諦めない

 各々がエジタスに武器を向ける中、供養を終えたエジタスがゆっくりと立ち上がると、こちらに顔を向ける。



 「……何だ……まだ戦うつもりなのか?」


 「勿論です!!ここで諦めては、アーメイデさんの死が無駄になってしまいますから!!」


 「僕達は、最後の最後まで戦い抜くつもりだよ!!」



 アーメイデの死を無駄にしない。その想いが、折れてしまった心を立て直し、再び一同を立ち上がらせた。



 「……無駄にしない……俺はな……そう言う感情論が一番嫌いなんだよ!!」


 「「!!!」」



 その瞬間、エジタスは目にも留まらぬ跳躍を行い、一瞬で真緒とサタニアの目の前に現れた。そして、自身の右腕を巨大化させるとそのまま二人目掛けて、巨大化した拳を叩き込んだ。



 「……ワ、ワルイガ……ソウカンタンニ……ヤラレルオレタチデハナイ……」


 「ゴルガ!!」



 二人に叩き込まれた拳は、ゴルガが二人の前に出て受け止めていた。



 「ゴルガさんの言う通りです!!私達は生半可な気持ちで、立っている訳ではありません!!」


 「リーマ!!」



 エジタスの拳を、ゴルガが受け止める中、その脇からリーマが魔導書を開いた状態で飛び出して来た。



 「“スネークフレイム”!!」



 リーマが魔法を唱えた瞬間、魔導書から炎の蛇が生成され、エジタス目掛けて勢い良く放たれた。



 「……無駄な事を……」


 「……スキル“魔法無効”」



 放たれた炎の蛇だったが、エジタスの右側から生えている魔王サタニアが、右腕を突き出すと“魔法無効”を発動した。それにより、エジタスの体は半透明な膜に覆われ、リーマの放った炎の蛇を防いだ。



 「ごれならどうだぁ!!スキル“インパクト・ベア”!!」



 すると間髪入れずに、ハナコがエジタス目掛けてスキルを放った。



 「スキル“スキル無効”」


 「……ぐっ!!」



 しかし、エジタスは慌てる素振りも見せずに自身の両腕を突き出し、“スキル無効”を発動した。それによって、エジタスの体は半透明な膜に覆われ、ハナコのスキルを防いだ。



 「背中が、がら空きだぜ!!」


 「はぁ……無意味な行為だと、何故理解出来ない……」



 ハナコのスキルを防いだのも束の間、背後を取ったシーラが透かさず、持っていた槍をエジタスの背中目掛けて、突き出した。



 「……スキル“物理無効”」


 「これでも駄目かっ……!!」



 だが、それも予期していたかの様に、エジタスの左側から生えているコウスケが、限界まで体を捻って後ろに振り返った。そして左腕を突き出し、“物理無効”を発動した瞬間、エジタスの体は半透明な膜に覆われ、シーラの物理攻撃を防いだ。



 「まだまだ!!スキル“一点集中”!!」


 「おんどりゃあああああ!!!」



 シーラに続き、空中からはフォルスの矢が、地上からはアルシアの物理攻撃が飛んで来た。二種類の攻撃を繰り出し、どちらか一方だけでも当てようとする。



 「……スキル“物理無効”」



 またしても、コウスケの“物理無効”によって、エジタスの体に半透明な膜が覆われる。そしてアルシアの物理攻撃を防いだ。



 「防がれた!!」


 「だが、スキルで放った矢は当たる筈だ!!」


 「これ位の矢なら……片手で掴み取れるな」



 そう言うとエジタスは、肉眼では捉えきれない速度の矢を、片手で意図も簡単に掴み取ってしまった。



 「な、何だと!?」


 「こんな真っ直ぐにしか飛べない矢を、掴み取るなど造作も無い……ん?」


 「「はぁあああああ!!!」」



 エジタスが余裕な態度を取っていると、真緒とサタニアが正面からエジタス目掛けて攻撃を仕掛けて来た。



 「スキル“ロストブレイク”!!」


 「スキル“ブラックアウト”!!」


 「全く……学習能力という物が無いのか?」



 そう言いながら、迫り来る真緒とサタニアに対してエジタスは、両腕を突き出した。



 「スキル“スキル無効”」


 「「!!!」」



 その瞬間、エジタスの体は半透明な膜に覆われた。その結果、真緒とサタニアのスキルは防がれた。



 「見事な連携攻撃だったが……所詮その程度……「スキル“ヒュドラ”!!」……!!」



 エジタスが強者の態度を取ろうとしたその時、間髪入れずにシーラのスキルがエジタス目掛けて放たれた。



 「スキル“スキル無効”」



 しかし、その攻撃を嘲笑うかの様に、エジタスは自身の両腕を突き出し、“スキル無効”を発動した。



 「いったい何のつもりだ?」


 「諦めるな!!このまま叩き込み続けるんだ!!」


 「元からそのつもりですよ!!“炎の槍”!!」



 すると、リーマは炎の槍を生成した。炎の槍を片手に、エジタス目掛けて攻撃を叩き込む。



 「……スキル“魔法無効”」


 「っ!!」



 たがしかし、この攻撃もまたエジタスの右側から生えている魔王サタニアの、“魔法無効”によって防がれてしまった。



 「ウォオオオオオ!!」


 「……スキル“物理無効”」



 すると、今度はゴルガが自身の巨大な拳をエジタス目掛けて叩き込んだが、エジタスの左側から生えているコウスケの、“物理無効”によって容易く防がれてしまった。



 「いちいち叫ぶな……うるさいぞデカブツ……」


 「!!!」



 そう言うとエジタスは自身の右腕を巨大化させ、ゴルガの腹部に叩き込んだ。



 「グァアアアアア!!!」


 「ゴルガ!!」



 反撃を受けたゴルガは、勢い良く吹き飛ばされた。壁にこそぶつからなかったが、殴られた腹部には巨大な拳の痕がハッキリと残っていた。



 「茶番はここまでだ……」



 そう言うとエジタスは、その場で少しだけ屈み込んだ。それにより、背中から生えているコウスケと魔王サタニアが、全面に押し出された。



 「……スキル“ソード・スパイラル”」


 「……スキル“シャドウバインド”」


 「「「「「「「!!!」」」」」」」



 コウスケが左腕、魔王サタニアが右腕、それぞれの腕を突き出しスキルを発動した。その瞬間、吹き飛ばされたゴルガを除く七人の足、まるで杭を打ち付けられたかの様に、自身の影が足に突き刺さり、その場から動けなくなってしまった。また、七人の周囲を無数の光輝く透明な剣が螺旋状に取り囲んだ。



 「くそっ!!動けない!!」


 「まさか飛んでいる俺まで、動けなくなるだなんて……!!」



 唯一、空中に飛び上がっていた筈のフォルスだったが、自身の影が足に突き刺さり、地上に引きずり下ろされた。



 「こ、これは……あたしのスキル“黒縄地獄”によく似ている……!!」


 「あれの下位互換と言った所さ……足止め位の役には立つのさ」



 必死に足を動かすが、全く微動だにしなかった。その間に、七人の周囲を螺旋状に取り囲んでいた無数の透明な剣が、七人に襲い掛かる。



 「ぐっ……うぁあああああ!!!」


 「がはっ!!」


 「こ、このままだと……全滅してしまう……」


 「で、でも……いったいどうしたら……」


 「わ、私に任せて下さい……皆さん、耳を……耳を塞いで下さい!!」



 リーマの言葉を察した真緒、ハナコ、フォルスの三人は、急いで耳を防いだ。それを見てサタニア、シーラ、アルシアの三人も耳を塞いだ。するとリーマは、鼻から大きく息を吸い込み溜め込んだ。そして……。



 「……きゃああああああああ!!!」


 「くっ……“音魔法”か……!!」



 リーマが放った音魔法によって、無数の透明な剣は全て砕け散った。



 「リーマ、ありがとう」


 「流石リーマぢゃんだぁ」


 「助かったぜ」


 「い、いえ……そんな大した事はしていませんよ……」



 真緒達に褒められ、少し照れるリーマ。



 「凄いね……マオだけじゃなく……その仲間達も……」


 「そうだな。あんな魔法を知らずに放たれたら、無事じゃすまないな……」


 「アーメイデの時も驚かされたけど……あの子の魔法も相当凄いわね……」



 リーマの音魔法に、サタニア達は改めて真緒達の強さを実感した。



 「……そんな無駄話して良いのかな?」


 「「「「「「「!!!」」」」」」」



 七人が助かった事に安堵していると、遠くにいた筈のエジタスが一瞬で間合いを詰めて来た。



 「がっ……あぁ……!!?」



 するとエジタスは、真緒の首を片手で握り締めると、そのまま高く持ち上げた。



 「マオぢゃん!!」


 「マ、マオさん!!


 「マオ!!今、助けるぞ!!“三連弓”!!」



 首を握り締められる真緒。そんな真緒を助けだそうと、フォルスは咄嗟に三連続の矢をエジタス目掛けて放った。



 「……スキル“物理無効”」


 「くそっ!!」



 しかし案の定、エジタスの左側から生えているコウスケの、“物理無効”によって三連続の矢は防がれてしまった。



 「あ……あがぁ……!!」


 「マオぢゃんを離ずだぁ!!」


 「マオさんを離して下さい!!」


 「スキル“インパクト・ベア”!!」


 「“ウォーターキャノン”!!」



 徐々に真緒の首が締まる中、フォルスに続いてハナコとリーマも、エジタス目掛けてそれぞれスキルと魔法を放った。



 「スキル“スキル無効”……それと只の水の塊なら、踏み潰せば問題無い」


 「「!!!」」



 ハナコが放ったスキルは、エジタスの“スキル無効”によって防がれ、リーマが放った魔法は呆気なく、エジタスが足で踏み潰して消滅させてしまった。



 「ぐっ……あ……あ……」


 「マオ!!マオを助けるんだ!!」


 「「おぉ!!」」


 「スキル“ブラックアウト”!!」


 「スキル“ヤマタノオロチ”!!」


 「スキル“等活地獄”!!」



 時間が無い。息が出来ず口から泡を吹き出し、白眼を剥き始めた真緒。サタニア達も真緒を助け出そうと、無我夢中でエジタスに攻撃を仕掛ける。



 「マヌケだな……スキル“スキル無効”」


 「「「!!!」」」



 しかし、エジタスの“スキル無効”によって全て防がれてしまった。



 「あ……あ…………」


 「マオぢゃん!!うわぁあああああ!!!スキル“インパクト・ベア”!!スキル“熊の一撃”!!スキル“鋼鉄化”!!」


 「“トルネード”!!“ウィンドカッター”!!“ウォーターキャノン”!!“ネームドチェンジ”!!“スネークフレイム”!!」


 「“三連弓”!!“ブースト”!!スキル“一点集中”!!」


 「“ブラック・ファンタジア”!!スキル“ブラックアウト”!!“ダークイリュージョン”!!」


 「スキル“ヒュドラ”!!スキル“ヤマタノオロチ”!!スキル“ワイバーン”!!“スコールスピア”!!」


 「スキル“等活地獄”!!スキル“黒縄地獄”!!スキル“大炎熱地獄”!!」



 ここで真緒を失ってしまったら、それこそ絶望である。何とかして助け出そうと、使える攻撃系のスキルや魔法を分け目も振らず、無我夢中で放ちまくった。



 「哀れだな……何をしたって無駄なんだよ……」


 「……スキル“魔法無効”」


 「スキル“スキル無効”……これはお前達への罰だ。素直に諦めなかった……お前達へのな」



 防がれる。防がれる。防がれる。ありとあらゆるスキルや魔法が、次々と防がれてしまう。助けられない。脳裏に浮かんだ言葉に、涙が流れ出る。もうおしまいだ……そう思ったその瞬間、リーマの放ったスネークフレイムが、真緒の首を握り締めていたエジタスの片腕を吹き飛ばした。



 「………………は?」



 エジタスは、一瞬何が起こったのか分からなかった。余裕な勝利の目前、目線の先で突然、片腕が吹き飛んだのだ。



 「あ、当たった………」



 誰かが発した言葉。勝てないと思われた絶望的な戦い。負けないと思われていた余裕の戦い。その戦いに今、僅かなひびが入り込んだ。

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