第11話 転生前の話はしたくない
食卓の料理が綺麗になくなった。私も気付いてなかったけれど、お腹が空いていたようだ。食べ始めると止まらなかった。
「ご馳走様でした」
私は手を合わせる。テオがニコニコして私を見た。
「やっぱり、フィラも元日本人だよね。いただきますもご馳走様も板についてる」
ー今、日本人って言った。
私はゆっくりとテオを見る。
「日本人ってなんだ。魔王の言ってた生まれる前の話か?」
「そうだよ。生まれる前に住んでた国の名前だよ。リックはさ、頂きますもご馳走様も毎回はしないよね?でも、フィラは絶対に手を合わせるんだ。何かを口に入れる前に。そして、食べ終わってもね。これは日本の風習なんだよ。まぁ、僕のいた時代では手を合わせる人も少なくなってきてたけど、それでも、こんなに自然に頂きますもご馳走様もこっちの世界の人だとしないんだよね。こっちの父母もしないし、妹と弟は僕がするから自然に覚えて、今では自然に食事の前後にするけどね。彼らは生まれた時からだから」
「ふーん」
リックが何か言いたそうに私を見る。私は生まれる前の話をするのが嫌だった。でも日本の風習は確かに嫌いじゃないし、多分、基本はいまだに日本人なんだと思う。それでも、やっぱり生まれる前の日本での話はしたくない。
「確かに私は元日本人で、今もその時の習慣が残ってるところがあると思う。でも、日本で生きていた時の話はしたくないの」
私ははっきりと言った。心臓がドキドキと大きな音を響かせている。今はみんなに愛されている勇者ギプソフィラだけど、転生前は親にさえ愛されなかった加賀美かすみだ。話しながら、唇が震えているのを感じる。フローラルとゲオの二人に育てられ、愛されることを知った私だけど、こうして時々転生前の卑屈で弱い自分が出てくる。
テオがスッと頭を下げた。私の目の前に緑のつむじがあった。
「ごめん。同じ日本からの転生者だって思ったら嬉しくて。でも話たくないことを話す必要はないんだよ。僕も無理やり話を聞きたいわけじゃなくてね。ずっと転生者ってところでは孤独を感じてたし、そろそろあの世界は夢だったんじゃないかって思えてきてて、あの頃のこと忘れたくないんだけどね。だから、あの世界は夢じゃないんだって、確かに僕はここに生まれる前にあそこにいたんだって思えて嬉しかったんだよ」
ーテオは転生前、幸せだったんだなぁ。
私は真っ直ぐにテオを見た。テオも頭を上げて私を見る。目があった。とても綺麗な水色の瞳。優しい色だ。
「私が話たくないだけだから、別に話を聞くのは大丈夫。それにテオは今まで日本のこと結構話してると思うし、日本にあった電化製品を魔法で応用してるところもあるし、今まで通りなら別にいい」
テオの顔がゆっくりと笑顔に変わる。
私たち二人のやりとりを聞いていたリックが寂しそうに話に割って入る。
「俺だけ除け者みたいで嫌なんだけど」
私はリックの黒い頭を撫でる。髪質は柔らかくて、ふわふわしているリックの髪を撫でるのは結構好きだった。
「「大丈夫」」
私とテオの声が重なった。私とテオは吹き出す。つられてリックも笑い出した。
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