94 アイテムボックスに拘って…その94

 謎の人物に誘拐された「匣岬 甲司はこざき こうじ」……魔導車に積まれて輸送されている途中でお漏らしをしてしまい……恐らくは輸送先の前で積み下ろしをする際にそれに気付かれ……春先のまだ寒い外で水をぶっかけられて目を覚ますと共にずぶ濡れになるのだった……ヘックチッ!

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──此処ここは……?──


「入れ」


 一応、ずぶ濡れのまま中に入れることは躊躇したらしく、大判のタオルを渡されて拭くことに……着衣も交換しろと、適当に持ってきたらしい丸首シャツに古びたズボンを渡された。下着が無いのでスースーするけど……素っ裸や元の学生服の上下を着たままよりはマシかな……


「……」


 先を歩くおっさんが静かな足音を響かせる中、僕はサンダルでペッタンペッタンと間抜けな響きを出している……目立つことこの上ない。逃げようとしても、サンダルじゃ絶対滑ってずっこける自信がある……履き慣れてないし……お、止まった。


「入れ」


 先にドアを開けられて横に立つおっさん。中に入れと顎クイするんだけど……


「……」


 仕方なく、ズルペタン……と足音をさせながら中に入る。ちなみに手錠はしてないけど、首輪を付けられている……魔力が通らないからこれは隷属の首輪じゃなく、魔力遮断の首輪らしい。これで、頭の周囲に発生させる魔法以外は発動しない……みたい。まぁ、そんな魔法は余り聞いたことがないので大体の魔法は発動不可能だろうな……



「ようこそ……あーー……はこざきこうじ、くん?」


 こちらの情報をロクに収集しないで拉致したのか……と思ったが、相手の逆鱗を触れないよう……尻尾を踏まないように黙っておく。


「……何で濡れてるんだ?」


「いえ……こいつ寝小便しやがって……車も今、洗浄中です」


「脅さないで連れてこいつったろ……」


「はぁ……ですから意識を落としたんですが……それが不味かったようで」


「ったく乱暴な……着てるのは着替えさせた奴か?」


「へぇ……体に合う奴が無かったもんで。すいやせん……」


 拉致した組織の割には余り乱暴そうじゃない感じがする。どちらかというと、拉致した行動は乱暴だしずた袋(起きた時に見て確認した)に入れて問答無用で運んで来たのも乱暴の範疇だけど……


「あの……」


「なんだ?」


「僕、これからどうなるんでしょうか?」


「あぁ……そうだな」


 暫し考え込む組織のボスか、幹部らしい風貌のおっさん(どちらにせよ、甲司から見れば年上のおっさんしか見てないが(笑))


「お前……純銀や準銀を使ってエムを作ってるだろう?」


(……!)


「作り方のレシピを教えろ。そうしたら……解放してやっても、いいぞ?」


 いやレシピって……うーん……教えてもいいけど、魔力浸透の装置とか作れるのかなぁ?……この人たち


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 別に門外不出のレシピじゃないので教えてもいいけど、教えたからってできる物じゃないので。逆に教えなかったら解放されないのはわかり切っているという……さて、甲司はどのように対応するのでSHOWかっ!?

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