サタニア・クラウン・ヘラトス三世
歓迎会から三日たった今日。紙飾りや風船で彩られていた玉座の間はすっかり片付けられ、元の神秘的な部屋に戻っていた。
そんな玉座の間に、サタニアとエジタスの二人だけがいる。
「エジタスさんごめんなさい、急に呼びつけたりして」
「そんな、こちらこそ遅れてしまいすみません。中庭の修復に時間が掛かりまして……」
「え、中庭がどうかしたの?」
「いえ、何でもありません」
「そ、そうですか」
いつもと違いハッキリとした態度に少し違和感を感じるサタニアだが気のせいだと判断して話始める。
「それで呼び出した訳なんですが、エジタスさんに、まだ四天王の主な仕事内容を伝えていないなと気がついて……」
「成る程、確かにまだ四天王の意味しか聞いていませんでしたね」
「はい、だから今回はそのことについて説明しようと思って呼び出したのですが……ご迷惑だったでしょうか?」
「とんでもない、むしろ今聞けてとてもラッキーでした」
「そうですか良かった……では、説明しますね。四天王は主に敵からの防衛、現魔王の守護が任されています。この内容はお聞きになりましたか?」
「はい、以前シーラさんに少し」
模擬戦の時の魔王の手足という話を思い出す。
「これは他の兵士にも言えることです。そして、ここからが四天王だけのお仕事なんですが………エジタスさんはこの魔王城の外観を覚えていますか?」
「ええ、とても印象深かったので……」
魔王城は四つの柱からなる巨大な塀で守られるように禍々しい建物が中央に聳えている。
「そう、その四つの柱をそれぞれ守るのが四天王の主な仕事なんです」
「どういうことですか?」
「実はあの四つの柱は中央の建物、つまりこの魔王城を保護して侵入者を防ぐ結界を張るための柱なんです」
「なんと!そんな意味があったのですか……あれ、でも私が来たときはそんな結界ありませんでしたね」
「そこが問題なんです。結界は四天王全員が居なくては張ることは出来ません」
「そういうことでしたか、確かにあの時は三人しか居なかったですからね」
「はい、ですがエジタスさんが四天王に入ってくれたおかげで再び結界を張ることが出来るんです!」
「なるほど~四天王とは重大な役目を持っているのですね~。そういえば四天王になったはいいのですが、何か登録などしなくてもよろしいのですか?」
ふとした疑問に答えを求めるエジタス。
「そこは安心してください。この前の歓迎会にあったあの垂れ幕、覚えていますか?」
「もちろんですよ~『エジタスさん魔王城へようこそ』と私の名前が書いてあってとても嬉しかったのですから」
「実はあの垂れ幕には特殊な魔法が掛かっていて、書かれた名前の人が四天王として認識される仕組みなんです」
「ほほ~あの歓迎会がそんな大切なこととは……」
「……まぁ、本当は書くだけでよかったんだけど、エジタスさんと一緒にお祝いしたかっただけなんだよね…………」
「ん、サタニアさん何か言いましたか?」
「い、いえ何でもありません!」
小さく呟いたサタニアの言葉はエジタスの耳には届かなかった。赤く染まった顔がバレないように隠そうとする。
「そうですか~?…………まぁいいです。取り敢えずその結界が破られないようにするのが四天王の仕事でよろしいのですか?」
「は、はい。結界は四天王の一人でも亡くなってしまうと破られてしまいます。だから、危なくなったら僕を見捨てでも逃げてください」
「…………それは出来ない相談ですね~」
「どうしてですか!?」
「サタニアさん……私はこの三日間魔王城で過ごしてみて分かったことがあります。シーラさんやアルシアさん、ゴルガさんそしてクロウトさん。皆さん種族はバラバラですが共通する物が一つあります。それは…………」
エジタスの言葉に緊張が走る。
「サタニアさんあなたを一番に考えているということです」
「…………え?」
「シーラさんもアルシアさんもゴルガさんもクロウトさんも、皆さん話をするときはいつもサタニアさんのことばかり話していましたよ。私は思いました。自分の事より他の人の事を想う事こそが本当の愛なのだと……」
「エジタスさん……」
「四天王になったからには、他の皆さんにも負けないぐらい私もサタニアさんの事を想いましょう!だからこそ、自分の身が危なくなったとしても逃げません。サタニアさんを最後までお守りします」
「そ、そんな、ぼ、僕の事を想うだなんて…………あのエジタスさん」
「なんですか?」
「エジタスさんの事を“エジタス”って呼び捨てにしてもいいですか?」
「もちろんですとも~その方がより親密な関係になって親睦も深まること間違いないでしょう!」
「ありがとう、エジタス!」
喜びに浸っていると扉の方から何か聞こえてきた。
おい、押すなよ。
押してないですよ、というかもっと離れてください。
こらこら、喧嘩しないの。
ヨクミエナイ、モウスコシマエヘ。
おい、押すなって!
ちょっとこのままじゃ……
ゴルガちゃん、ストップストップ!
「「「うわぁぁぁぁ!!!」」」
ヒソヒソ声が聞こえてきたと思ったら扉が開き、シーラとアルシアとクロウトが雪崩れ込んできた。後ろにはゴルガが呆然としながら立っていた。
「ちょっ、みんな!?」
「おやおや、皆さんお揃いで何してるんですか?」
「あ~あ、バレちゃたわね」
「貴様が押すから……」
「私ではありません!ゴルガ様が……」
「ヨクミエナカッタカラ……」
「もぉ~こんなことで喧嘩しないの」
「そんなことより、いつから見てたの!?」
まさか見られているとは思っていなかったサタニアが、普段よりも興奮しながら尋ねる。
「そりゃあ……最初からよ」
「え……今までの全部?」
「ああ。魔王様もあんな顔するんだな」
「!!!」
恥ずかしさのあまり顔が真っ赤にそまる。
「それにしてもエジタスちゃん。あなたやるわね」
「何がですか?」
「あんなにも堂々と守ります宣言されたら、あたし達だって負けてられないじゃない」
「貴様だけに魔王様は守らせん!」
「まぁ、少しは見直しましたよ」
「ヤハリ、センセイハイダイデス」
いまいち理解していないゴルガを他所にその光景を見ていたサタニアが柔らかい笑顔をしながらエジタス以外の四人に呼び掛ける。
「みんな!」
その言葉に答えるようにシーラとアルシア、ゴルガにクロウトの四人はサタニアの前に集まりエジタスに呼び掛ける。
「エジタス」
「エジタスちゃん」
「エジタス様」
「センセイ」
そして最後にサタニアがエジタスに呼び掛ける。
「エジタス。改めまして……」
サタニアの言葉に合わせて全員がエジタスに言う。
「「「「「魔王城へようこそ!!!!!」」」」」
「はい、これからお世話になります!」
「「「「「「あははははははは」」」」」」
その場にいる全員が笑いだし、後にこう語られている。あの禍々しい魔王城から想像もつかないほどの優しい笑い声が聞こえてきたと…………だが信じる者は誰もいなかった。
人間だけが住む国、カルド王国。カルド城のある一室で、青いローブを着た男二人と純白のドレスに身を包んだ女が円を囲っていた。そしてドレスを着た女が口を開く。
「それではこれより異世界からの転移を開始します」
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