あなたの愛に恋をしていた

 昔、君に「私のどこが好き?」と尋ねられたことを覚えている。

 私は答えられなかった。

 別に、好きなところがないというわけでは無かった。

 君のことがどうしようもなく好きで、付き合って、デートをして、何時間も通話をして、セックスをして。

 好きと言う感情が、たまに分からなくなることはあった。

 それでもやっぱりふとした時君に会いたくなって、良いものがあったら君に共有したくて、嫌なことがあれば君に慰めてほしくて、ずっと君に触れたかった。

 だから好きが分からなくなっても君を好きだというのは絶対で、それを疑うこともなかった。

 

 だが、好きなところをいくら上げても、それは

 優しいところ、ふとした瞬間に抜けたことを言うところ、私を頼ってくれるところ、それから唇の形、君の形、その全て。

 どれを取ってもそれはどこかの誰かが持ってるもので、君である必要は無くて、それでもそれらを持つ他の人は君ではなくて。

 私が好きなのはただ君だけだった。

 私の前から君が消えた後、私は君のことが好きではなくなった。

 ただ単に、別れた相手に対しての嫌悪感とかがあったからかもしれない。

 でも確かに間違いなく、今は君のことは好きでないのだ。


 ガチ恋勢と言う言葉がはやったのはいつごろからだろうか。

 私はその言葉がずっと解らず無縁だった。

 だが、君と別れて分かった。

 家族のことを愛する理由も、友人を愛し共に過ごす理由も、画面の奥に恋をしない理由も、君に恋した理由も。

 私は、愛に恋をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る