第7話 三人三様の反応

「テオバルト、君は賢いなぁ」

 キトの姿の魔王は身を捩ってリックの手を逃れ、華麗に地面に着地するとテオの足元までやってきた。

「そう、魔物は時に異常発生するんだよ。異常発生した魔物が散り散りに人の町を襲うと一度に多くの人間が死んでしまう。だから、魔物を一所に集めるということをしてるんだ。始まりは森の奥地に集まるようにしてたんだけど、何代か前の王が私欲で人の町を襲わせてね。それ以降、私欲だったり、政治的な策略だったりで、魔物を町に放ってるみたいだよ。それと魔王が魔物を生み出しているという説は各国の王家に真実として伝えられているよ。古い村のヤマタイにはそうではないことは伝わっているみたいだけど、伝承だからね。もう誰もそれを信じてはいない。人を治めるのに人類の共通の敵がいる方が都合が良かったんだろうね。わたしは人々の前に姿を現すつもりはないから、特に気にはしないけれど」

 キトの姿の魔王から語られる内容はとても信じ難いものだった。初めは森の奥地に集めていた魔物を王の私欲から人の町を襲わせるようになるなんて、どれだけの人間が王家に命を奪われてきたのだろうか?それを知るのは王だけなのだろうか?もし、その王の力を知り、私欲に利用しようとする人間が現れたらどうすのだろうか?

 私の疑問は私だけのものではなかった。テオが自分の中に生まれた疑問を魔王にぶつける。それは私の聞きたいこととよく似ていた。

「過去に私利私欲に走った王がいたということですか?それが今も受け継がれているということ?」

「そうだね、最初に村を襲わせた王が時々は人を襲わせて人口をコントロールせよといった内容の文献を残しているね。それは自分の私欲を隠した隠蔽工作なんだけど」

「王は王城を滅多に動かないし、王都より遠い場所で魔物災害が起こることもあります。ということは王だけでそれは実行できない。実行班がいるのではないですか?その人たちが勝手に魔物災害を起こす危険性はないのですか?」

「テオバルトは鋭いね。そうだよ、実行部隊が別にいる。実行部隊は何をしているのか分かっていないものがほとんだだよ。そして、その者達の命の保障もない。そうだな、実行部隊の半分は命を落とす。知っているのは幹部の数人だけだよ。その者たちにも悪用はできない。だって魔物を集めるには王の血が必要なんだから。あ、ちなみに騎士団はその部隊には入っていないよ。本気で王や国民を守るために隠されてるんだ」

 私たちは三人三様の反応をしていた。

「人口のコントロールとは……、自分達を神と勘違いしているのだろうか」空色の瞳に強い力が入る。テオは神という存在に対して少し過敏なところがある。

 リックの顔は血の気が引いていた。自分の先祖が私欲のために大量殺人を犯していた。そして今もそれは続いている。リックは自分が王家に生まれたことを誇りに思っていたから余計にショックを受けているのだろう。

 私は騎士団が関係していないと知り、正直ホッとしている。ザックがあの魔物災害を起こしているのだとしたら私はこれからどうすればいいだろう?王家の血筋をひく私だけど、現王には何の感慨もない。むしろ少し怖いとさえ思っていた。私の「怖い」という直感は間違っていなかったということでもあるけれど。

 突然に気づく。今のリックは騎士団が魔物災害を起こしていると仮定した時の私だ。これからどうすればいいのかわからない、大切な人に裏切られた気持ちになっている私だ。

 私はリックの背にソッと手を添える。同時にテオの手もリックの肩に載せられた。リックの足元にはキトの姿の魔王が体をすり寄せていた。

 私たち三人、テオと魔王と私は顔を見合わせる。

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