希望の光が灯される

 「“ス、スキル無効”!?そんなの聞いた事が無い!!」


 「俺は骨肉魔法を扱える。だが、それはあくまで魔法に限った話、スキルにおいて俺は“スキル無効”を扱う事が出来るのさ」



 真緒が放った渾身のスキルは、エジタスのスキル無効によって防がれてしまった。



 「……コウスケの“物理無効”……魔王サタニアの“魔法無効”……そして、エジタスの“スキル無効”……こんな……こんな偶然が本当にあり得ると言うの!?」



 出来過ぎている。この世界に存在する全ての攻撃方法を無効化出来るなど、あまりにも都合が良すぎる。



 「お前のポーションと同じさ、アーメイデ。お前が二千年間、魔法の研究に着手していた間、俺はこの世界を笑顔の絶えない世界にしようと、ずっと裏で暗躍し続けた。それぞれの王冠の場所、王国での手回し、時間稼ぎ用の部下集め、そして万が一計画が妨害された時の為に、力を蓄えて来た。その集大成がこの姿さ!!見ろ!!この化け物の姿を!!恐怖し、絶望するがいい!!」



 エジタスが大きく両腕を広げると、それに合わせてコウスケは左、魔王サタニアは右、それぞれの腕を同様に広げた。



 「……そして今現在、計画は妨害された……ワールドクラウンが六つに分かれるのだったら……まだ許す事が出来た……再び長い時間を掛けて、集め直せば良い話だからな……だが、あろう事かワールドクラウンは、砕け散ってしまった……もう、ワールドクラウンはこの世に存在しない……もう世界を、笑顔の絶えない世界にする事が出来ない……これも全て……お前らのせいだぁああああああああああああああああああ!!!」


 「!!!」



 するとエジタスは、怒りの叫び声を上げて自身の右腕を巨大化させる。そして、目の前にいる真緒目掛けて巨大化した右腕を叩き込んだ。真緒は咄嗟の判断で、持っていた純白の剣を盾にした。



 「うっ……うぅ……!!」


 「何故平和を望まない!?何故幸せを望まない!?何故笑顔になる事を望まないんだぁあああああああああ!!!」



 剣を盾にした真緒に、エジタスは自身の左腕も巨大化させる。そして何度も何度も剣を盾にしている真緒目掛けて、巨大化した拳を叩き込んだ。凄まじい衝撃が、剣を伝って響いて来る。



 「ぐぅ……きゃあああああ!!!」


 「マオぢゃん!!」


 「マオさん!!」


 「マオ!!」


 「「「くっ……!!!」」」



 巨大化した拳に何度も叩かれ、衝撃に耐えられなくなった真緒は、勢い良く後方へと吹き飛ばされた。そんな吹き飛ばされてしまった真緒をハナコ、リーマ、フォルスの三人が受け止めてくれたお陰で、大した怪我はしなかった。



 「あ、ありがとう……皆……」


 「気にするな……だがなマオ、一人で突っ走るな。お前の気持ちも分かるが、俺達だってエジタスさんを止めたいんだ」


 「そうですよマオさん。私達皆で、エジタスさんを止めましょう」


 「オラ達が力を合わぜれば、今まで敵わない敵はいながっだだぁ」


 「皆……そうだね……私は一人で戦っている訳じゃない……皆で力を合わせて、師匠を止めましょう!!」



 「“フレイムバースト”」


 「「「「!!?」」」」



 決意を新たに、四人が結束を固めていると、エジタスの左側から生えているコウスケが腕を突き出し、掌から炎の玉を生成して真緒達目掛けて放った。



 「ウォオオオオオ!!!」



 するとゴルガが、飛んで来る火の玉から真緒達を身を呈して守った。当たった瞬間、火の玉は弾けて広範囲に広がる。しかし、ゴルガが身を呈して守ったお陰で真緒達には届かなかった。



 「ゴ、ゴルガさん!?」


 「ヨソミスルナ!!」


 「ゴルガの言う通りだ。仲が良いのは結構だけど、気を緩めるな。相手は“あの”エジタスだぞ」


 「シーラ……そうだったな、少しでも気を休めた俺が悪かった。ここからが正念場だ!!」



 シーラに喝を入れられ、真緒達はエジタスの方へと顔を向けた。



 「はぁ……“友情”……実にくだらない……この世で最もくだらない物の一つだ。“愛”、“友情”、“信頼”、何の意味も無い。これら全ては幻想だ」


 「それは違うわよエジタスちゃん」



 エジタスが、声のした方向に顔を向けると、そこにはアルシアが両刀を構えながら、ゆっくり歩いて来ていた。



 「確かに、愛や友情や信頼は目に見えない。争いが絶えない今の世界を考えれば、幻想と言えるかもしれない。でもね、目に見えないだけでちゃんと皆の心の中に存在しているのよ。かつてあたしは、自分が何者か全く分からなかった。だけど、魔王ちゃんが名前を与えてくれたお陰であたしの人生は、意味のある人生へと変わった。その時はっきりと分かった……正直、言葉事態に意味なんかは無い。大事なのは、その言葉をどこまで信じられるか。目に見えない物を信じる事が、意味のある物へと繋がる。エジタスちゃんは、愛や友情や信頼を幻想だと言うけれど、単に信じきれていないからじゃないの?」


 「…………」



 アルシアの言葉に対して、エジタスは俯き黙り込んでしまった。アルシアはゆっくりとエジタスの元へ歩み寄る。



 「まずは、信じる事から始めて見ない?信じる事で、新しい景色が見えてくるかもしれないわ」


 「…………二千年……」


 「…………えっ?」


 「二千年の間……多くの生と死を見届けて来た……中には裏切りや、大いなる愛によって命を落とす者もいた。それらを見届ける中、時折考えた。信じて見ても良いかなって……」


 「それじゃあ……「だが」……?」


 「それと同時に、こんな世界で信じて見た所で、裏切られる可能性が無くなる訳では無い。考えれば考える程に不安が募る。そして導き出した答え。不安分子を全て取り除いた世界、笑顔の絶えない世界になってから信じてみようと。だからこそ、その機会を潰したお前達を…………」


 「!!!」



 雰囲気が変わった。今まで俯いていたエジタスが顔を上げる。それに対応する様に、アルシアはエジタスの元へと駆け寄る。そして両刀を構えた。



 「スキル“大炎熱地獄”!!」



 説得失敗。穏便に止めるのを止め、強引な手段でエジタスを止める事にしたアルシアは、エジタス目掛けてスキルを放った。



 「……スキル“スキル無効”」


 「っ!!!やっぱり駄目な様ね!!」



 しかし、アルシアのスキルはエジタスのスキル無効によって防がれてしまった。



 「アルシア!!一旦、戻って来て!!」


 「そうさせて貰うわ!!」



 サタニアの助言に、アルシアは素直に従い、後方へと跳躍してエジタスから距離を取った。



 「ごめんなさい。何とか平和的な解決をしようと試みたんだけど……思った以上に、エジタスちゃんの心には根が張っているみたい……」


 「エジタスを止めるには、どうにかして勝たないといけない訳だね」


 「で、でもどうするんですか!?見た通り、全ての攻撃を無効化されてしまうんですよ!?そんな無敵の相手に、いったいどうやって勝つと言うんですか!?」


 「そ、それは…………」



 物理、魔法、スキル。徹底したエジタスの無効化に、一同は言葉が詰まってしまった。



 「……方法が……無い訳じゃ無いわ………」


 「ほ、本当ですか!?」



 そんな中、アーメイデが静かに口を開いた。皆の視線が、アーメイデに注がれる。



 「弱点があるとすれば、それはエジタスのスキル“スキル無効”」


 「どう言う事ですか?」


 「スキル無効は、文字通りありとあらゆるスキルを無効にする事が出来る。ここで問題なのが、コウスケの“物理無効”やサタニア一世の“魔法無効”、どちらもスキルのカテゴリーに分類されている。つまり、エジタスがスキル無効を発動している間は、他のスキルである無効を発動する事が出来ない……」


 「「「「「「「「!!」」」」」」」」



 目から鱗。アーメイデの話は筋が通っていた。もし、その可能性が当たっていれば、勝つ事も夢では無い。全員の心に、希望の光が灯される。



 「試して見る価値はあるんじゃない?」


 「そうだな、問題は誰がスキルをぶつけるか……」


 「私がやるよ」


 「…………マオ」



 エジタスに、攻撃を無効化される担当を真緒が名乗り出た。



 「いいのか?お前の手で、エジタスの奴を止めるんじゃなかったのか?」


 「……最初は、そのつもりでした。だけど、分かったんです。大事なのは、私が師匠を止める事じゃない……また師匠と一緒に旅を続ける事です!!目先の願いより、後先の願いの方が大切ですから!!」


 「マオ……僕もやるよ」


 「サタニア!?」



 真緒の言葉に、サタニアも一緒に行くと名乗り出た。



 「マオの言う通りだ。僕はエジタスを止めたいという、目先の願いに囚われていた。でも、今のマオの言葉でハッキリした。僕も後先の願いの方が大切だ!!僕はエジタスと一緒に、この魔王城で毎日楽しく過ごしたい!!」


 「サタニア……行こう!!一緒に!!」


 「うん!!」


 「決まったな……それじゃあ、残りの者は物理と魔法担当という事で……いいな!!」


 「「「「「おぉ!!!」」」」」



 作戦は決まった。一同は、残された最後の希望を胸に、エジタスに戦いを挑むのであった。



 「「うぉおおおおお!!!」」



 先方。真緒とサタニアの二人が、エジタス目掛けて走り出した。



 「作戦会議は終わったか?まぁ、何をしようとも無駄だがな」



 その瞬間、エジタスの右側から生えている魔王サタニアが、虚ろな目で走って来る二人を見つめながら、右手を突き出した。



 「…………“ダーク・ファンタジア”」


 「「!!?」」



 魔王サタニアが魔法を唱えると、二人を囲う様に無数の黒い玉が生成された。黒い玉は、まるで踊っているかの様に二人を中心に、上下に揺れながら回り始めた。更に無数の黒い玉は、二人を覆い隠す様に包み込み始めた。最終的に、無数の黒い玉はドーム状の檻を作り出した。



 「こ、これって!?」


 「僕の……“ブラック・ファンタジア”の上位互換…………!?」


 「当たり前だ……こっちは一世、そっちは三世……力の差は歴然だ」



 真緒とサタニアの二人は、無数の黒い玉が作り出したドーム状の檻によって、動きを封じられてしまった。



 「何を企んでいたのか……まぁ、こうなってしまえば、知らなくても大丈夫そうだな……それじゃあ、死んで貰おうか」


 「そ、そんな…………」


 「ここまでか……」


 「“三連弓”!!」


 「「「!!?」」」



 その時、何処からともなく三本の矢が連続して飛んで来た。飛んで来た三本の矢は、無数の黒い玉の一つに当たると、跡形も無く消滅した。



 「フォルスさん!!」


 「二人供、行け!!ここは俺に任せろ!!」


 「ありがとうございます!!行こう、サタニア!!」


 「うん!!」



 フォルスは外側から、黒い玉目掛けて矢を放つ。矢が当たる事によって、黒い玉が次々と消滅していく。いくつもの黒い玉が消滅した事で、隙間が生まれた。その隙間を通って、真緒とサタニアはエジタスの元へと走り出した。



 「出来損ないの小鳥が……余計な事をしてるんじゃねぇよ!!」



 エジタスが大声を上げると、残っている黒い玉が全てフォルス目掛けて襲い掛かって来た。



 「おぉっと、急降下!!」



 対してフォルスは、急降下する事で飛んで来た黒い玉を華麗に避けた。



 「危ない危ない。エジタスさん、俺ばかりに注意を向けていたら駄目ですよ」


 「…………っ!!」


 「「はぁああああああ!!!」」



 視線を下ろすと、いつの間にか真緒とサタニアの二人が、近くまで走って来ていた。エジタスは軽い舌打ちをすると、自身の両腕を突き出して、迫り来る真緒とサタニアに向けて掌を向けた。



 「はぁあああああ!!!スキル“ロストブレイク”!!」


 「はぁあああああ!!!スキル“ブラックアウト”!!」


 「無駄だと言うのが、分からないのか!!スキル“スキル無効”!!」



 その瞬間、エジタスの体は半透明な膜に覆われた。そして作戦通り、真緒とサタニアのスキルは防がれた。



 「これで分かっただろう……どんな攻撃をしようと……「「今だ!!」」……何!?」



 真緒とサタニアの掛け声を合図に、両端からハナコ、リーマ、ゴルガ、シーラ、アルシアの五人が飛び出して来た。



 「どりゃあああああ!!!」


 「“ウォーターキャノン”!!!」


 「ウォオオオオオ!!!」


 「食らえぇえええええ!!!」


 「おんどりゃあああああ!!!」



 物理と魔法。それぞれの攻撃が、両端からエジタス目掛けて襲い掛かる。



 「「行けぇえええええ!!!」」


 「そう言う事か……俺が“スキル無効”を発動している間、他の無効化であるスキルは発動出来ない……見事だ」



 歓喜。無敵と思われた無効化の穴を突き、エジタスに見事と言わせた。その場にいる全員が勝利を確信した。



 「……よし、普通に避けるか」


 「「…………えっ?」」



 その瞬間、エジタスの姿が消えた。



 「き、消えた……?」


 「違う!!皆、上だ!!」



 空中にいるフォルスが大声を上げる。その声に従い、全員が見上げるとそこにはエジタスが跳んでいた。



 「そ、そんな!?」


 「ここから、あの空中まで移動したというのか!?」


 「お前達は、大事な事を見落としている……俺の“構築”は、その者が生前覚えていたステータス、魔法、スキルを共有する事が出来る……そうつまり、今の俺は初代勇者であるサイトウコウスケと、サタニア・クラウン・ヘラトス一世のステータス……計三人分のステータスを保有しているんだよ!!」


 「そんな……それじゃあ……例え無効化の穴を突いたとしても……」


 「規格外のステータスの差で……全て避けられてしまう……」



 絶望。灯った希望の光は、意図も簡単に掻き消されてしまった。これにより、多くの者の心はポッキリと折れてしまうのであった。

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