戦いとは常に無情

 「腕の一振りで、町を跡形も無く消滅させるだなんて…………」


 「皆……皆……死んじゃった……」



 “クラウドツリー”を、遥かに越える大きさになったエジタス。意図も簡単に、町一つを跡形も無く消滅させてしまうその強さ。先程までの戦いが嘘に思えて来る。



 「町の皆が……そんな……そんな……僕が……僕がもっとしっかりしていれば……こんな事には……」



 自己嫌悪。サタニアは、魔族の頂点に君臨する魔王。責任感が重い役職ゆえに、町にいた国民が全て死んでしまったのは、自分が不甲斐なかったからだと、自分で自分を責め始める。



 「サタニア……ううん、サタニアのせいじゃないよ!!」


 「そうですよ!!魔王様が気に病む必要はありません!!」


 「マオウサマトイエド、スベテノモノタチヲスクウノハ、フカノウデス……アマリ、キヲオトサナイデクダサイ……」



 頭を抱え、ぶつぶつと独り言を発するサタニアに真緒、シーラ、ゴルガの三人が必死に慰めの言葉を送る。



 「でも……でも僕がもっとしっかりしていれば…………」


 「魔王ちゃん…………そうね、町の皆が死んでしまったのは、少なからず魔王ちゃんにも原因があるわね」


 「「「!!?」」」



 三人が慰める中、アルシアだけがサタニアにも責任があると肯定し始めた。そんなまさかの態度に、三人は驚きの表情を浮かべた。



 「ア、アルシアさん!?魔王様に何て事を!!い、今すぐ撤回して下さい!!」


 「落ち着きなさいシーラちゃん、話は最後まで聞く物よ…………魔王ちゃん」



 アルシアは、サタニアの両肩に自身の両手を乗せ、顔をじっと見つめた。



 「アルシア……僕の……僕のせいで……」


 「よく聞いて……町の皆が死んでしまったのは、魔王ちゃん……並びにあたし達がエジタスちゃんを止められなかった事が、一番の原因なのよ」


 「!!!」



 サタニアが気づく中、他の皆も事実と悔しさから俯いてしまった。



 「だから、自分だけが悪いだなんて思わないで、これはあたし達全員の問題……それに、今は苦悩している場合じゃないわ」


 「…………えっ?」


 「町の皆の死を嘆き悲しむのは後……魔王ちゃんには、するべき事がある筈でしょ?」


 「するべき事…………」



 アルシアの言葉で、頭を抱えていたサタニアの手が、自然と下がり落ちた。



 「そうだったね……一刻も早く、エジタスを止めないと……それが僕のするべき事だ!!」


 「そうよ!!その意気よ!!いつもの明るい魔王ちゃんに戻ったわね。魔王ちゃんに涙は似合わないわ。皆で、エジタスちゃんを止めましょう!!」


 「うん!!」



 アルシアの励ましが、サタニアの心に火を灯した。これ以上の悲劇が起こらない為にも、エジタスを止める事を決意した。



 「…………止める……と言うけどさ……実際問題、状況はかなり不味いな……」


 「す、すみません……私、先程の戦いでMPが底をついてしまいました……もう、戦う事が出来ません……」


 「オ、オレモ……HPガ、ホトンドノコッテイナイ…………」



 決意したは良いものの、ここに来てリーマのMP枯渇問題と、ゴルガのHP残量問題が発生していた。



 「おいおい、だらしないな。私はまだまだ戦えるぜ!!」


 「オラも大丈夫だよぉ!!オラ、スキルと物理じが使えないがら、MPが無ぐなる事は無いだぁ!!」


 「残念ながら、MPは無くなってしまった。だが元々、俺は弓矢専門だ。例え魔法が使えないとしても、この“三連弓”とスキルの“一点集中”があれば、何も問題は無い」


 「えぇ、生憎あたしもスキルと物理の脳筋スケルトンだから、頭を使った魔法とは無縁だわ」



 一方、スキルと物理に頼った戦いをしていたシーラ、ハナコ、フォルス、アルシアの四人は戦い続けられそうだった。



 「…………ごめん皆……ちょっと厳しいかもしれない……」


 「「「えっ!?」」」


 「ご、ごめん……実は僕も……」


 「「「えっ!?」」」



 そんな中、何と真緒とサタニアが戦い続けるのは厳しいと口にした。



 「スキル“ロストブレイク”を使い過ぎて、もう減らせるHPが残り僅かしか残っていない……放てるとしても……良くて二発……それ以上は……」


 「僕もマオと同じ……スキル“ブラックアウト”を使い過ぎたせいで、HPが殆ど残っていないんだ……放てる回数としては同じ、良くて二発…………」


 「「「「「「そ、そんな……」」」」」」



 スキル“ロストブレイク”、スキル“ブラックアウト”。どちらのスキルも、強力が故に自らのHPを削って放つ。まさに諸刃の剣。ここまでかなり放ってしまい、両者供に放てる残り回数は二発。ここに来て、最高戦力であった真緒とサタニアが、戦線を離脱する形になってしまった。



 「~~♪~~~~♪」


 「!!!皆避けろ!!!」


 「「「「「「「!!!」」」」」」」



 上空から鼻歌が聞こえたその瞬間、一同を覆い隠す巨大な影が現れた。危険を察知したフォルスは、避ける様に大声で叫んだ。フォルスの叫び声と共に、急いで全員その場から離れ、散り散りになった。すると、全員が元いた場所にエジタスの山より巨大な拳が叩き込まれた。



 「あ、危なかった…………」


 「逃げ遅れたら、確実に死んでいたな……」



 叩き込まれた拳が地面から離れる。離れた地面には、数百メートル深さの穴を模した様な拳の痕が残っていた。



 「外れたか……今度は踏み潰すか……蟻の様に……」



 そう言うとエジタスは、山より巨大な右足を前に突き出した。巨大な右足は、散り散りになった者達目掛けて迫り来る。



 「くそっ!!こうなったら、四人抜きで戦うしか無い!!俺とシーラは、空中から攻める!!」


 「よし!!分かった!!」


 「それじゃあ、あたし達はセオリー通り地上から攻めましょうか!!」


 「分がっだだぁ!!」



 翼のあるフォルスとシーラは、空中へと舞い上がった。ハナコとアルシアは、地上から攻めて行く。



 「本当にデカイな……だが、大きければ大きい程……動きも鈍くなる!!」


 「それなら、背後から攻撃を仕掛けよう!!上手く行けば、マオ達から遠ざけられるかもしれない!!」



 空中へと舞い上がったフォルスとシーラは、改めてエジタスの大きさに驚きの声をあげた。更に、背後へと回って真後ろから攻撃を仕掛ける。



 「食らえ!!“三連弓”!!」


 「室内の時は出せなかったが、室外なら私の最強のスキルを放てる!!食らいなさい!!スキル“バハムート”!!」



 フォルスの三連弓。エジタスの首筋を目掛けて三連続の矢が放たれた。それと同時に、シーラの槍先から巨大な火の玉が生成されると、未だに背中を見せ続けているエジタス目掛けて放った。



 「…………」



 フォルスの放った三連続の矢は、見事エジタスの首筋に命中したが、強靭な肉体の為に深くは刺さっておらず、鏃の先端だけが刺さっていた。すると今度は、シーラの放った“バハムート”がエジタスに命中し、後頭部を燃え上がらせた。



 「ん?何だか暖かいな……丁度良い暖房だ」


 「な、何!?」


 「私の最強のスキルが効かない!?」



 後頭部が燃え上がったのにも関わらず、平然とした態度のエジタス。驚く二人に対して、エジタスは気にも止めずに右足を、地面に残っている者達目掛けて突き出した。



 「……ぞれで、オラ達はどうずるんだぁ?」


 「今現在エジタスちゃんは、右足を突き出してあたし達を踏み潰そうとしている。それなら、もう片方の左足に強い衝撃を加えれば、バランスを崩して倒れる筈よ」


 「成る程!!大ぎいのを、逆に利用ずるんだなぁ!!」


 「えぇ、そう言う事よ。それじゃあ早速、始めましょうか!!」



 空中で攻撃を仕掛けたフォルスとシーラに対して、地上での攻撃を担当するハナコとアルシアは、無防備になっている左足目掛けて攻撃を仕掛けた。



 「行ぐだよぉ!!スキル“インパクト・ベア”!!」


 「スキル“等活地獄”!!」



 強烈な二つのスキルが、エジタスの左足目掛けて叩き込まれる。



 「ん……蚊でも止まったのかな?」


 「「!!!」」



 しかし、エジタスの左足は全くの無傷であった。何重にも重ねられた肉の層は、二人のスキルを持ってしても破る事が出来なかった。エジタスは特に気にする様子も無く、突き出した右足を地面に叩き込んだ。



 「皆!!その場に伏せなさい!!吹き飛ばされるわよ!!」


 「「「「「!!!」」」」」



 エジタスの右足が、地面に叩き込まれた瞬間、周囲の物は衝撃波によって吹き飛ばされた。



 「うっ……うぅ……」


 「皆さん……大丈夫ですか……?」


 「な、何とか……そうだ!!クロウトは!?」



 この中で、唯一気絶している人物。周囲の物を吹き飛ばす程の威力を受けては、只で済む筈が無い。サタニアはクロウトの安否を確かめる為、慌ててゴルガに声を掛ける。



 「ダイジョウブデス……イノチニベツジョウハアリマセン……」


 「よ、よかった…………でもゴルガ……酷い怪我……」


 「モンダイアリマセン……コノテイドノキズ、キズノウチニハイリマセン……」



 ゴルガは身を呈して、クロウトを包み込む様に守っていた。しかしこれによって、ゴルガ自身がかなりのダメージを負う結果になってしまった。



 「皆!!無事!?」


 「アルシア!!…………うん……何とか……ね」



 事前にアルシアが声を掛けてくれたお陰で、ダメージを最小限に抑える事が出来た。だがしかし、最小限に抑えられたとしてもダメージはダメージ、残り少ないHPが削り取られてしまった。



 「はぁ……はぁ……やっぱり、私も戦います」


 「マオ…………僕も一緒に戦うよ。このままじっとしていても、仕方無いからね」



 空中、地上と二ヶ所からの攻撃は、エジタスに掠り傷も与えられなかった。それを見かねて、真緒とサタニアの二人が戦いに参加すると言い出した。



 「マ、マオぢゃん!?本気だがぁ!!?」


 「あなた達は、HPを削るスキルの使い過ぎで、残りのHPが少ないのよ。それでも戦うと言うの?」


 「これ以上、被害を出す訳には行きません。私達の手で師匠を止めてみせます!!」


 「死ぬかもしれないのよ?」


 「エジタスを止めるのに、今さら死ぬのが怖いだなんて言ってられないよ!!」


 「…………」



 二人の目は真っ直ぐ輝いていた。死という概念に恐怖せず、純粋にエジタスを止めようとする眼差しがそこにはあった。



 「そう……それならもう何も言わないわ…………己の信じた道を行け!!そしてエジタスを止めて来い!!」


 「「はい!!」」



 リーマとゴルガは戦線離脱。空中のフォルスとシーラ、地上のハナコとアルシアの攻撃はまるで効かない。一緒に戦うと決断した真緒とサタニアのHPも残り僅か。この状況において真緒達、サタニア達が勝てる可能性は0%である。しかしそれでも、戦わなければならない。戦いとは常に無情なのだ。

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