四天王
ど~も皆さん。道楽の道化師エジタスです。前回私は魔王様に会うために魔王城に行きました。するとそこで待っていたのは以前迷いの森で偶然会ったサタニアさんではありませんか。
しかも、現魔王という驚きのオンパレードでした。さらにサタニアさんは私に四天王にならないかと誘ってきてくれたのです。その時どんなことがあったのかお話ししましょう。
***
「なりません!!」
大きな声が玉座の間に響く。サタニアがエジタスを四天王にならないかと誘うが真っ黒な鎧と槍をもった白い鱗の龍が即座に否定した。
「魔王様。本日この男を招き入れたのは以前、迷いの森で助けてもらったお礼をしたいからということでした。しかし仲間に入れるのはまた別の話です。ましてや四天王だなんて、魔王様の側近になるも同然。いきなり見ず知らずの者が側近になれば混乱は免れません」
「でも、シーラ……」
「でも、ではありません!魔王様の為に言っているのです」
シーラと呼ばれる白い鱗の龍の女性は頑なにサタニアの言葉を拒む。すると屈強な鎧を身につけた骸骨頭が口を開く。
「シーラちゃん、いいじゃない。魔王ちゃんが決めたことなんだからそれに従うのが配下であるあたし達の役目じゃないの?」
「アルシアさん、しかし……」
男でもない。女でもない。なんとも言えない声を発するアルシアに対してさっきとは打って変わって弱気なシーラ。
「なら多数決なんてどう?それなら納得できるんじゃない?」
「……まあ、それなら」
しぶしぶ受け入れるシーラ。
「じゃあまず、四天王入りに反対の人」
シーラと矢印型の尻尾の人が手を挙げた。
「クロウト……」
サタニアが矢印型の尻尾の人の名前を呼ぶ。
「申し訳ありませんサタニア様。あなた様がこの男をどれだけ慕っていようとも、私はどうしてもこの男は信用できません」
「……」
クロウトの言葉に黙ってしまうサタニア。
「オッケー反対は二人ね。じゃあ続いて四天王入りに賛成の人」
サタニア、アルシア、そしてゴーレムの三人が手を挙げた。
「ちょっと待った!」
シーラが声を荒らげる。
「魔王様とアルシアさんが手を挙げるのはわかる。しかし、ゴルガ!なぜお前が手を挙げるんだ」
ゴルガと呼ばれるゴーレムはどうやって声を出しているのか分からないが喋った。
「オレハ、マオウサマノブカ。マオウサマノメイレイハゼッタイ」
「そんな……」
ゴルガの返答にガックリと膝を落とした。
「……!!」
キッとエジタスを睨み付ける。
「?」
「私は絶対に認めないからな!」
そう言うと何処かへ行ってしまった。
「あの~……」
「ああごめんなさいね、あの子も悪気はないの。魔王ちゃんがあなたの話ばかりするから嫉妬しちゃってるのよ」
「アルシア!」
「もぉ~照れなくてもいいじゃない」
手首を上下に動かし、興奮したサタニアを宥める。
「サタニア様。そろそろエジタス様に説明をした方がよろしいかと思います」
「あ、そうだね。……ごめんねクロウト、我が儘言っちゃって。」
「いえ、確かに私は反対しましたが入ることが決定したのであらば、それを全力でサポートさせていただきます」
「クロウト……ありがとう」
クロウトがお辞儀をして、ポカーンとしているエジタスに残りの四人が視線を向ける。
「待たせてしまってごめんなさいエジタスさん。これから、四天王について説明しますね」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「まず、魔王軍は基本的に階級制度なんです。下から下級兵士、中級兵士、上級兵士、小隊長、部隊長、軍隊長、将軍、そして四天王、魔王とこんな感じで形成されています。実は一年ほど前から四天王の席が一つ空いていて今はここにいるアルシアとゴルガ、さっき出て行ったシーラの三人しかいないんです。それで……」
「成る程~それで私が……あれ?でもそちらにいる、確か……クロウトさんは?」
「ああ、クロウトは少し特殊で僕の事を小さい頃から育ててくれた人なんです。だから階級制度の枠組みには入らないんですよ」
「そういうことでしたか~」
今でも小さいと思ったがすぐさま記憶から消し去った。
「おや?でも、どうして私なんですか?」
「え、えっとそれは……」
「?」
徐々に顔が赤く染まり、俯いてしまうサタニア。
「代わりに私が説明します」
一歩前へと踏み出して話始めるクロウト。
「こう見えてサタニア様は百八十歳。魔王としては若すぎて信用できないと思う者が何人もいます。そんな人を四天王に入れることはできません。」
「あたし達みたいに魔王ちゃんの側で働けば少しは信頼関係を強められるんだけどね~」
アルシアはため息をつきながら片手を頬に添える。
「そこで、エジタス様に白羽の矢が立ちました」
「なぜ?」
「以前、エジタス様は迷いの森でサタニア様を助けていただきました。魔族であると知っていながら助けてくれたその優しい心にサタニア様は確信したのです。四天王になるのはあなたしかいないと」
「ですが、あれは偶然そうなっただけですよ~」
「それでもです。今の世の中は魔族が虐げられています。エジタス様はそんな魔族の頂点に立つサタニア様に生きる希望の光を与えて下さりました。」
「あれもただ、サタニアさんに笑顔になっていただきたかっただけで~……」
「お願いします。どうか四天王の一人になってください。」
「お、お願いします」
「あたしからもお願いするわ」
「タノム……」
その場にいる四人全員が頭を下げて頼み込む。
「……いいでしょう!そこまでされては、断る訳にはいきませんからね」
「エジタスさん……ありがとうございます」
「それでは、これからエジタス様のお部屋までご案内させていただきます。その後、エジタス様の歓迎会を開きますのでご出席の方よろしくお願いします」
「おお~、部屋だけではなく歓迎会までしていただけるなんて本当にありがとうございます」
「いえ、感謝を述べるのはこちらの方です。ではついてきてくださいご案内します」
そう言うとクロウトは玉座の間の横の壁にある小さな扉までエジタスを連れていく。
「エジタスさん!」
「なんですか?」
「また後でお会いしましょう」
「はい!歓迎会、楽しみにしていますね」
***
長い廊下を進むエジタスとクロウト。最初の廊下とは違い、床には緑色に黄色の装飾が施されたカーペットが敷かれていた。途中幾つかの扉を通りすぎると一つの扉の前で止まった。
「こちらがエジタス様のお部屋になります」
「おお~、ここがそうですか。クロウトさん、何から何までありがとうございます」
「お気になさらず。サタニア様に希望の光を与えて下さったのですからこのくらい当然です」
「そういえば、さっきも仰っていましたが希望の光とはどういうことですか?」
エジタスが訪ねると少し口を閉ざしたが、覚悟を決めるかのように話始めた。
「……サタニア様は心を閉ざしていました。先代が早くに亡くなられてしまったため、急遽三代目として着任されたのですが、それは多くの者を敵に回す結果になりました。先代と関係が深い魔族の皆様はサタニア様の着任に不満を抱き、度重なるひどい仕打ちや数々の嫌みを言うようになりました」
「何処に行ってもそういうのがあるんですね~」
「はい、その重圧に耐えられなくなったサタニア様は城を飛び出してしまったのです」
「なるほど~そこで私と出会った訳ですか」
「エジタス様に助けて頂いた後、サタニア様は私や四天王の皆様にその時あった出来事を楽しそうに話されました。本当に……あんなに明るいサタニア様を見たのは久しぶりでした。ですからサタニア様に笑顔……生きる希望の光を与えて下さったエジタス様には感謝しているのです」
「いや~私はそんなつもりで「ですが」……?」
急にクロウトの顔が険しくなった。
「私はあなたのことを信用していません」
声のトーンが低くなり、完全なる敵意を向けていた。
「そもそも、鎧を着た二人に襲われたと聞きましたが、あの迷いの森にいる時点でおかしいんです。あそこは人間どころか魔族でさえ近づかない森、そんな場所に人間がいること事態不自然です」
「何が……言いたいんですか?」
「私はあなたと鎧の二人がグルなのではないかと疑っています」
「……」
沈黙が続く。エジタスがいったい何て答えるのだろうと、緊張が走り喉が渇き、唾を飲み込む。クロウトの額に汗が流れ落ちる。そしてついにエジタスが口を開いた。
「もぉ~酷いですよクロウトさ~ん」
「え?」
「いくら私が仮面を被っている得体の知れない何かだとしてもそんなことしませんよ~。お~い、おいおいおい、お~い、おいおいおい」
両手を顔に被せ泣く仕草をするエジタス。
「…………」
あまりの展開に呆然と眺めていたクロウトは即座に思考を切り替える。
「申し訳ありませんエジタス様。少しばかり試させて頂きました、本当に四天王の器に相応しいかどうか……」
「な~んだ、そうだったんですか。私てっきりクロウトさんに嫌われてしまったのかと」
ケロッと立ち直るエジタス。
「ご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」
「いいんですよ~気にしないで下さい」
「それでは、五時間後に歓迎会を開きますのでお時間になりましたらお迎えに上がらせて頂きます」
「わかりました~ではまた後でお会いしましょう」
クロウトがお辞儀をするとエジタスはそのまま、部屋へと入っていった。残ったクロウトは玉座の間まで戻ろうとするとボソッと呟いた。
「喰えない男……」
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