【短編怪談】家の扉

歩致

開けるなよ、絶対に開けるなよ!振りじゃねえからな!

家には開けちゃいけない扉があった。家の作りは和式で、とにかく部屋が多いから迷路みたいだったのを覚えている。そんな家の奥の奥、人目には付きにくいうえにどこに繋がってるのかよくわかんない場所にその扉はあった。障子だからいつも部屋の中に光がついてるのは分かるし、時々誰かの声が小さく聞こえてたような気がする。


家の人達はいつもお面をしている変な人たちだったけど、優しくていい人たちだったと思う。でも、みんな口を揃えて「あの扉は絶対に開けちゃいけないよ。もし開けたらお前は連れ去られてしまうからね。」そう言い聞かせてきた。扉の話をしようものならとんでもなく怒ってくるから怖くて扉の話をするのは何年も避けていた。


でもある日無性にその扉が気になって、どうしても開けなきゃいけないような感じがした。だから、みんなが寝静まった夜にこっそりと扉に向かうことにした。僕の部屋はみんなの部屋のちょうど中心にあって誰かの部屋を通らないと扉には行けないめんどくさい作りになってたから夜中に抜け出すのは少し工夫が必要だった。そこで、偶然見つけた天井板が外れる場所から天井裏を通って座敷の座布団が積み上げられてる場所に着地した。そこからは廊下の板が鳴らないことを祈りながらゆっくり、ゆっくりと奥の扉に向かって歩いた。


扉の前に着き、持っていたスマホで時間を確認すればもう深夜2時。初めての夜更かしだったからか、少し悪いことをしてると思ったからなのか不思議と楽しくなっていた。そんなことを考えていた時だった。みんなの寝室から物音とともに大きな足音が聞こえたきた。さっきのスマホの明かりでバレたんだと思っても遅かった。怒られるのはわかっていたから扉の中だけでも見ようと扉を開けようとした。古い障子戸は立て付けが悪くなってるせいかなかなか上手く開かなくて、ガタガタ音を立てながら開くのを拒んでいた。後ろには皆が迫っていてなんとなく焦っているようだった。僕は怒られるのが怖くなって扉から手を離そうとした。その時、急に扉が開いて奥から手が伸びてきた。連れ去られる!どれだけ後悔しても、どれだけ怖くても遅かった。みんなの言っていたことは本当だった、そう思うと涙が溢れてきた。僕の体は一瞬で扉の奥に連れていかれた。


しばらくして恐る恐る目を開けると涙を流しているどこか懐かしさを感じる男女がいた。その2人が言うには僕は家の中で突然いなくなって、もう7年経っていたらしい。いなくなった原因は分からず、警察はお手上げ。このまま見つからなければ死亡扱いにするという話をして喧嘩になりかけていた時、突然扉が音を立てて始めたそうだ。2人は直感的に向こうから開けようとしている僕の気配を感じ急いで扉を開けて手を伸ばしたそうだ。今でも僕がいたあの家とお面のみんなは一体何なのか分からないが、あの時の扉はそのまま残っている。そもそもあの世界とこっちの世界のどちらが僕の世界なのかそれは分からないままだ。でも、僕はもう二度とあの扉を開けることは無いだろう。



この話を読んだあなたに問いたい。果たして今いるこの世界は本当にあなたの世界なのだろうか?

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【短編怪談】家の扉 歩致 @azidaka-ha

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