クランの異変。

「ヒントをあげよう、君の近くに、青の夜鳥はいる」

「君はさっき僕がそれだといったろ!」

「ふん、君自身がそのことに関しては心当たりがあるだろう、君はもう本物を目撃しているだろう」

 その時、プラグは頭の中にあの夜―ペペロを追った夜の事が思い出された。

「青の夜鳥は、“アルシュベルドのオーパーツ”を使って人殺しをしているんだ、隠し事を好きな人間が、君の直ぐ傍にいるだろう」

 その時はアイリーンのことが思い浮かんだ。隠し事をしていたのはアイリーンだ。まさか、あんなふうにエリサの人形をぼろぼろにするなんて。

「だが、もっとも、隠し事をしているのは僕のすぐそばにいる」

「??」

「君だよ、本当の君を隠しているのは、君だ、プラグ」


 その頃。全く別の場所、城のある地下の一室にヴァルシュヴァル卿は玉座にもにた立派な椅子に座していた。彼の直ぐ傍に、執事のような風の格好をした男がたっている。

「ブロウグ」

「は、いかがなさいました」

「つかわせたものに、あの少年を始末させようか」

「は、それもよろしいものかと」

「アシュベルド人は、この大陸に災いをもたらした、非道な人体実験、戦争をもたらし、我々力なき民ゴングル人を、差別した」

「ええ」

「あの少年は、見ているだけで吐き気がする、あの青の目、青の髪……処分しようか」

「ええ、この領はもはやあなたの手の中にある、自由に羽ばたいて構わないのですよ」

「フッ……まるで俺が青の夜鳥のようじゃないか」


《ゴンッ》

 プラグは押し倒され頭をうった。

「お前はもっと暴力的なはずだろう?お前の好きな女がひどい目にあったらどうなんだ?」

「あ?」

 プラグは一瞬にしてそれを連想し、クランの襟首をつかんだ。だがすぐに力をぬいた。

「ふん、腰抜け目、だからなのだ、もしお前の好きなシスターマルグリッドと俺が秘密の関係にあるとしたらどうする?」

「どうもするか、お前いったい、何がしたいんだ」

「フッ、お前を、目覚めさせたいんだよ」

「!?」

《ゴツッ》

 拳を振り上げると同時に、クランはすぐにプラグの頭をなぐった。妙に重く、鉛のように硬い拳だった。

「ペッ」

「これでもか!!」

《ゴウン!!》

「……」

 プラグは動じなかった。押しのければすぐに逃げられたがそうもしなかった。なぜだろう、それは贖罪だろうか、あるいはあの夜―マルグリッドに会った後の自分を試していたのか。あるいはマルグリッドに対するあてつけだったのか。

《ガン、ゴン、ゴウン!!》

「お前は、ずるい、何度もやりなおせて、人にもすかれて!!」

《ガウン、ゴウン、ガウン!!》

 何度も頭を殴られたが、まったく動じなかった。それよりも相手の怒りが謎だった。

「さすが、捨て子、“黒猫!!”」

 そういわれたとき、はじめて自分の記憶を恥じて、拒絶するように彼をつきとばした。その勢いで、魔力が体を走ったのを感じた。魔力を人に使ったのは久々だった。つきとばされたクランは壁にたたきつけられた。プラグは、なぜだかあの夜の 壁をぶちぬいて倒れたオートマタを連想した。

「う、う……」

「す、すまん、大丈夫か」

 プラグは、いました行いを恥じた。

「こんな事、神様は許さない、俺はお前なんかよりよほど罪深いのに」

「ク……ククク」

 クランは、のそりと体制を直す。その片腕が奇妙にだらんとたれさがっていた。

「脱臼でもしたか?」

 プラグが尋ねると、クランはその右の片腕を大事そうにかかえ、隠すようにして教室を後ろのドアからでていった。

 その前方のドアから、折わるくアイリーンが顔をのぞかせる。

「あ、これは……」

「プラグ、クランをあまりいじめないように」

「??」

 この状況のおかしさと、殴られた痛みでくらくらとしたのか、プラグはそのまま意識をうしなって倒れた。

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