5輪目【真っ赤な糸は結ばない】
「変、かな……?」
短くなった前髪を弄りながら、しずかは恥ずかしそうに言った。
しずかの腰まであった長い髪は、今や短く切り揃えられ、耳が隠れるほどの長さだ。
あたしはしずかに何があったのか知っている。
でも、それは口にしない。
「……よく似合ってるよ」
努めて平静を装い、あたしはしずかに笑い掛ける。
「かおりちゃん、ありがとう」
しずかの笑顔を見て、あたしは胸が締め付けられる気持ちになる。
『あたしじゃ駄目か?』
そんな言葉がふと口から出そうになる。
「あーあー、わたしってそんなに魅力ないのかなぁ……」
げんなりと肩を落とし、しずかが苦笑いする。
「しずかは十分魅力的だよ。もしも、もしもだよ? あたしが……」
「……ねぇ、かおりちゃん。そこから先は口に出しちゃ駄目だよ」
しずかがわたしの目をじっと見据える。
「どうして?」
「えっとね、わたし気付いたの」
あたしの目を見据えたまま、しずかはそこから先を続ける。
「運命の赤い糸ってね、〝切れる〟んだよ。それも結構呆気なく、ね。絶対に切れないなんて伝説は、どこかの嘘つきが広めた全くの嘘っぱち。わたし、かおりちゃんとはね、ずっと一緒にいたいの。決して終わらない〝永遠の関係〟でいたいのよ」
いつもは柔和な表情のしずかが、珍しく真剣な面持ちになっている。
「……えっと、つまりしずかが言いたいのは、お互いの気持ちに正直になったら、いつか終わりが訪れて、駄目になるってこと?」
「そう」
馬鹿馬鹿しい。
しずかは今までそんなことを思っていたのか。
でも、分からない考えではない。
あたしはしずかと手を繋ぐ。
〝結んだら切れる〟
有り得ない話ではない。
そんな薄弱な関係もある。
あたしはしずかの考えに改めて笑ってしまう。
「あーっ! かおりちゃん、わたしのこと馬鹿にしてるなー! もう手繋いであげないから!」
「ごめんごめん。悪気はないんだ」
『ふん!』とそっぽを向くしずかに、手を合わせながら陳謝する。
――もしも、
この世に運命の赤い糸があって――、
一生涯のパートナーと結ばれていたとしても――、
それは――呆気なく切れるかもしれない。
だから、そんな不確かな繋がりなら、あたしは最初からいらない。
〝結ばないから切れない〟
そんな強固な関係もある。
人と人の関係は不可思議の連続だ。
常識じゃ計り知れないことだってある。
「……ねぇ、しずか?」
ぷりぷりと怒りながら、そっぽを向いているしずかの頬に、あたしはそっとキスをする。
「ちょっ!?」
驚くしずかを横目に、あたしは笑いながら、その場を逃げ出す。
「ふふっ、しずかのばーか」
あたしとしずかの関係は、終わることなくいつまでも続く――。
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