第22話 スライム
森の中を進みながら僕は言う。
「遠いのかな」
ハンスが答えてくれる。
ちなみにハンスはスライムのまとめ役との遭遇に備えて通常の銃に加えて、前回も使用した肩に下げたランチャー銃を持参してる。
「水源の泉はそんなに高くない山の上だ。もうすぐ大きな池に出るから、そこからもう少し登った所だな」
そんな話をしていると森の中の湖畔みたいな所へ出た。
ローナが「あら、涼し気な所じゃない」と感想を漏らす。
ハンスも一息吐き言う。
「ちょっとだけ見ていくか。異常はないみたいだけどな」
「静かで良い所だね」
僕もなんだか癒される気分になる。
ローナも伸びをしたりと、少しだけ休憩するような穏やかな時間が流れた。
するとほどなく…
ポコポコ…
水面で音がした。
やがて泡がいくつか目立ち始める。
隊長が「気をつけろ、下がれ」と言い、僕らが水面から離れた時だった。
それが飛び出てきた。
「やー」「おー」「ていー」
そんな声を上げながらスライムが3匹出てきた。
僕は咄嗟に身構えて剣を抜く。ローナもすぐに呪文を発動できる態勢だ。
でも隊長とハンスは落ち着いてて、ハンスは話をする。
「なんだお前ら?」
すると小さな魔族3匹は答える。
「僕らスライムー」「良いスライムー」「いじめるー?」
「俺たちは人間だ。良い人間だ。いじめない」
「ホントー?」「でもなー」「人間はなー」
「なんだなんだ、何か文句あるのか、まったく困った魔族だ」
ボリボリと頭を掻き出すハンスを横目に僕は言う。
「僕らは調べものをしてるんだ」
「調べものー?」「ホントー?」「そんな事言って退治しないー?」
「し、しないよ…話が聞きたいだけだよ」
ローナも続けて言う。
「そうよ、やっつけたりしないから、大丈夫だから、ね?」
「う~ん」「そう言われても~」「微妙~」
「び、微妙ってアンタたちね、私はこれでも魔…」
そう言いかけるローナをハンスが止めた。
「おい、よせ。お前そんなすぐ怒って子供か」
「ムカっ!なによ!どうせまだ成長途中よ!」
そんなやりとりをするとスライムたちは言う。
「あやしいなー」「ちょっと協力できないなー」「友達でもないしー」
そんな風に言う。
ローナはハンスに言う。
「ちょっと…警戒しちゃったじゃない!」
「俺のせいじゃねえ…まあ、いいから…ちょっと俺に任せろ」
そう言いながらハンスはスライムたちと交渉に入る。
「少しいいか?お前たちが警戒するのも分かる。初対面だからな。でも実は俺たちは味方なんだ。っていうか友達だ。だから警戒しないでくれ」
「えー?」「初耳ー」「そうなのー?」
「そうだ。証拠もあるぞ。お前たちって当然、水で出来てるよな?」
「うんー」「そうー」「僕たち水の魔物ー」
「それでだな、最近の魔道人体研究会の発表でな、人体の7割は水分という説があるんだ」
それを聞くとスライムは言う。
「えー!」「ホントー!?」「なにそれー!」
驚くスライムたちにハンスは続ける。
「つまり、俺たち人間は7割はスライムと言える、逆にお前たちスライムも7割は人間とも言える」
「…」「…」「…」
「これはもう友達だ。お互い7割は一緒なんだから。いや、もう大親友と言ってもいいだろう。親友とは情報を共有するもんだ。そうだろう?」
「…そう言われると」「そうかもー」「そんな気がするー」
「よし!俺たちは友達だ。仲良くしようぜ」
「僕ら友達ー」「大親友ー!」「よろしくねー」
「それじゃボスの居所を教えるんだ」
「ボス~?」「僕らのボスはクイーンスライムー」「この上に居るー」
「クイーンスライム?この上?上流って事か?」
「そー」「スライムのボスー」「略してスライムボスー」
「そうかそうか。ありがとうな、さすが親友だ、サンキュ。助かるぜ」
「どういたしましてー」「友達ならあたりまえー」「いつでも頼ってー」
「ああ、お前らも何かあったら俺たちに言え。力になる」
「うんー」「その時はー」「よろしくー」
「俺たちはもう行くが、今はあんまり人間に近づくなよ?ちょっと悪い人間もいるかもしれない。遊ぶならここら辺だけにしておけよ」
「分かったー」「了解ー」「がってんー!」
そんなやりとりをして僕らはその場をあとにした。
ローナはジト目で少し笑いながらハンスに言う。
「いたいけな低級魔族を騙して楽しい?」
「何の事だ」
「人間は7割はスライムとか大親友だとか」
「物はいいようだろ」
「大嘘じゃないの」
「そんな事はない。円満な交渉術だ。必要な方便だ」
「やり口がズルい。ラルス、こうなっちゃ駄目だからね?いけない見本よ」
ローナがそう言うので僕は答える。
「そ…そうかな」
するとハンスが反論する。
「まったくこれだからお子様共は。大人の話術が理解できてないな。
そんなんじゃ小さいままだぞ。器も体も」
「なんですって!?」
ローナがムキーっと怒り出した所で隊長の怒声が飛ぶ。
「置いてくぞ!!」
歩みを止めケンカし始めたので僕らは隊長に怒られてしまった。
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