もどかしい恋の物語・七編(2023年文披31題)

明日月なを

第1話 「鞄の重みは」お題・傘

「もっとこっち来いよ。れるだろ」


 ぶっきらぼうに言う、彼の横顔を盗み見た。少し、赤い気がする。

 彼が持ってる傘からはみ出ないよう、ちょっとだけ近づいた。

 相合傘、なんて生まれて初めて。

 きっと、私も赤くなっているんだろう。

 だって、頬が熱いもの。

 いつもより重い通学鞄を、胸にぎゅっと抱え込んだ。


「……重そうだな。持ってやるか?」

「ううん、大丈夫。自分で持ちたいから」

 だって、と心の中で呟く。

 

 この重みは、忍ばせた折り畳み傘の。

 そして彼についた、嘘の重み。

 だったら、自分で持たなくちゃ。それに、これは。

 彼に聞こえないよう、小声で言った。


「──幸せの、重みでもあるんだから」

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