夜に潜むもの ラウル人

 アイリーンは、閃光に錯乱されたあと、ヴァルシュヴァル卿に命令され手分けして、敵のいく先を捜索した。すぐさまマルグリッドのアジトをみつけだしたが、そこに彼らの姿はなかった。

(逃げられない事は察していたか)

 コツコツコツコツ……

 暗い路地をあるいていく。先ほどの傷は魔法によって治癒していた。だがラウル人の魔法は、アルシュヴェルド人のそれと違って道具をつかって使用することにたけている。本来なら、早く病院にいかなければならない。所詮応急処置だ、ぽたぽたと血をたらしながらつぶやく。

「“あの手術”いらいこんな事になるなんて、予想もしていなかった……私はもともと、気弱だったけれど……“あのヴァルシュヴァル卿”にここまで使役されることになるとは」


 ふと、前方をみる、青の夜鳥の格好をした人影がそこにいた。

「お前は……マルグリッド……」

「ふと、上空にとびあがろうとした、だがとびあがらなかった」

「なめているのかああ!!!」

 叫びながらその服の裾をつかんだ。そして、マルグリッドはこぶしをふりあげ、凹スカとその人影を連続で殴り続けた。

《ドスン、ドスン、ドスン、ドン、ドン!!》

 ふと、手ごたえに違和感をおぼえ、こぶしをみる、何か、ずっと柔らかいものを殴っているようなきがした。ムチをとりだし、そのマルグリッド、青の夜鳥の上半身を切り裂くように薙いだ。

《シュヴァアアア》

 その時、きれこみから体は真っ二つになり、その下方から顔を出したのは、苦笑いをしているプラグだった。

《マルグリッドオオオ!!!》

 アイリーンは、絶叫のような声をあげた。


 そしてプラグにむかってムチをふるった。だがプラグは、不敵な笑みをうかべた。

《巨大な爆弾をつくったんだ、それは今は使わないけれど》

 そういうと、アイリーンはうしろをふりむく、うしろにはなたれたムチをみる、その瞬間。

《ドカアアーン》

 ムチは半分くらいのところで魔法陣が生じると爆発をした。

「く、親子そろって」

「親子?……」

「ふん、知らないのか……あんたは、ユルム……マルグリッドの思い人のクローンだ、私のヴァルシュヴァル卿が“転換の術”で中身が変わって以降、狂気の実験を始めたが、その一つが、ヴァルシュヴァル人のクローンをつくり、そのクローンを股実験体にする、狂気の実験なのだ、ははは、ふははは」

 プラグは、自分の顔が引きつっているのを感じた。

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