時間限定の偶像だけどなんか実戦に駆り出されてます。ふしぎ!

@dorsatum

第1話 俺、天才じゃん!!

新型の思考認識デバイスと、それに付随する大型建設機械。ウラタスから連綿と続く日本の人型ロボットの最先端のテストに、僕は応募した。倍率にして6万倍の抽選に、不思議にも僕は当選した。

幸運、とは今になっては言えないというか、言ってはいけない。けれど、それで良かったとも思う。

人の思考を読み取り、それを反映する重機。既存の重機では思考とのリンクに障害が出ることから、人形での開発となった。重心の観点からほぼ飾りとはいえ付けられた頭に、安全を考慮し並の人間よりいくらか分厚い胴体、多少関節の位置が違うが人とほぼ同じ腕に、ゴミが挟まるからと未だに議論を呼ぶつま先のついた足。約18m級でおおよそ人のそれを、操縦桿の補助と思考によって動かす「ガンレッグプロジェクト」。ちなみに「ダム」はなんとなく「arms(武器)」と響きが似ているので消された。

この機械を実用化するための実験として、何人か集められた。メディアの注目の元、全員が脚光を浴びた。日本のプロジェクトなのでみんな日本人だ。萩原聡、市松緋俊、杯万結、などなどの人々がパイロットとして乗り込み、日々歩いては転んでみたり物を指先で地面に押し込んでしまったりしている。雰囲気もいいし、何より居心地が良かったのは僕が一番上手かったところだ。乗ったときから、なんとなく動かし方がわかる。自分の腕はあそこまで届いて、足はこんな癖があって。一応歩くときに腕と足が一緒に出たりはしたが、それでも僕が一番だった。称賛も、嫌味も、結果のレポートも、全てが僕のための交響曲みたいで、本当に幻想のようだった。他の人が練習する傍らでニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ、悠々と彼らの積み上げたものを飛び越えていく。夢のように、高く、高く、ふわふわと登っていって…そして、夢は終わるものだった。

ある日のテスト中に体に違和感を覚えた僕は、研究チームの医師に相談し、大きな病院で検査を受けた。大したことはないと言い聞かせて受けた診断は、筋萎縮性側索硬化症、通称ALS。不治の病だ。ざっくりいうと全身の筋肉に脳の司令が伝わらなくなっていき、最終的に息もできなくなる。詰みである。僕はそれを聞いて、深く絶望した。折角こんなに幸せになったのに。もっとこれから目立てるのに。お金だって、なんでも、きっと思いのままだったはず。僕から離れていった種々の幸福を空想して、ますます憂鬱になる。所詮空想に味は無くて、いくら噛み締めても歯はエナメル質を削っていくだけ。まさに縋り付くことさえできない夢は、眼の前で消えていく。本当にカルシウムが欠乏していく僕に、医者はリアルな選択肢をくれた。

コールドスリープ。最近実現した技術であり、みんなが想像するそれである。治療法の実現まで、文字通り果報を寝て待つ、というわけだ。僕はもちろん同意した。こんなところで終わるわけがない。僕は死なないし、僕の才能はいつだって通用する。そう確信している僕は、にこやかに眠りに就く。

─────

「烏澄さん、起きてください。」

誰かの声が聞こえた。

やれやれ、やっと僕が輝ける舞台が整ったようだ。想像の数十倍重い瞼を錆びついたシャッターのようにこじ開けて、そこにあったのはハーレムとかではなく、なんか医者っぽくないおっさんであった。

「まだあまり動けないと思います。体調も良くないでしょうから、手短に話します。」

やけに深刻そうな顔をして、鉄の歯車みたいにお硬い話をしだした。

「落ち着いて聞いてください、あなたは今からエースパイロットです。」

…ん?

「あなたは今から、『蘇った天才』として旗印になってもらいます。」

「あなたがコールドスリープ前に乗っていた機械…ガンレッグは、今や兵器として扱われています。そしてこの国は、そのコア技術を持つ国として全世界から争いの中心として見られています。」

「簡単に言えば、戦争で大変なことになっています。あなたみたいな偶像を立てるほどに。」

おっと…?ナメられてるしなんかヤバいっぽいぞ?

「しばらくはリハビリでしょうが…すぐにでもメディアが来ます。世間は戦争で荒んでいるのを念頭に話してください。万が一、ということもありますから。」

言うだけ言って男は立ち去っていく。どうやら本当に医者じゃなかったようだ。そして医者が入ってきて、僕にこれからのことを話した。が、そんなことはどうだっていい。戦争ってなんだよ。医者に聞いても嫌そうな顔だし、ナースは明らかに口止めされているし。なんだ。何がどうなってるんだ?

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