メルヘン風にゆく
緑がふぇ茂りゅ
第1話 雷神話
「少女時代は良かったなぁ……」
今日も
後ろのワイドショーは佳知子のソレも聞かず忠実に皆で話し合っている。その当然な無関心さが佳知子には心地良かった。
洗い終わった皿を拭き、切れたキッチンペーパーの為に買い物に出かける事にした。夫と息子を一緒に連れて行こうと考えたが、既にこの世にはいない事を思い出した。
今日の空は灰色である。田舎と呼ぶには少し難しいビル群の街を歩き、いつもの店へ向かおうとした。
奇しくもあの時と同じ空であり、同じ信号場所であった。嫌な心になりながら道を渡ると、突然目の前が真っ白になった。
「大丈夫ですか!? あっ……ひどいやけど!?」
通行人に心配されながら、私の体は天に昇っていった……え?
「あれぇ、あたしどうしちゃったの。真っ昼間から夢でも見てるのかしら??? でも、下にはみんながいるしねぇ」
昇りゆく体で佳知子は考えたが、何も浮かばなかった。体は浮かんでいるが。
「うーん、多分雷にうたれたのかしらね……もういいわね。あなたも、きっ君も向こうにいるから、ちょうど良かった」
発言の言い切り、またもや佳知子の視界は真っ白になった。今度は柔らかい光だった。
次に目覚めた場所は……雲の上だった!!
先程とは違い、セルリアンブルーが空を覆っている。
「きっ君、ゆず代さん、どこにいるの……?」
佳知子は夫ゆず代と息子を探しに歩き回り始めた。途端、彼女の体は落下した。雲の隙間から落ちてしまったのか。
顔だけが雲から出ている状態、そこで彼女の落下は止められた。彼女が見ている先には、その手を掴むまさに「神様」というべき人物がいた。
「ごめんなさい、神様。あたし今この状況、溺れる寸前みたいですごく怖いから引き上げて欲しい……」
「ほい」
お願い通り、神様は佳知子の体を引き上げた。
「無闇に動かないでね」と注意した神様の顔は、よく見るとゆず代だった。
「あなた!!!」
「ああ、違うよ。これは会話を円滑にする為のカムフラージュ」
彼女の喜びは一瞬にして砕かれた。そのせいで不機嫌になった。
「神様……なんであたしを雷なんかで殺したんですか。私は子どもと夫を、文字通り死ぬまで支えてきましたし、ママさん達の相談に乗ってきました。少なくとも罰を受ける道理はないはずです。」
「そうだね。君は呼ばれたんだよ、異世界から」
ちまた、特に本屋などでよく聞く異世界の文字が出たから、佳知子はドキっとした。まるでライトノベルみたいである。
「異世界? 私勇者にでもなるんですか」
「分からない。ただ私は願いを受けて君を呼んだだけだ。ちなみに君に拒否権はない。緊急性の高い魔法を以って呼ばれてるからね」
どうせ死んだ身だから、佳知子はどこに生まれ変わったって良かった。
「分かりました。あたし、もう行けます」
「そうか。じゃあそこの雲らへんから落ちなさい」
「そうすれば行けるのね」
「おそらく」
おそらく、の不安定な言葉を聞きながら佳知子は雲の端から落ちた。起点から転生後まで、ずっとムカムカしていた。
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