第4話 魔王が礎
その場の空気が一瞬、氷ついた。テオは真剣な顔をして魔王を見ている。リックがテオを穴が開きそうな勢いで凝視していた。私も衝撃を受ける。魔王とテオを交互に見た。
魔王が神なのか?それはどういうことなのか?疑問に思ってもすぐに言葉に出来ない。
テオは転生者だ。テオ自身から聞いたことはないけれど、彼の言動の数々が私の前世の記憶を呼び起こす。私も転生者だからこそ分かることだ。私自身は生まれる前の記憶を持っていることを十五年間誰にも話をしていない。奇妙な子だと思われていたことはあったようだけど、生まれる前の記憶を持っているとは誰も考えていないようだった。
そんな転生者であるテオだからこそ分かることがあるのだろうか?
魔王は首を縦にも横にも降らない。魔王もまたテオをジッと見ていた。
「僕は神と対峙したことがあります。肉体を持っている時ではなかったけれど……。あなたが放っているのは間違っても魔物と同じ禍々しいオーラではない。強すぎて魔物との区別は普通の人間には難しいかもしれないが、あなたの放つそれは神の持つ神気だ。あなたは魔王ではなく神なのでは?」
テオは真っ直ぐに魔王を睨みつけていた。神に対峙する態度でもないと思うが、テオの強い意志が感じられる。
「わたしは神ではない。残念なことに……」
魔王は少し視線を足下に動かし、悲しげ話す。
「わたしは元は君達と同じ勇者と言われる存在だった。以前の魔王に魔王を継いでほしいと請われ今ここにいる。魔王になって800年になるかな」
私たち三人は魔王の話に耳を傾ける。魔王の声は不思議と耳に心地よかった。
「魔王はこの世界の礎だよ。わたしの存在が消えてしまうとこの世界は崩壊してしまう。そうだね、人間や動物、魔物にとっての魔石がこの世界のわたしというところだ」
魔王はこの世界の魔石のようなもの。魔石は心臓と同じで人間も動物もそれがなければ生きていけない。魔力の源でもあり、身体を動かす原動力そのものだ。これは大変なことだ。魔王を討伐するために組まれた勇者パーティー。それはこの世界を救うためだった。それなのに、根本が間違っている。魔王を倒せば世界は滅ぶ。
「そんなの嘘だ」
リックが呟いた。「何のために今までやってきたのか分からない」そう続けた。リックは黒い瞳を見開いた。「いや、しかし、それでは先人の残した書物は何なんだ」ブツブツと呟き続ける。
私はリックのそばにより、背中を撫でる。私よりも何倍も大きな背中が小さく感じる。リックが泣きそうな顔をして私を見た。
「父上や兄上の信じている先祖の残した書物が嘘だと言うのか?」
リックは私たちの所属する王国の末の王子だ。すがるような目をして泣きそうな顔で私に問いかけるリックに私は頷いた。
「目の前のあの人が言うことが嘘だとは思えないよ。何でだろうね、あの人のこと信じられる。王家に伝わる書物は遠い遠い過去の言い伝えを文字に起こしたものなんだよ。間違うことだってある」
「リック、身内を悪く言われるの辛いかもしれないけれど、権力者と言うのは時に自分の都合のいいように歴史を改ざんすることがある。
フィラはリックに甘いよ。辛いかもしれないけど僕たちは勇者だ。真実を知らなければ」
テオがリックの肩を叩く。すがるようにリックがテオを見た。テオがリックの頭を撫でる。「お前なら真実と向き合うことが出来る」そう言っているようだった。
「全て話して下さい。僕たちは真実を知る権利がある。あなたは知っているはずだ。なぜ人間の世界で魔王という存在が間違って伝えられているのか。魔物災害がなぜ起きるのか」
「そうね、知っているのなら教えてほしい。そして、私たちはなぜ今ここであなたに対峙しているのか?も。だって私たちはあなたが望んだからあなたに会えているのでしょう?そうでなければ私たちはあなたに会えていない。そうですよね?」
私は、私よりも年齢が三つも上で体格も比べ物にならないほど大きなリックの背中をポンポンと叩く。年齢が上でも体格が大きくても、私にとって、リックは可愛い弟のような存在なのだ。リックが敬愛する父親である王、そして自分の先祖についてもしかしたら良くない話が出てくるかもしれない。それでもしっかりと受け止めてほしい。
私はリック左の手の甲に自分の手をソッと重ねた。
前を向くと、テオの手はリックの肩に置かれたままだ。私たち三人は、肩を寄せ合っていた。
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