第18話 新幹線と彼女
窓から見る白い風景が飛ぶように流れていく…。
泣き止んだ彼女は、僕の腕を掴んだまま窓側の席に座っている。
一年以上もの間、僕を遠ざけていた彼女が百八十度変わって、僕に甘えてくれるのは驚きを通り過ぎ感動、いや心臓が止まるくらい嬉しい…。
正直に言うと弁当が非常に食べにくいのだが、今は彼女が落ち着くまでこのままでいよう。
それから暫く経ってから、僕は当たり障りのない質問を彼女にしてみる。
「あのさ、新潟駅に着いたらそこからどれくらいなん?」
「うん、車で迎えに来るっていってたから、車だったら二十分もかからないかな」
よし、どうやら、落ち着いたみたいだ。
良かった…。
「それにしてもさ、ここらの雪ってほんと凄いよね」
人の背丈以上に積もった雪が、屋根の上に積もっている。今にも家を押しつぶしてしまいそうだ。僕は、こんなに深い雪景色を見たことがなかったので、つい見入ってしまう。
その時、僕の両頬に暖かい感触が…、
はっ?と気づけば、彼女が僕のほっぺに両手を添えているのだ。
「外ばかり見ちゃ嫌だ。私を見てて」
慣れない事をしているからだろうな。
僕の頬を触ったまま彼女は顔を真っ赤にしている。
「あのね。私、ずっとミニスカート履きたかったんだよ。だけど、やっぱり気にしてしまって、パンツかロングスカートばっかりだったんだ。高井くん、気づいてた?」
恥ずかしかったからだろうか…。
彼女は視線をずらしながら急に話題を変えた。
彼女自身の肌と義足の色はとても似ていて、ぱっと見は全く分からない一体感を感じさせてはいるが、確かにじっくり見れば分かってしまう。
そうか、やっぱりな…。
とにかく同情して欲しくない、一人でやれるという思いがこれまでのような強い彼女を作り出してきたのだろう。
だが、この短期間に、少しずつだが、彼女は変わっていっているような気がする。それが僕の影響というのであれば、男冥利に尽きる。
一人で普通にやれるという強固な鎧を纏っていた彼女。
その彼女が本来持つ自然な振る舞い、そう、みんなを信じる心へと戻っていけばいいな…。僕はそんなことを考えていた。
「ねぇ。私、ミニスカート履いてもいいのかな…」
彼女は不安げに僕に聞く…。
「あのね。それを僕に聞く?絶対に似合うって。だって、空ちゃんって、凄いスタイルいいもん」
彼女はじーっと僕を見つめる。
「なんだか高井くんの目線が、すっごくいやらしいんだけど…」
んなこと言われてもしょうがないよ!!
「男はいつもいやらしいんですっ!」と言って、僕は、弁当の残りをかきこんだ。
弁当を食べて眠くなったのか、彼女は僕の肩にもたれて静かな寝息を立てている。
なんて愛おしいんだろう…。
好きだ。彼女がとても…。
新潟まであと三十分。
彼女が育った街はどんなところなんだろう?
僕は、ただただワクワクが止まらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます