準決勝
予選は、決闘祭が近づくにつれて徐々に執り行われていった。それは主に準備を終えた夕方に執り行われる。管理するのは一番年上のユーゲンスだ。知的で優しいおっとりとした見た目で、皆に慕われている。
当初のブロックの予選で、ペペロは順当に勝ち進み、やがて順決勝へと歩みを進めた。
そして、次のブロックで勝ち進んだのは意外にもあのグドだった。
次のブロックは、クランが出場した。が、クランは意外にも魔力が弱かったらしく、うまくオートマタを操れずに、失敗し、敗退。クランは右腕を大事そうにかかえた。変な噂ではあったが、クランの右腕が取れたと噂をするものもいた。
そして最終ブロック、もはや戦う意味や必要性を失ったプラグだったが、そのブロックで順々決勝へと勝ち進んだのは、エリサだった。
“あちゃー”
と考えて、その戦いが行われる前夜不戦勝を考えたり、オートマタに込める魔力を弱めようかと考えたが、その夜のことだった。
「起きてる?」
「起きてるけど」
男児と女児の寝室はわかれていたが、男児の寝室に入ってきて、エリサが自分の肩をゆすった。
「ねえ、なんであなたは、この決闘祭にでたの?」
純朴なエリサが、美しい瞳でこちらを見下ろした。月夜の下、あまりにも美しくみえ、恥ずかしくなり、目をそらした。
「なんで?……」
しばらくだまりこんでいたが、エリサが何度も肩をつつくので
「まあ、大事な人のためかな、別にもう、勝たなくてもいいんだけど……」
と答えると、エリサはたちあがってため息をついた。
「?」
体をおこす。
「じゃあ、全力で戦ってね、大事なもののために」
エリサは後ろをふりむいて、両手を背中の後ろでくんで、いたずらっぽく笑って部屋をでていったのだ。
結局その夜は一睡もできなかった。エリサを守るために出場した大会だ、もし優勝したら何の願いをかなえようかと思い悩みもしたし、これに勝ったからといって、あのクランの奇妙な言動が変わるわけでもない。そして何より、クランはその日、エリサにべったりで、横にひっついていやににやにやとしていたのだ。
そして、その日一杯疲れがたまっていたのだが、決闘祭の準備を終えると、準決勝の用意が行われた。となりでグドが、自分の様子を心配している。正面では、男女―エリサとクランが何やら仲良さげにしている。何のために戦っていると思っているのか、無償に腹が立った。その感情と、昨日エリサに頼まれた“全力”で戦ってくれという願いが頭の中でループしていた。
その日はやけにペペロがうるさかった。というのも、自分の試合以外で司会を務めるのはペペロだったのだ。
「さあ、願いを勝ち取るのはどっちだ!!」
やけにうれしそうだ。思えばペペロは自分にも、エリサにも恨みや怒りを持っているのかもしれないと思う。なんだかそれも無性に腹立たしい。あれだけ心配してやったのに、まだ、自分のプライドのために……俺を敵視しているのか。
そんな感情のまま、リング、とされるオートマタの台ののる一つ下の土台の上にたった。そして、号令がかかる。
「両者、オートマタを台へ」
プラグは、なぜか怒りがわいてきて、オートマタを力強く握る。すると、またどこかから声がした。
“力まないでいいよ、君が望むなら、君の望む事を行おう、僕と君がこんなに無邪気な時間を過ごせるのも、あとわずかだから”
(??)
ゆめうつつに、ふらふらする体で周囲を見渡す。何もおかしな人影はない。エリサが、正面で叫んだ。
「正々堂々と戦おう」
会場の目がプラグに注がれる。ペペロが叫んだ。
「どうしたプラグ!!調子が悪いのか?」
プラグは、よろよろして、寝不足のせいかぼんやりしていたがペペロが“決闘の誓い”をたてろといってから、すでに5分が経過していたらしかった。わけもわからずプラグは叫んだ。
「正々堂々と戦おう!!」
そしてオートマタに魔力が注がれる。
ぼんやりとした意識で、その戦いの様子を頭を抱えながらみていた、オートマタは互角に戦っている。“ルケ”と名付けた彼のオートマタと“ピネ”と呼ばれたエリサの小柄な、ダンサーのような形のオートマタ、動きが可憐で、うつくしい。
ぼんやりと考える。彼女たちは楽しそうだ。彼女の友達と、そしてクラン。頭の中に憎しみのような感情がぼんやりとたった。
“プラグ……”
「何だ!!」
頭がいたい。この声が聞こえるたびに頭がいたい。何か重要な事を忘れているような気分になる。
“僕は本気をだしていいのかい?”
プラグは頭を整理した。自分が勝つ必要があるのか?マルグリッドはどう考えるだろう、こんな子供の遊びで本気をだすべきか?自分の願いは何だろう。
“プラグ……”
(うるさいな)
寝ぼけた頭で怒りが積みあがっていく、どうしたらいいかわからない。判断力が鈍る、プラグは立ち上がる、すると、自分たちの戦いを見つめるマルグリッドがいた。
(マルグリッド……そうだ、一日彼女と自由に過ごせる、それでいこう)
それで、きっとエリサの嫉妬もかえるかもしれない、ぼんやりとした頭で、普段は至らない妙な発想にいたり、やがてプラグは、その状況をみた。
台の上で、いままさに後ろ側に倒れ掛かり、どうあがいても姿勢が持ち直せないほどに背中をそっている時分のロボット“ルケ”、プラグは、なぜか、その時さけんだ。
「勝て!!!」
歓声は誰もがエリサの勝利を疑わなかった。だがルケは、姿勢を奇妙にもちなおし体を回転させると、重心のアンバランスさを敵のピネの体におしつけるようにしてだきつき、体の位置を入れ替えた。
“ドスーンン”
何がおこったのか、誰もがわからなかっただろう、だがそれはたしかに、ルール上の勝利だった、第の外に体がついたら、そちらが負け。望まぬ形で、プラグはエリサに勝ってしまったのだった。
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