第3話 魔王という存在

 私は魔王の悲しい笑顔に衝撃を受ける。美しいから普通よりも尚哀愁が漂うのだろうか。

ーかわいそう。

 反射的に心に浮かんできた。

 私の心の声が顔に出ていたのか、リックが咎めるように「フィラ」と声を上げる。私はハッとして、ピンクの瞳を大きくした。

 リックの顔が強張っている。テオがリックの声に反応して私を見る。テオの髪は汗で額に張り付いていた。

 魔王と呼ばれるモノと対峙するのはテオの精神力を持ってしても骨の折れるものだったようだ。私は、意外と魔王に対してそこまでの圧を感じていないように思う。

 二人に比べ平静だと思う。

ーたぶん。


「その魔王に関する認識は間違っているよ」

 静かな声だった。低くも高くのない耳触りの良い声。

「何が間違っているの?」

 私は何の抵抗もなく、疑問を口にする。

 リックもテオもどこか諦めたように私を見ている。

「まず、わたしは魔物を作りだすことはできないし、魔物を操ることもできない」

「ではどうして魔物はこの世に存在するの?」

「では、君たちはどうして今ここに存在しているの?」

 疑問に疑問で返される。その問いは難しい。なぜここにいるのか?生まれた時からずっと疑問に思ってきたことだ。なぜこの世界に生まれたのか。

「人間や他の動物が生まれるように魔物も生まれる。自然の摂理だよ。それに善も悪もない」

「でもじゃあなんで魔物は人間を襲うの?時々集団で村を襲うのはなぜ?」

「ただ単に弱肉強食の世界だよ。自然の摂理だ。ただ、魔物が集団で村を襲うのは……」

「なぜそこで口籠るの?やっぱりあなたが操っているのではないの?」

 私は魔物災害で亡くなった両親を思い出す。大事に育ててくれていた。愛を教えてくれた両親。その二人を村を襲った集団の魔物達に殺されたのだ。いや、二人はとても強かった。村の人を少しでも助けるために戦って死んでいった。私の自慢の両親。

 私の目には涙が浮かんでいた。

「辛い思いをしたんだね、ギプソフィラ」

「何が、辛い思いをしたんだね、だ!お前がしたんだろう!!人間のような顔をして、フィラを惑わすのはやめろっ!」

 リックの怒声が薄暗い洞窟にひびき渡る。彼は小刻みに震えている。怒りが頂点に達しているのか、それとも、魔王という存在と対峙していることへの恐怖からか。

「テオ!お前もそう思うだろう!」

 リックと違い、テオは静かだった。何を考えているのだろうか?テオの表情は固いけれど、怒っているようにも、魔王の言葉を疑っているようにも思えない。

 テオはその場の全員の視線を受けたまま、小さな声で疑問を口にする。

「あなたは本当に魔王なのか?神ではなく?」

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