異世界
魔王城特別会議室。それは魔王と四天王と一部の魔族のみが出席を許される重要な施設である。円形型の机に六つの椅子が均等に置かれている。
その会議室に魔王であるサタニアとクロウト、そして四天王全員が揃っていた。しかし、いつもの雰囲気と違いとても重々しい。
「なぁ、その話は本当なのか?」
重々しい空気の中シーラが口を開く。
「間違いありません。確かな筋からの情報です」
「“勇者”ねぇ…………」
“勇者”という単語を呟くアルシア。
「はい、カルド王国で異世界からの勇者転移が行われました」
「確か前回行われたのが二千年以上前でしたっけ?」
「その通りですエジタス様。当時、人間達は魔族の進行を恐れその対抗手段として異世界から人間を持ってこようとしたのです」
「どうやったらそんな発想に行き着くのかねー」
シーラは呆れるようにため息をついた。
「ん、持ってくる?それってまさか……」
「そうです。エジタス様が得意な空間魔法の応用です」
「ちょっと待てよ!空間魔法は物の類いしか運べないんじゃなかったのか?まぁ、例外はいるとして……」
エジタスの方をチラッと見ると小さく手を振っていた。
「それってつまり……」
「カルド王国の人達は人間を道具として見ているという訳です」
「そうか……」
「でもまぁ、同情はしないわね」
「ニンゲンニハ、ニンゲンノヤリカタガアル」
「人間を道具だなんて、とんでもないですね~」
お前が言うか?みたいな目線がエジタスに集まる。
「オホン!いいですか?結果、異世界の人間は道具と認識され、持ってくることに成功しました。その人間は後に魔王であるサタニア・クラウン・ヘラトス“一世”。つまりサタニア様のお祖父様を打ち倒し魔族の進行を止めました。そして栄光を称え魔族と戦う勇気ある者、“勇者”と呼ばれるようになりました。それから人間達は自分達に危機が迫ったときは異世界の者を頼るようになったのです」
「それが勇者転移……」
「それで皆に聞きたいんだけど」
今まで口を閉ざしていたサタニアが喋った。
「この案件どうすべきだと思う?」
「「「…………」」」
沈黙────。だが、それも仕方がないことだ。前例が二千年以上前なのだから、その時の状況が描写された資料なども残ってはいない。
「…………そんなのこっちから奇襲を仕掛ければいいじゃないか。あっちも転移したばっかで混乱しているはずだからな」
「おバカね。そんなことしたら人間と魔族の全面戦争じゃない。せっかく均衡を保っていた魔王ちゃんの努力を無駄にする気?」
「あっ!も、申し訳ありません……」
魔族は人間よりも強い。それこそ全軍で攻め込めば数日で王国は陥落するであろう。しかし、そうしないのは現魔王であるサタニアが争いを好む性格ではない為、なるべく平和的な解決を模索している。更にその為、魔族達が人間を滅ぼさないように釘を刺している。
「別に気にしてないよ。それより何か別の案を考えよう。武力意外で…………。せめて、勇者がどんな人か確かめられればいいんだけど」
「仕方がないですね~」
皆が頭を抱えながら悩んでいるときに、得意げな雰囲気を醸し出しながら立ち上がるエジタス。
「エジタス?」
「私がカルド王国まで偵察に向かいましょう」
「「「「えっ!?」」」」
エジタス以外の全員が驚きの声をあげる。
「私なら空間魔法が使えますから、ここから一瞬で着けます。それに他の人達とは違い顔は知られていません」
四天王は人間の間では有名な話であり、その名前と二つ名は深く知れ渡っている。だがエジタスは最近入ったばかりなので、二つ名どころか名前すら知られていない。
「確かにエジタスちゃんが行けば安心だけど…………」
「それに空間魔法ですぐに帰ってこられるしな」
「センセイナラバ、ダイジョウブダ」
「ではその作戦で……「ダメ!」
サタニアから待ったの声があがる。
「どうしてダメなんですか~サタニアさ~ん」
「ダメだったらダメなの!!」
頑なに首を縦に振ろうとしないサタニア。
「他に何かいい作戦がありますか~?」
「えっと、それは……」
他にないかと聞かれた途端、何も言えなくなってしまった。
「大丈夫ですよ」
「え?」
「偵察といっても王国内の噂程度を調べてくるだけですから、危なくなったら即座に空間魔法で帰ってきますよ」
「ほんと…………?」
「ええ、約束します」
「…………わかった」
「ありがとうございます。それでは準備してきますね」
そう言って会議室を出ていった。
「大丈夫か?」
「今はエジタスちゃんを信じるしかないわ」
「センセイナラ、キットヤッテクレル」
「どうでしょうね…………」
「エジタス…………」
***
「それでは皆さん行ってきます」
魔王城場外。リュックを背負い、敬礼のポーズを取るエジタス。側にはサタニア、クロウト、シーラにアルシアにゴルガ、さらに門番である赤毛と青毛二人のミノタウロスが揃っていた。
「くれぐれもバレるんじゃないぞ」
「エジタスちゃん、体には気を付けてね」
「センセイ、ゴタッシャデ」
「トラブルには巻き込まれないようお願いします」
「エジタス殿、どうかご無事で」
「青毛の奴と同じ意見です」
「はい、皆さんお元気で~」
一通り別れの挨拶を終えるとサタニアが一歩前へと踏み出した。
「エジタス…………」
「サタニアさん。大丈夫ですよ、会いたくなったら空間魔法ですぐに会いに行きますよ」
「……うん!」
強く頷くと素直に後ろへと下がった。
「それでは行ってきます」
一瞬で姿が消えた。こうしてエジタスはカルド王国へと向かった。
***
カルド王国の城、カルド城の一室で青いローブを着た男性と純白のドレスを着た女性が円を囲って勇者転移を試みた。
「やりました、成功です」
「「おおー」」
結果は見事成功し、円の真ん中には四人の人間が倒れていた。
「ん……ここは……ちょっと舞子、起きなさいよ舞子!」
「んー、あれ愛子?」
気絶していた愛子が目を覚まし、隣で気を失っていた舞子を起こした。
「え、いったいここどこ?」
「分からない。だけど、周りの人を見ると日本人じゃないから日本じゃないかもしれない」
「そんな…………は!聖一さん、聖一さん起きてください。」
周りを見渡すと近くに聖一も気を失って倒れており、舞子は聖一を起こした。
「う、うーん、ああ舞子さん。ここは何処なんだ?」
「………………」
ちなみに真緒はとっくに目覚めていたが他の三人からは無視されていた。
「お目覚めになりましたでしょうか?」
ドレスを着た女性が混乱している四人に話しかける。
「あなたは?」
「申し遅れました。私、カルド王国第一王女。シーリャ・アストラス・カルドと申します」
「カルド王国?」
状況が呑み込めていない四人に対してシーリャは説明に入る。
「この度は皆様を異世界から“勇者”として呼び出させて頂きました。」
「勇者ってまったく意味が分からないんですけど!」
「落ち着いてください」
「落ち着ける訳ないでしょ!急にこんな変なところに連れてこられて、勇者とか頭おかしいんじゃないの!?」
「貴様!王女様に向かってなんて口の聞き方だ!!」
「止めなさいあなた達!」
シーリャが青いローブを着た二人の男達を宥める。
「愛子さんと舞子さんも一旦落ち着いて、まずは話を聞こう。すみません、異世界からと言っていましたが、ここは僕達がいた世界とは別の世界という訳でしょうか?」
聖一が興奮している愛子と舞子を宥めると気になった事を質問する。
「そちらの殿方は意外と冷静でいらっしゃるようですね」
だが、シーリャは知らない。この中で一番冷静なのは、突然の出来事には既に経験して慣れている“真緒”だということに……。
「はい、こういう展開はよく読む本に書いてありますので」
「あら、そんな本が異世界では存在するのですか?是非お話を聞きたいです」
「王女様、そろそろ本題に……」
「ああ、そうでしたね。実はこの世界では、私達人間の他に魔族と呼ばれる種族がいます。魔族はとても狂暴で見境なく人に襲いかかるのです」
シーリャは魔族について大きく誇張する。
「二千年以上前、魔族がこのカルド王国に進行してきた時、私達人間は神に祈りを捧げました。するとどうでしょう、異世界から勇者様がやって来たのです。勇者様は瞬く間に魔族の進行を止めて下さいました。しかし、現在になって再び魔族の進行が活発になり始めたのです。もう勇者様はおりません。そこで私達は祈りを捧げました。そして…………」
「僕達が呼び出された……」
「その通りです。お願いします、どうか皆様のお力をお貸しください!」
シーリャと青いローブを着た二人の男達は深々と頭を下げた。
「いやよ、そんな危ないこと出来るわけないじゃない!」
「そうよ!早く家に帰してよ!」
「それは出来ません……」
「「はぁ!?」」
「私達は祈りを捧げただけで、返す方法までは心得てはおりません。しかし、文献によれば魔族の王である魔王を倒せば、元の世界に帰れる筈です」
嘘だ。真緒はシーリャが嘘をついていることを見抜いた。今まで人と話すのを極力避けてきたお蔭で、相手の表情を見るだけでその人が嘘ついているか分かるようになった。しかし、そんなのお構いなしに愛子と舞子は怒鳴り散らす。
「ふざけんじゃないわよ!」
「あんたそれでも王女なの!?」
「貴様ら、黙って聞いていれば……「止めなさい!」しかし!」
「王女様」
青いローブの男達がキレそうになるのをシーリャが止めていると聖一が口を開いた。
「二人のように完全否定するつもりはありませんが、僕達は戦闘すらしたことのない一般市民です。そんな僕達が役に立つのでしょうか?」
最もな疑問だ。非戦闘員である自分達が参加しても足手まといにしかならない。けれどシーリャの表情は明るかった。
「そこはご安心ください。異世界から呼び出された者は今この世界の者よりも数十倍近い力を手に入れております」
「僕的にはそんな感じがありませんが……」
「私も」
「あたしも」
「…………」
聖一を含め四人とも力が溢れているようには感じない。
「その点に関してはお任せください。私はその者のステータスを判別するスキル“鑑定”を持ち合わせております」
「スキル?」
「その点に関しては後ほどご説明させて頂きます。まずはそちらの殿方から見させていただきます。失礼ですがお名前は?」
「如月 聖一です」
「キサラギ セイイチ様。それではセイイチ様のステータスを調べさせていただきます。…………スキル“鑑定”」
キサラギ セイイチ Lv10
種族 人間
年齢 17
性別 男
職業 勇者
HP 300/300
MP 180/180
STR 200
DEX 120
VIT 180
AGI 100
INT 160
MND 100
LUK 140
スキル
ワイルドスラッシュ パーフェクト
魔法
火属性魔法 水属性魔法 風属性魔法
称号
完璧を心掛ける者
「す、凄いです!!全てのステータスが100越えで、さらに魔法が三つも扱えるなんて!!!」
「そんなにですか?」
いまいちこの世界の基準が理解できていない聖一。
「そりゃそうですよ。普通の人でも30そこそこ、騎士団長クラスでも80ですからセイイチ様は騎士団長よりも強いということです!」
「流石聖一さん!」
「やっぱり凄い人は異世界行っても凄いですね」
愛子と舞子が聖一を褒めまくる。
「次、私のをおねがーい」
「あ、あたしもあたしも」
「分かりました。……スキル“鑑定”」
二人のステータスが一気に判別される。
ササヌマ アイコ Lv8
種族 人間
年齢 17
性別 女
職業 魔女
HP 240/240
MP 200/200
STR 120
DEX 160
VIT 100
AGI 130
INT 200
MND 160
LUK 140
スキル
魔力吸収 魔力解放
魔法
氷魔法
称号
冷血な眼差しの持ち主
イシダ マイコ Lv7
種族 人間
年齢 17
性別 女
職業 聖女
HP 200/200
MP 230/230
STR 100
DEX 140
VIT 100
AGI 150
INT 180
MND 160
LUK 140
スキル
慈愛の精神 不屈の魂
魔法
土魔法 回復魔法
称号
慈愛の先導者
「さ、最低でも100を越えるステータスを持っているなんて…………特にアイコ様の氷魔法はユニーク魔法と呼ばれるアイコ様だけの専用の魔法です」
「え、まじで?ラッキー!」
「いいなー、愛子だけ……」
「マイコ様も回復魔法は世界でも数人しかいない貴重なものです」
「ほんとー?やったー!」
「では次はそちらの女性を……」
「えっ、誰?」
三人が真緒の方へと振り向く。
「あ、あんたいたの?全然気づかなかったわ」
「まじ、こんな状況で声を出さないとかウケるんですけど」
こんな状況だからこそ動揺したりして声が出せない筈だろ。そう思う真緒だがそれすらも声に出せない。
「それでは調べますよ」
「え……あ……ちょっ……ま……」
「スキル“鑑定”…………え?」
サトウ マオ Lv1
種族 人間
年齢 17
性別 女
職業 勇者…………には程遠い
HP 10/10
MP 8/8
STR 10
DEX 8
VIT 20
AGI 15
INT 18
MND 16
LUK 3
スキル
なし
魔法
なし
称号
過去を引きずる者
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