ディス・コード

神城零次

第1話 高校の準備

 高校生活が始まる二週間前に実家から引っ越し先荷物を運び込んで最初の日。同居人はソファーで寝そべりながらお菓子を食べていた。


「珊瑚さんや、荷解きを手伝っていただけないだろうか?」

「それは静真の仕事。私はダラダラする」


 確かに荷物は俺の分だけだ。大半は本だから結構重たい。珊瑚は余り本を読まないので確かに俺の仕事だろう。


 2LDK。本は俺の寝室とリビングに本棚を設置して何とかするつもりだ。本の大半は実家にある。完結していない小説だけ選んで持ってきた。これからも本は増えていく予定である。


「静真お腹すいた」

「ん、ピザでも頼もう」

「そんなに待てない」

「え~」

「お腹に溜まるものでよろしく」


 今お菓子食べてたじゃないかと思わなくも無いが、肉うどんでも作るか。エプロンを手に取り、料理を始める。調理機器は最初に荷解きしたので材料が有ればいつでも作れる。昨日の豚の生姜焼きの残りの豚肉を炒めネギを投入。並行してうどんを茹でる。めんつゆを希釈きしゃくして汁を作る。三口コンロを選んだのは成功だと思う。うどんを温めた後に流水で締めぬめりを取る。つゆを温めた中にうどんを投入して炒めた豚肉を乗せて完成。


「おまちどおさま」

「割りばしは?」

「ほい、早く塗り箸が欲しい」

「実家から持って来なかったの?」

「心機一転最初から全部揃えようかと」

「だからカップも発泡スチロール製なんだ」

「そお言う事、ここが家ってかんじになる」


 洗い物が面倒なので紙皿を使っていたが食器も必要だ。昨日はパックご飯を湯せんして事なきを得たが、新生活は金が掛かる。通販の炊飯器や電子レンジ、掃除機に洗濯機、冷蔵庫等の新生活家電セットが届くのは明日だ。


 珊瑚はちゅるちゅるとうどんを啜っている。食事不敬さえ絵になる子だ。白髪に近い銀髪、青い瞳。掛け値なしの美少女だが、人間ではない。

 死んだ初恋のお姉さんの飼い猫が変化した化生。十六年生きた猫又、それが珊瑚だ。娘扱いでお姉さんの姓を取って神代珊瑚かみしろさんご。無戸籍なので学校には通えない。日中いつも寝ているので学校で学ぶ意欲もない。猫なんだから当たり前だが。


「なに?」


 ずっと見ていたので不審に思われてしまった。なんでもないよ、と返事して食事に戻る。


 高校に上がる時に一人暮らしがしたいと言い出したのは俺だ。地元にはお姉さんと来想い出が多すぎて離れた。両親には自立したいという理由で許可をもらっている。

 珊瑚との出会いはお姉さんの葬式、飼い猫をどうするかで揉めていたのを自分が引き取ると申し出たのだ。まさかしゃべる猫だとは思わなかったが、人間の姿になるなんて、人に言ったら頭がおかしくなったと言われてもおかしくない。

 秘密を抱えたままの高校生活も大変そうだが、楽しんで生きていこうと思う。残されたモノ同士お姉さんを偲びながら。

 

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