第8話 研究所
研究所の場所を教えてもらった僕らは案内役の兵士と共にそこへ向かう。
そこには石造りの大きな建物と宿舎のような物が建っていた。城下町とお城に挟まれるように建物がある。それを見ながらハンスが言う。
「大きな建物が研究所、その隣が研究員たちの宿舎だな」
目の前の大きくて頑丈そうな作りの建物からは煙突が出てたりする如何にも何かを開発する建物と比べて寄宿舎のような建物は質素な感じがあった。
僕は「ハンス、どっちから調べるのかな?」と聞いてみる。
するとハンスはこう返した。
「部屋から、と言いたい所だがどうだろうな。隊長、どうします?」
今度はハンスが隊長に聞いた。
「建物の状況による。部屋は個室だろうが、研究所は共同なのか?全員同じ部屋で研究するのか?」
建物の前で立ち止まり兵士に確認する。
「えっと…お待ちください…研究所内は大きくいくつかの部屋に別れているようです。建物内に入るなら説明用に研究員を1人呼びましょう、お待ちください」
兵士がそう言うので隊長が「頼む」と短く答える。
兵士は宿舎の方へ入って行った。
それを見送った僕らに隊長が言う。
「今回は研究室から調査するぞ」
この人は口数が本当に少ない。僕は隊長に出会ってからの印象をそんな風に強めていた。ただ、あまり考えを口には出さないけど常に何かを考えている。
何もしてない時も周囲の様子や状況を分析しているのかな?と思わせるような立ち振る舞いだった。僕はまだよく分からないけど、ハンスはそんな隊長と歩調を合わせられるようだった。
言葉を交わさなくても通じる意図。
隊長とハンスは結構付き合いが長そうだと思わせる関係だった。
そんな事を考えていると兵士が戻ってきた。
その兵士には1人、男の研究員が付いている。説明などをしてくれる研究員だろう.
年は40歳ぐらいだろうか。
兵士は「お待たせいたしました。こちらは中で説明などをするウチの研究員です」と男を紹介する。
紹介された男は「よろしくお願いします。副主任のレヤードです。答えられる事であればなんでもお答えします」と礼をしながら言った。
挨拶が終わるとさっそく隊長が「研究所から入る。鍵を開けてくれ」と促した。
兵士は「では、私はこれで」と別れ、レヤード副主任が案内役を引き継ぎ、鍵を取り出し扉を開け中へと入る。
建物内にある通路にはいくつかの扉があった。
隊長は副主任に聞く。
「博士が使っていた部屋を頼む」
言われた副主任は「こちらです」と少し進んだ所にある扉を開いた。
中に入る僕たち。
中は大体研究室、と言われて想像する部屋と同じ物だった。
ガラス瓶、何かの液体、整理された机と何かの計算式や資料の山…
それらを少しだけ見て回る僕たち。正直今の僕には置かれている物が何に使われる物なのかさっぱり分からなった。
ローナも同じようで「何かしらね、これ?」とか「何か綺麗な液体ね、これ」なんて言ってたりする。
そんなローナにハンスが言う。
「触ったりするなよ。どんな効果があるか分からないぞ」
僕らがそんなやりとりをする中で隊長が研究員に質問する。
「この部屋に出入りする研究員を知りたい。博士と組んで研究する研究員は何人だ?」
質問された研究員が答える。
「いえ、博士は基本、単独で研究します。偶に合同で研究する時もありますが
その時は博士が大部屋の研究室に移動したりしますが…大体はここで一人で研究しています」
「…」
研究員の答えに黙って考えるような仕草の隊長。
少しの間の後ハンスに言う。
「失踪時の記録の資料を出せ」
そう言われたハンスは「はい、これですね」と資料を出しながら答えた。
渡された資料に目を通す隊長。それから言う。
「何でもいい。部屋の中をよく見ろ。何かの痕跡がないか捜せ」
「はい!」
隊長の指示で部屋の中を調べる僕たち。
隊長とハンスは計算式や資料を見始める。パラパラとめくり、何かが挟まってたりしないか見ているようだった。
僕とローナは難しい資料などを見ても分からないので机の下や床などを見る。
だけど目ぼしい物は見つからず時間だけが過ぎる。
だけど隊長は部屋の中の一つの机に注目した。なので聞いてみる。
「隊長、何か気になるの?」
無言のまま隊長は机の上に置かれた綴じられた紙の束を手に取り見てみる。
ハンスも「なんです?それ」と聞いてみる。
「研究日誌だ」
短くそう答える隊長。
ローナも「どこかへ行ったような事は書かれてるかしら」などと言ってる。
そんなみんなを気にせず、隊長はパラパラとめくりながら言う。
「…あとで少し調べてみるか」
隊長は静かにそう言うだけだった。
だけど結局、研究所内で新しい手掛かりはなかった。
「次は宿舎だな」
研究所の調査を終えた僕らは博士の部屋を調べる事にする。
「こちらです」
さっきと同様に副主任の案内で博士の部屋へと通される。
部屋の中は乱雑になっており、何の内容か分からない書類や書物の山ができていた。
ローナがたまらず「うわあ…」と声を漏らしてしまう。
僕も「すごい散らかってるね…」と素直な感想を言った。
ハンスも同意のようで「まあ、研究者なんて大体こんなもんだよな」と漏らす。
付き添いの副主任は「申し訳ありません…」と責任もないのに謝っていた。
そんな中、隊長がいくつかの積まれた本などを見る。
「なにか手掛かりでも?」ハンスが聞く。
「…」隊長は無言で答える。
そして机の上の雑多な書類にも目を通す。
正直これらも僕らが見てもよく分からない物だった。
ただ、ローナがある事を言う。
「う~ん…やっぱり発明品に関しての物じゃ私達には分からないわよね、こっちは
なんか魔導書や魔物に関しての物まであるようだけど…魔導士でもない博士には関係ない物よね」
「え、そうなの?」
「う~ん、一応ね」
隊長も同意のようで同じ事を言う。
「たしかに、工業品、というよりは何かの魔道関連の書物のように見える」
本を手に取り、じっくりと観察するように調べていく。
更にこう言う。
「これらの本の方が、積まれた本の上の方にある…」
そう言われてみると、いくつかの本は最近読み返したように乱雑に積まれ、下の方の本は少しだけホコリをかぶっていてあまり読まれていないようだった。
隊長は書類の方にも目を通しながら言う。
「何かが書かれた文書や計算式だが、こちらも魔道関連の記述がいくつか見られる」
そう言いながら紙の束をパラパラとめくった。
隊長は副主任に聞く。
「レヤード、博士は魔術に関する知識もあるのか?」
だけど副主任は首を振りながら「いえ、詳しくは存じませんが、どうでしょう…」と返答する。
「魔導士の共同研究者や助手などは?」
「それもあまり聞きませんし、博士は基本一人で研究に打ち込むので…」
「…」
「時には研究の為の素材集めも自ら行ったりと…いやはや、少し変わった博士でして…」
隊長はそれを聞きながら考えに耽るような仕草をする事になった。
そんな隊長以外、結局僕らは室内を調べても手掛かりになりそうな物は見つけられなかった。
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