第4話 「見えない運命」お題・占い

 私は占い師。この界隈ではちょっと名の知れたもので、特に恋占いは百発百中だ。

 現に私が占った人は、運命としか思えないほどの、ぴったりの相性の人と出会えるのだ。


 ……私を差し置いて。


 え、どういうことかって?

 話は簡単だ。占い師は、自分のことを占えないのだ。

 ほら。こうして水晶玉を覗いても、誰も映らない。

 わかるならとっくに、運命の相手とやらと結ばれているっての。

 そんなことを考え、ため息をついてると、お客さんがやって来た。


「あの、友人から、こちらの占い師さんはよく当たると聞いたもので」


 言いながら、目の前の椅子に座ったのは、三十前くらいの男性。身なりも顔も悪くないけど、ちょっと気弱そうだ。そのせいで、女性と上手く話せなかったのだろうか。私を前にしても、おどおどしてる。

 結構タイプなのに、もったいない。

 ……まあいい。こういう人に導きを与えるのも、私の仕事だ。


「わかりました。では、この水晶玉に手をかざして下さい」

 そう言うと、彼は私と同じように、水晶玉に手をかざした。

 ほら、こうすれば、いつも運命の相手が見えて──……来ない?

 思わず目をこする。そして再び、水晶玉を見るが、誰も見えなかった。

 ……おかしい。何も見えないなんて、自分のことを占ったときだけのはずなのに、どうして──。

 考えを巡らせ、私はふと、ある結論に思い到った。


 占い師が見えないのは、自分のことだけ。だったら、この人の運命の相手とやらは、もしかして。

「あの……どうかしました?」

 彼が顔を上げ、私の目を見た。思わずどきりとする。

 彼の瞳に映る私は、ぼうっとしていた。

 というか、見とれていた。やっぱり、タイプだ。


「申し訳ありませんが、あなたの運命の相手はわかりません」

 落胆らくたんしたのか、彼は肩を落とす。そう。あなたの相手はわからない。

 だったら、それが私という可能性もある。いや、違ってるかも知れない。

 けれど。

 私は衣装のフードを下ろしながら、彼に伝えた。


「良かったらこのあと、食事でもしながら話しませんか? 占い抜きで」

 運命が見えなきゃ、作ればいいだけ。

 本来、恋というのはそういうものだったはずだ。

 ──そう。恋だ。


 どうやら私は、本当にあなたに恋してしまったらしい。

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