第27話 ロビンの導き
ザックたち騎士団はキーリオの奥、キリキ山麓近くの森の一部の木を切り倒し野営していた。
テントが5つほど建てられたいる。
そのうちの一番大きなテントに案内される。
「ステッド、ありがとう」
テオが代表してお礼を言う。テオの口からステッドの名が呼ばれたことが意外なのか、入り口の騎士が驚いた顔をしていた。
私たち四人はスッとテントに吸い込まれるように入る。
「おーきたか。三人はすまないなぁ、こないだ帰ってきたばかりなのに」
ザックがテントの中ほど、テーブルの奥から顔を上げてこちらを見る。それに合わせ、そのテーブルを囲んでいた同じ鎧をつけた数人がこちらに振り向いた。
私たち四人はその集団に頭を軽く下げる。
「それで、今はどんな状況なんだ?」
マッケンローが世間話よりも今の状況を知りたいと挨拶もそこそこにその輪の中に入っていく。今ここにいる騎士団の団員はマッケンローの昔の同僚たちだ。マッケンローは鎧をつけていないけれど、その輪にすんなり入っていく。
ニャーとロビンが私の腕の中でその存在を主張するように鳴いた。本当に本物のキトのようだ。ニャーと鳴かれるとロビンが魔王であることを忘れてしまいそうになる。
「白キトじゃないか。こいつこんなとこに現れて、これから魔物災害が起こるかもしれないのに、いつものように城にいればいいものを」
ザックがロビンを見て呟く。そこにいた全員がザックに視線を向ける。
「え?団長、このキトって城に時々現れるキトと同じキトなんですか?」
「え?え?城にいればいいってどういう……」
騎士団の数名が疑問を口にする。
「フィラ、そいつ、城に時々現れるキトと同じキトだよな?」
ザックの問いに私は頷いて肯定する。私もザックの城にいれば良かった発言が意外で理由を聞きたくなる。
「いや、キトだって魔物災害に巻き込まれたら生きていられるか分からないだろう。もう何年もそいつと追いかけっこ状態でそいつには愛着も湧いてるんだ。こんなところで死んでほしくはないからな。城にいれば安心だろ」
ー基本、ザックは優しいんだよね。
ザックの言葉に改めてザックの優しさを感じる。ザックの隣にいる副団長のエリアス・スターシーが紺色のタレ目でザックをチラッと見た。
「団長は優しすぎるだろ?また城に入られたら手間だからここで殺してしまえばいいんじゃないか?」
私はエリアス副団長の言葉を聞き、ロビンを抱く腕に力が入るのを感じる。私の後ろにいたリックとテオがスッと前に出る。三人は無意識のうちにロビンを守る態勢に入った。
団員を含め、その場が緊張で張り詰める。その空気を破るように、のんびりした声をザックが発した。
「エリオット、あなたは本当に合理的というか、情のないものには残虐だな。みんな怯えてしまっているよ。もう少し考えて発言してください」
「でも、そんな何年もこちらを悩ますキトに情がわくお前の方がおかしいんじゃないのか?そのキトは王城の結界を破って入ってくるほど魔力が高いんだろ、今ここでやってしまう方がいいだろ」
私の体が硬くなる。ロビンが体を私の胸に押し当てて、ニャーと鳴いた。私を慰めるような声。騎士団員とマッケンローがこちらを振り返る。テオとリックが魔王を前にした時のように騎士団と対峙していた。魔王はこのロビンなんだけど、まるで私たちの敵は騎士団みたいだ。
「おやおや、若い勇者様たちはその白いキトを守ろうとしてるのかな?なんでかな?」
エリアスは嫌味な口調で私たちを「勇者様」と言った。もちろん、私たちがどれほど努力してきたか、ただ「勇者」と名乗るばかりのハリボテではないことを彼も知ってくれているはずだ。それでも、ロビンを庇うように立つ姿勢が気に入らないらしい。
「エリオット、もうやめて下さい」
やれやれと言った感じでザックがエリアス副団長を嗜める。
「勇者たちも話に加わって下さい。魔物災害に対する対策をしなければいけませんから」
ザックの敬語を久しぶりに聞いた気がする。王族に対して以外でザックが敬語を使う必要のある人間はいない。しかし、ザックは場の空気は正す時や改まった席などで、絶対的に敬語を使う。
一度、なんで敬語を使うのか聞いたことがあるけれど、無意識なんだと言っていた。その場の雰囲気で無意識に話方を変えているのだろう。
それにしてもエリアス副団長の様子もおかしい。
合理的できつい物言いをする人ではあるけれど、生き物を無闇に殺すという人ではなかったはずだ。王都から離れていた三年で何かあったのだろうか?
ニャー。
ロビンが大きな声で鳴いた。本当に大きな声だった。みんなビックリしてこちらを向く。ロビンは大きな声を出した後、スッと私の腕からすり抜け、床に降りた。そこから、ひと蹴りで騎士団が囲っていたテーブルの上に飛び乗り、ザックとエリアス副団長の前に進み出る。
私は思わず「ロビン」と名を呼んだ。
二人の反応は正反対。
「ロビンって名をフィラからもらったのか」とザックが笑い。
「は?名までつけてこの白いキトを可愛がっているのか」とエリアス副団長のタレ目が吊り上がる。
そんな二人の反応は無視して、ロビンはニャーと鳴いて入り口に向かって歩き始める。それはまるでついてこいと言っているようだ。
目尻の下がっていたザックもタレ目が吊り上がっていたエリアス副団長も同時に真顔になる。二人目配せをして頷いた。
どうなることかと見守っていた数名の団員にザックが声をかけた。
「私と副団長はその白いキトについて行く。その間の指揮はイアンに一任する」
「私たちも行く」
私は咄嗟に声を発した。マッケンローが「じゃあ、俺がここに残る」と言ってくれた。ザックも頷いている。
ニャーと急かすようにロビンが鳴く。
私たち三人とザックとエリアス副団長は白いキトの後ろについてキリキ山の方に向かって歩を進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます