第15話 虚飾のなかの真実

 無彩色から有彩色へ。世界は活気を取り戻した。

 光と空気が俺の身に降り注ぐ。あまり深く考えず感覚的に受け流していたが、この情景はなんだろう。


 暗黒のぐるぐるが現れた途端に景色がせるのは何故だろう。


 どうして、それまでそこにいた人間は見えなくなり──まるで水の底に潜ったように雑踏音まで聞こえなくなるんだろう。



「連中もこちらの世界で騒ぎを起こすのは本意ではないのでしょう」



 ビーチェは「ある種の位相いそう空間を創り出している」と言った。よくわからんが、異次元空間の一種らしい。

 けれど、それほどの科学技術──魔法技術と呼ぶべきだろうか、さらにモンスターを自在に操る術もありながら、この世界に何を遠慮することがあるのだろうか。



 まだガキだったころ、どうして宇宙人は俺たちの前に姿を現さないのか不思議だった。

 地球よりはるかに進んだテクノロジーを持ちながら「地球人類に何も遠慮することはないだろう」と考えたからだ。

 そういう映画や小説はたくさんある。地球人類の抵抗なんて道端のありをせせら笑うレベルで踏み潰される。恐れと畏れ。神にも等しい存在。


 けれど実際には、宇宙人が地球人を虐殺するようなことは一度もなかった。逆に地球人同士の虐殺を救うことも全くなかった。


 彼らが、今現在に至っても「我々は宇宙人だ」と都市の真ん中にUFOを着陸させることはしていない──なぜか?



 俺はいつしか「そんなものは存在しないからだ」と思うようになった。


 すべては見間違いか脳が生み出した錯覚なのだ。

 人間の目は「実在する物体の形や色を正確に見ているわけじゃない」というのは脳科学では常識らしい。目を通して脳へ伝えられる情報は、脳が判断出来るデータに置き換えられる。それを人間は「見ている」と錯覚しているに過ぎない。


 つまり人間の目はスマホのレンズであり、脳はスマホの演算装置だ。

 スマホのカメラで撮ったものは、いったんデータに置き換えられる。それをコンピュータが復元している──というのは、現代を生きる誰もが知る知識だ。


 ところが、かつてのアナログカメラは実在するはずのを印画紙にそのまま焼き付ける──だからなのか、いわゆる『心霊写真』というやつはアナログカメラの時代にだけ活況だった。


 デジタルデータ化された今日こんにち、コンピュータが「バグだ」と認識したものは弾かれ変換されない。

 だから本来、そこにが写らない。一般平均的に認知の範囲を超えるものは存在を許されないのだ。



 ひとは「見ている」と感じているものしか認知出来ない。スマホであれば「故障かな?」と疑えるが、己自身で見えていないモノが実は「そこに存在している」などと疑う余地は無いということだ。


 他人の見ているモノが、本当に自分が見ているモノと寸分たがわず同じだと、どうして断言出来るのか。

 実際、オバケ騒動あたりの事象では「見た!」と主張する者の隣にいながら「俺にはわからなかった(そんなもん見えねぇよ)」なんてことは良くある話だ。



 逆に「見えている」と思い込んでいたものが、実は脳が創り出しただけの虚構の可能性だって有りうるのだ。


 そこでだ、俺が見ているこの光景は本当に疑ってみる必要はありそうだ。

 少なくとも、あの奇怪なモンスターらは本当に実在するのか。

 俺の目の前で日本刀を振り回すラノベ少女も同じだ。と、ビーチェを凝視する。




「そんなに、わたしの躰にご興味があるんですか」


「ちがう!」


「皇子の気持ちはわかりますよ、男の子とはそういうものだと母から聞いております。でも恥ずかしいから、ここでは我慢してください。あとでお見せしますから」


「だから、ちがう……、って見せる。なにを?」


「あら、まあまあ。ここは、お若いお二人に任せることにしましょう。では、わたしはこれで」

 母さんが逃げようとするのを捕まえる。


「殿下、お許しください。わたしにはリズボーンという夫が……」


「何の話だ、ちがう。母さん、その姿でアパートに帰る気か!」


「ちゃんと駅のトイレで着替えますよ」


 そうか、安心した。

 でも着替えを持ってないような……あぁ、時空ポケットというやつか。


 と、思い出し再びビーチェを見る。

 なんで、こいつは使えないんだろう。


「皇子、もっと理性をもってください。わたしの躰を好きにするのは自由ですが、犬猫ではないのですから場所をお考え下さい」


 赤く昂揚する女子学生は身を捩りながら睨んできた。


「だから何を勘違いしてるッ!」

 俺はガキんちょに興味ない。まあ、胸のサイズだけは女子大生なみだが。


「ああん、もぉ!」


「だから違うッ!」

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