第13話 覚悟と理念

 テオとリックが睨み合う。でも、それは均衡のとれた睨み合いではない。リックは反射的に怒りを放出しただけで、そこにはテオほどの覚悟も理念もない。どんなに睨み合っても勝者はテオだ。

「あぁー。分かってるよ、これはちゃんと話し合いしなけりゃダメなことだ。それでも、王を倒すと言われれば、俺は……」

 リックが頭を抱えて小さなテーブルに頭をぶつける。コツコツと何度も頭でテーブルをノックする。

ー身内を、父親を倒すって言われて、そうだなんて言えないよね。

「テオ、言い方があると思うよ。倒すっていうか、話し合いだよね?」

「いや、僕は倒すだと思う。王が魔物災害を引き起こしてる。それだけで倒す理由になるよ。ここ10年でどれだけの人間が死んだ?それを魔王のせいにして、魔王討伐に僕たちを向かわせた。もしかしたら魔王なんていないと思っているのかもしれないんだよ。そんな王と話し合いができる?」

「魔物災害は……あぁ、どうしようもないな」

 リックが反論しようとして諦めた。魔物災害はそれほどに悪だ。魔物災害が起これば町が一つ消える。それを各国王が意図して行なっているのだとすれば、何を基準に行なっているのか?

 魔物が増え過ぎないように管理?確かに魔物災害の後、しばらくは魔物数は減少する傾向にある。でも、それは人を襲わせるからではないはずだ。本来の魔物災害の原理は魔物を森に集めることだとロビンが言っていた。

「ねぇ、リックやっぱり話し合いは必要だよ」

 私はゆっくりと声をあげる。

 リックがホッとしたように肩の力を抜いた。テオが大きなため息をつく。

「もうフィラ!!リックにことの重大さを体感してもらおうと思ってるのに、フィラの声を聞いてリックの緊張が緩んだじゃないか」

「え?ごめん」

 私は反射的に謝る。

「いやいや、フィラはいいんだ。謝らなくて。俺がもっと魔物災害のこと受け止めないとだめなんだ。倒すって言葉は強い言葉だけど、それだけの言葉を使わないといけない問題なんだ」

 リックが項垂れて言う。テオが優しい目に戻った。リックの頭を撫でながら頷いている。

「そうだよ。ちゃんと考えて、魔物災害に関しては大問題だから」


 私たちは魔物災害に関して王家にどうアプローチしていくのかを考えた。すぐに答えの出る問題ではない。リックは王家の出身だ。王家の考えとして「国民のために」という理念があると話してくれる。

「でも、じゃあなんで魔物災害が耐えないんだろ?年に1度はどこかで魔物災害が起こってる。フィラの母親も魔物災害でなくなっているだろう。それも王の仕業なんだよね。フィラの母親が生き残ると思っていたのかな」

「まぁ、母さんは強いから生き残ると思ったのかもしれない。でも母さんの性格を知っていれば、町の人たちを一人でも助けるために自分が犠牲になるとわかると思うんだ。それにザックが言っていたけど、あの日の魔物災害はいつもの災害時の魔物よりも上級魔物が多かったみたいで、あれで町の人が三分の一生き残ったのは奇跡だって言ってたの。母さんと父さんが魔物を山のように始末してたからだって」

「父上はいつも国民のために尽くしなさいって言っていたし、自分を滅して王となれと兄上に王としての指針を話してた。だから、私欲で魔物災害を起こすとは思えないんだ。きっと間違った言い伝えがあると思うんだ。フィラの母上、姉上のことは俺にも疑問なんだけど……父上の教えは絶対で、魔物災害の時に姉上が町の人を残して逃げるなんてあり得ないから。それが王家に生まれた人間だから」

 辺りは真っ暗だ。私たちの周りだけ、明るい。明かりはテオが光魔法でつけてくれている。真っ暗な森の奥を怖いと思ったこともあったけれど、今は怖さは感じない。この九年で強くなった。

 魔物は人間を襲う。それは自分よりも弱いものを飲み込んで自分を強くするためだ。弱肉強食の世界だから、強くなければより強い魔物に食べられてしまう。より強くなるために生き残るために人間を捕食する。自然の摂理だ。自分よりも強いと感じるものに魔物はよってこない。私たちは強い。小さな魔物は寄り付きさえしないのだ。

「ね、やっぱりちゃんと王と話をしないといけないよ」

 私がテオの腕を叩く。

 テオが頷いた。

 リックがホッとした顔をする。

 テオはリックのホッとした顔を見逃さない。

「でもちゃんと僕たちの方針は決めておこう。王からどんな回答が来てもいいようにいろんなパターンを考えておこう」

 力強い声だった。リックがそれに頷く。私も力いっぱい頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る