第20話 採取と聴取

僕は隊長に言う。

「冒険者登録も終わったよ。あと隊長、ちょっとギルドで出回ってる情報があったんだけど…」

ハンスも「スライムの遭遇情報です。町に近くてあまり接触しない場所だと思われるのが気になります」と状況を説明する。

すると隊長は返す。

「私とローナで被害者の所へ行く。念のため調査するぞ」

それを聞きハンスが僕に言う。

「じゃ、俺たちは現場確認だな」

僕は「この前の組み方とは違うんだね」と言うと隊長が答える。

「誰と組むかはその時々だ」

その言葉にハンスが続ける。

「まだまだヒヨッ子だからな。その都度覚える事をしっかり勉強しろよ」

「うん」

そう答えると隊長が言う。

「成長したらお前たち2人で組む事もあるだろう」

その言葉にローナは奮起する。

「早くそうなれるように頑張るわ!」

なんだかニコニコで嬉しそうなローナだった。

「そんじゃ行くか」

こうして僕らはそれぞれの作業に取り掛かった。


ハンスと一緒に川のほとりへ。

スライムが出た時とは違い、今は普通の小川に見える。

「この辺りだね」

そう言いながら道から川べりへ降りる。

「いい天気だね。釣りをしたくなるのも分かるよ」

「そうか?」

僕の言葉にハンスは否定的だ。

「俺は水着の女が泳いでる所とかの方がいい」

なんだかよく分からないハンスとのやりとりが始まる。

「魚を釣ってみんなで食べれば晩御飯とかも美味しいよ?」

「その年で所帯じみた事言ってるお前が心配だ」

「そうかな…」

「男はパーっと行こうぜ」

「…よく分からないけど頑張るよ」

「お前勇者になるんじゃなかったのかよ、英雄、色を好むって言うだろ」

「釣りや晩御飯が好みの英雄が居てもいい気がするけど…」

「そんなんじゃサーガはひどい出来になるな。お前の英雄譚を歌う吟遊詩人が居たら泣くだろう。どうせなら女を泣かせろ」

「ローナとかを泣かせるの?そういうのは良くないと思うけど…」

「…もういい。俺が泣けてくる」

よく分からないやりとりはこれで終わりハンスと共に川の淵から水面を眺める。

それを見ながら僕は言う。

「スライムが出るような場所かな?」

「水辺と言えば水辺だが、こう流れがある所にはあまり湧かないイメージだがな」

「そうだよね」

僕は屈んでみる。

ハンスも水を手で抄ってみるが特に気になる点はない。

綺麗な水が手のひらから零れ落ちるだけだった。そのハンスが言う。

「魔族同士の縄張り争いが起きるような雰囲気もないな」

「そんなのがあるんだ」

「場所によってはな…さて、どうするか」

「少し歩いてみる?」

「そうだな、少し上流へ歩いてみよう。お前は草むらの方を見てこい。俺は水面とかを観察しながら行く」

そんなやりとりをして調査する事にした。



私、ローナはヴァリーと被害者の家へ向かう。

家の前でドアに立ち、ノックをする。

ヴァリーは普段とは違い最初だけは少し丁寧な言葉遣いをする。

「すみません、セドックさん、居ますか?ギルドの情報を見て来ました」

そう言うと少ししてドアが開く。

「どちらさまで?」

ヴァリーは言う。

「スライムの件で聞きたい事があって来た。少し時間を頂きたいと思う」

「は、はい…中へ入られますか?」

私は「ここでいいわ、忙しいところすみません」と、失礼が無いように言う。

ヴァリーはさっそく質問する。

「スライムに特徴などはあったか知りたい」

「いえ、特段変わったようには」

「1匹と聞いているが、他にも見かけたり以前から見かける場所か?

「1匹だけでしたね。見かけたのは今日が初めてです。あの辺りは平和なもんで普段は魔族は出ない所なのですが」

「餌の種類を知りたい。撒き餌などは?」

「餌…ですか…普通に釣りをする時の虫ですね。撒き餌はしていません」

「分かった」

「釣り道具を見ますか?」

「頼む」


こうして道具まで見せて貰ったけど特段気になる物はなくてセドックさんにお礼を言い家を後にする。

「なんだか手掛かりになりそうな感じはしなかったわね」

「釣り道具も餌も普通だ」

「あれも何かの確認なの?」

「餌の種類によっては魔族を誘引したり、刺激したりする物もある」

「そうなんだ」

「大型の魚を釣る時の餌が、まれに魔族を引きつけたりしてしまう。念の為とも思ったがやはり関係ないな」

「ラルスたちは何か見つかったかしら」

そんなやりとりをしながら町の中を戻る事にした。


僕とハンスは作業を続ける。

「お~い…何か見つけたか?」

ハンスの声に僕は答える。

「ごめん、まだ何も…」

「随分探したがこりゃ駄目だな。何も無さそうだ…よし、最後に水汲んで戻るぞ」

「喉が渇いたの?」

「な訳あるか」

そう言いながら川べりへ降り、飲み水とは別の水を入れる木筒の容器を取り出すハンス。

そして説明してくれる。

「スライムだからな。水質によって凶暴化したりする。だから水を採取するんだ」

「あ、そうなんだ。確かに必要だね」

「まあ見た所透明度も変わってないし魚も釣れてるんじゃ望み薄だけどな」

「でも地道な調査が大事なんだよね」

「そういうこった…よし」

木筒へ水を入れ終わったハンスは言う。

「隊長たちと合流する前にもう一度ギルドへ寄ってみるか」


念の為、とギルドへ入る僕らだったけど騒がしさが待ち受けた。

中はざわついており冒険者たちが立ち話などもしている。

ハンスと僕は受付へ。

すると、冒険登録をしてくれたあの女性の受付の人が対応してくれた。

僕は聞いてみる。

「何かあったんですか?」

「あ、君は…ええとね、なんかスライムの目撃情報が増えたの」

「え?また出たんですか?」

「ええ…しかも今度は複数、それも特徴の違うスライムなどが出まして」

ハンスはちょっと真面目な顔をして尋ねてやりとりする。

「どんなスライムなんだ?」

「ちょっと凶暴で毒を持ってる、なんて話です。それにもう1種類、そっちは逆に人間に慣れてるらしいです」

「なんだそりゃ…聞いた事無いな」

「人間に慣れてる方は自分で「悪くないスライムだよ」なんて言いながら目撃者の体力を回復してくれたとか」

「随分妙な話だな。しかし友好的な方はともかく毒持ちの方は放置するとマズい事になりそうだな」

「冒険者の間では魔族が進化して種類を増やして町へ襲ってくる準備かも、なんて話も出てます」

「やっぱりそういう流れになるか」

「町から離れる時は注意して下さい」

「目撃者の話を聞いてみたいんだが…」

「まだ情報を集めてる最中なので…」

「居所は分からないか…分かった、ありがとう」

「気を付けてくださいね」

そんなやりとりをした。

ハンスは言う。

「戻って報告するぞ。急いだほうが良さそうだ」

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