当たり前こそが『彼女』の日常である。_夜

「受李ー、今日は何がいい?」

「んー……なんでも」

「なんでもな一番困るんだが……」

「じゃあ…カレーで」

「あいよ」

そう返事し蓮佳がキッチンに向かったとき、受李はさっきまでやってたFPSゲームのアプリを閉じて、ソファで横になった。

「……」

『そんなに自分の評価を上げに来たの?』

「評価……ね……」

と猫乃が言ったあの言葉がまた頭に過ぎった。そして、受李は目を閉じると頭の中に川が流れるかのように走馬灯が流れていた。

それは母や親族、使用人から虐められた思い出であった。それがあったのは受李が七歳のある日である。受李が『能無し』と判定されて以降から、受李の運命が歯車の如くに変わった。それを聞いた母は酷く嘆き、そしてこれが当たり前かのように受李を軽蔑し、意吏よりも酷い扱いをしだした。

それは母だけではない。親族も同じように殴り、蹴り、引っ張り、暴言を吐くなどともううんざりな程のくらいに日々繰り返す暴虐をした。幸いにも意吏には見せてはいないのことに、前と同じように遊んでくれたことや怪我のことで心配してくれたことが、ほんの僅かな救いだった。だが、暴虐は日々にエスカレートしていき、もしものときに受李が暴れないように左手に呪詛を挿れて、受李を奴隷のように扱った。もちろん、意吏にも会わせずに。だが、その直後のことである。






「………父さんが助けてくれたのは」

その日は当たり前のように使用人から「約立たず」だと罵られ、背中を踏みつけられていた。

__もう、いっその事……。死んでしまいたい。

受李はもうそんな事を考えていた。その時であった。使用人に殴られる寸前に

『何してだ、お前ぇぇぇ!!!』

と声が聞こえた途端に『ぐおォ!?』と使用人のうめき声が聞こえた。その声の主は

「受李!大丈夫か!!受李!」

「……?とう……さん?」

「受李、」

なんと出張したばっかりの父だった。父は焦りながら受李の上半身を起こして

「どう……して……」

「意吏が母がお姉ちゃんに合わせてくれないと言われてな……。それに嫌な予感してな…。すまない……」

父は受李を抱いた。とても優しくて温かい。本当の温もりに触れているようだ。その久しぶりの温もりに触れてしまい受李は

「う、うぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

大量に出る涙とともに大声で叫んだ。

「怖かったろ…。辛いだろ?意吏も心配していたよ」

「うん……うん………!」

「よし、これからすぐにお出かけをしよう。それにお医者さんにも行こうな」

「うん…!」

と受李は嬉しいあまりにただ頷くことしか出来ないのだ。そして、父は受李を車に乗せて受李の代わりに鞄の荷造りをしてすぐに車を発信させた。つまりに言えば逃亡だ。その時の父は例え、俺が捕まっても受李だけはあの奴らから離すとは思ってもいたのだろう。その時の受李はただただ父が助けてくれたことでいっぱいいっぱいであった。




「……い」

「…………」

「おーい…」

「…………」

「おいってば」

「う、うう…?」

と受李が目を覚ますと蓮佳が顔を近づけさせていた。

「……」

「おーい?」

受李はまだ寝ぼけているのか目の前にいる蓮佳がボヤけているようだ。

「……蓮佳」

「どした?」

「お前……そうとう老けたんだな」

「あー寝惚けてたか。だったらはよ起きろ。夕飯出来てるぞ」

と何故かいつも以上に不機嫌を増してた蓮佳がダイニングに向かっているのを完全に見えたので受李もすぐに蓮佳を付いてった。

「今日の夕飯は?」

「生姜焼き」

「おお……これはいかにも……」

「え、どした?」

と受李が感嘆をこぼしたのは言うまでもない。受李の目に映っている生姜焼きは何故か光沢がある。それは具体的な事が何なのかが分からないが値段が高いような定食屋にいるかのような気分である。受李は生姜焼きに気を取られながらも席に座り、じっと生姜焼きを見ていた。

「それじゃ、いただきます!」

「いただきます……」

パチン!と合わせる手の音が大きい蓮佳と違い、静かに手を合わせる受李。早速、箸を手に取り、生姜焼きを入れる。

トン、スー……

と簡単に箸でも切れるような肉の柔らかさと切れ口から出てくる肉汁。俺は高級な定食屋でも行ったのか?と疑問を持つほどだ。

「何これ……」

受李がそう口をこぼし、あっという間に一口に出来た生姜焼きを口の中に入れた。

「はふっ……。うん、うまい」

「ん、そうか?俺はまぁまぁだと思うが」

「え、そうなの?」

「うん、そうなん?」

「うん……これはうちの感覚がおかしいんだ。気にするな」

とガツガツと食う蓮佳と比べてはしんみりとゆっくりに食う受李。そして、受李は思う。

__………蓮佳、完全野生児やこれ。この前も

受李は前々からそう思っていたのだった。蓮佳の食感が全くもって違うことを。あんまり協調はしないが例えば、とあるスイーツの同じパフェを頼んで食べた時も

『このパフェ、さっぱりしててとてもいいな』

『ふーん、これはまぁまぁだけど』

『………え?』

うどんの時も

『ん。蓮佳が選んだうどんの汁、うまっ!すごく、酸味効いててええな』

『え、結構薄いよ。これ』

『ええ……』

と引くほどの味音痴なのである。

「でも、何故か上手い……」

「受李、どした?」

「ううん、なんでもないよ」

受李は蓮佳を誤魔化す。

__けど、それが飯が上手い理由で来る客は居るからな……

そう自己納得しては受李は今月の新作ゲームの特集雑誌を開いて目を向いた。

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