝っている。

 それは涼雅も同じようだった。


「異世界なんて興奮するじゃねえか。それにお前あの約束覚えてないのかよ」

「覚えてるわよ。小さい頃に『異世界に行ったら冒険しよう!』ってやつでしょ。でもそれとこれは話は別よ。ああっ! 私の推し事があ!」

「なんだ推し活かよ」

「なんだって何よ。スマホもワイファイもない世界でどうやって生きてけばいいの私!」

「どうやってって……俺がいるだろ」


 涼雅が氷華の腰に手を回し言う。それはキザな王子のようだった。


「……涼雅」

「ん? 俺の美しさに打ち震えたのかい?」

「離しなさい! この馬鹿ヤリチンが!」

「げふっ!」


 氷華のアッパーが見事に涼雅に決まった。


「あの馬鹿は置いといてこれからどうしましょうか」


 手をハンカチで拭きながら氷華が聞く。涼雅が顔を抑えて呻いているがいつものことだ、ほおっておこう。


「あの身なりで国が切迫とか嘘としか思えないわね」

「そうだよなあ。大地はどう思う?」


 いつの間にか涼雅が復活していた。


「搾取するだけして民のことを考えず贅沢する愚王の典型だろう」

「言うねぇちなみに俺もそう思う」

「私も。それになんか――」

「「「胡散臭い」」」


 見事にハモってしまった。なんかそんな感じがするのだ。

 莉央もうんうんと頷いている。

 あの玉座から溢れ出そうなほどの巨体。

 王ならカリスマ、というか人を引き付ける声を出しそうなものだがそれを感じなかった。


「そもそも何も思い入れのない国のために戦うとか誰がするんだ? 俺はやりたくないね」

「同意だな」


 戦うということは命をかけるということだ。そんな事するのは国の兵だけでいい。

 また涼雅が口を開きかけた時、コンコンッとドアが音をたてた。









どうも真冬です。

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次話もよろしくお願いしますっ!

『』は手話、もしくは他の言語。他の言語通達方法での会話です。

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