第13話

 私、蒼唯優芽は画家である。

私の好きな画家、市ノ瀬楓が倒れた。

その時、なぜ倒れたのか分からずただただ立ち尽くしてしまっていた。

それから少しして彼女の友達である七瀬渚が駆けつけて市ノ瀬楓さんをバックヤードまで運んでいった。


 市ノ瀬さんが回復して七瀬さんと一緒に帰ってからのこと。

私は師匠である赤嶺さき先生に聞いた。


 「師匠……。なんで市ノ瀬さんは倒れたですか?……。」


 しばらく黙り込んでから師匠は。


 「その答えを知りたいのならここに行くといいよ。」


 そう師匠からあるチケットを渡された。

《メイプル=シスターのアトリエ》と書かれたアトリエのような博物館のような、美術館のような場所のところ。


 「ここにあるですか……。」


 師匠は頷くのみで、そこから先に答えを言わない。

昔からそうだ。重要なことは言わない。

『見て、感じて、信じたものを描け。』が師匠から聞かされたモットーだった。

私はその言葉を信じてチケットのアトリエに向かうことにした。






―――――――




 郊外にある湖が拝める立地の傍らに件のアトリエは存在している。

事前にネットで調べた情報によると、市ノ瀬楓さんはここで絵を描いていたらしい。


 「ここがあの絵の誕生の地。」


 この時はただただ、ファンとして、憧れの存在として、この地くることを興奮していた。


 程々に整備された道を歩いていくと、アトリエと思われる建物とその隣に美術館らしき建物が並んでいた。

美術館らしき建物には《メイプル=シスターのアトリエ》と書かれていた。

ここが目的地だ。


 受付でチケットを渡して建物に入ると、入口からすぐに市ノ瀬楓さんの作品が並べられていた。

幼少期の頃から、コンテストやイベントで姿を見せなくなる時の頃まで一通り揃っていた。

この先に深淵が待っているとも知らずに。


 しばらく見て周り。2週目を終えた後、休憩して帰ろうとした時。


 (〔縺薙▲縺。繧〕)。


 なにかに誘われて私はアトリエに迷い込んだ。

身体が、足取りが重い。

私の画家としての感性が警鐘を鳴らしている。

「ここに行っては行けない」と。


 しばらく進むとアトリエと思わしき扉の前にいた。

私は恐る恐る扉を開いた。

中にはたくさんの絵がそこらかしこに展示されていた。

趣味の悪い美術館に囚われたような……そんな感覚にいた。

絵はいたって普通。

なのにどこか引かれる。

それはまるで市ノ瀬楓さんの絵ような……。

ような……!?。

私は慌てて周囲を見渡した。


 「っ……!。」


 どこもかしこも市ノ瀬楓さんが描いた絵ににて……いや違う。市ノ瀬楓さんがこの絵に似ているとなぜか確信した。

なぜかは分からない。

だけれど……そう納得せざるを得ないから……。


 しばらくこの奇妙な違和感の展示物を進んでいくと……ドーム型のガラス天井がある部屋へと辿り着いた。


 (〔繧医≧縺薙◎〕)。


 辿り着いた先にあったのは未完成の絵。

まるで市ノ瀬楓さんような綺麗な少女の……あれ、なんでこの絵が市ノ瀬楓さんだと……。

色も中途半端で、ほぼ下書きの絵……。

なのに色があって、完成したような……。

目が錯覚したように情報を処理してくる。

どうして……。


 (〔菴輔′谺イ縺励>〕)。


 私はこの絵から何を見ようとしているの?……。


 (〔縺ゅ£繧〕)。


 私は何を……。


 (〔縺ゅ↑縺溘′谺イ縺励>繧ゅ?縺ゅ£繧〕)。


 私は……。






―――――――――――――――






 「よく描けてるじゃん。」


 師匠の声掛けで意識が戻った……。

戻った?。

私は何を……。


 「っ……!?。」


 私は急いで状況を確認した。

手には筆を。

近くにはパレットと水が。

そして、目の前にはつい先ほど完成したと思われる私の絵が……。

絵が……。

絵!?。

私はいつ描いた。

今。

どうして……?。


 「師匠……これはいったい……。」


 師匠は冷静に私の絵を見ている。

特に驚くことも無く。


 「なるほどね。君が求めていたのはこれか……。」


 師匠がいったい何を言ってるのか分からない。

私の求めているもの……?。

どこが……。


 『大きな劇場で歌う1人の歌姫の少女の絵』のどこが私の求めていたものなの?。

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