笑顔の絶えない世界~道楽の道化師の軌跡~
マーキ・ヘイト
第零章 プロローグ
プロローグ
何処までも広がる冷たい闇。上下左右の区別が全く付かない。風の音すら聞こえない無音の世界。数秒いるだけでも息苦しく感じる。そんな場所に少年が一人座り込んでいた。周りは何も見えない筈なのに、少年の姿だけはハッキリと視認する事が出来る。しかし、何故だか“顔”だけは暗闇が覆っていた。
改めて少年の周りを注視すると、そこに何者かが立っていた。全身真っ黒の存在。男なのか女なのか、そもそも人ですら判断する事が出来ない。“それ”は少年に何かする訳でも無く、只じっと見つめていた。
やがて少年はゆっくりと顔を見上げる。恐らく口から発せられているであろう言葉は、静かに闇の中へと消えていく。
だが、何故かは分からないが少年が何を言っているのか、聞き取る事が出来た。
愛とは何か……。
友情とは何か……。
信頼とは何か……。
考えれば考えるほど分からなくなっていく。
それは疑念。答えの無い問い掛けであった。勿論、側にいる“それ”に話し掛けている訳では無い。自分自身に問い掛けている。次第に問い掛けは激しさを増していく。
愛も友情も信頼も全てはまやかしだ。愛があるならなぜ戦争が起きる?
友情があるならなぜ虐めや差別が存在する?
信頼があるならなぜ裏切りがある?
只のひねくれものなのだろうか。それとも深く考えすぎなのか……。
分からない。分からない、分からない、分からない、わからない、わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない。わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない…………。
繰り返される自問自答。見上げた顔を下ろし、両手で顔全体を覆う。そこには喜びや悲しみ、怒りなどの感情は見受けられない。そんな中で唯一、彼を側で見つめる“それ”は満面の笑みを浮かべていた。真っ黒な空間に真っ白な三日月状の物体が浮かび上がっているという奇妙な状態であった。
やはり何かするつもりは無いらしく、笑顔のまま少年をじっと見つめ続けていた。
そうしていると、やがて少年は覆っていた両手を力無くだらんと落とした。そして何かを悟ったかの様に立ち上がる。
あ……そうか、愛とか友情とか信頼とかじゃないんだ。根本的に間違っていたんだ…………。
そう、
みんなが笑顔になればいいんだ……。
そして少年は笑みを浮かべた。
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