第32話 大使

ここはとある村の一室。

ラルスたちとは別の場所の光景。

そこには来賓として来ている一人の男性。

「ご準備はできましたでしょうか?」

そう問いかける執事風の男に男性は返す。

「うむ」

二人はどこかへ出かけるようだ。

執事風の男はうやうやしくドアを開け、男性は蝶ネクタイを締めなおし、椅子を立つ。

すでに鏡で身なりは整えたあとだ。

髪はまとめられ、服装もしっかりした出で立ち。

ある程度の身分がある男性だと物語っている。

その男性が支度を終え部屋を出ようとした時だった。

「うっ…」

小さく呻いた。

「…?」

執事風の男性はただ見ている。

だがすぐに様子がおかしい事に気付く。

「ぅ、ううう…」

男性は呻き声を上げながら腹を抑えるようにして膝を着いた。

「大使!」

執事風の男はそう呼びながら駆け寄る。

だが大使と呼ばれた男性は床に横になり悶絶する。

「む…ううう~」

「大使! 大使!」

呼びかけにもむなしく、大使の顔色はみるみる悪くなっていった。

「誰か! 誰か居ないか!?」

部屋には叫び声にも似た悲痛な助けを呼ぶ声だけがこだました。

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